77話
鮮やかに光り輝く爆弾が一度光を収縮し、再度膨張するのがスローで再生される。
轟、という音が耳に届く前に脳内に響き渡った気がする、それが気のせいだったか本当だったかはわからないけれど、音が耳に届く前に僕と巨大魚は水中から勢いよく吹き飛ばされていた。
ぐしゃ、という軽い音とごしゃ、とでもいうべき巨大な物が地に重力で縫い付けられる音が静寂を持っていた洞窟内へ響き渡る。
当然前者は僕、後者が巨大魚である。爆弾の威力は凄まじく、中央辺りに位置した巣穴の手前からミヅキ先輩たちが構えていた場所まで吹き飛ばされていた。
「コマイヌ後輩……グッジョブ」
「HP八割吹き飛びました」
しかも余波でだ。いくら僕のVITが低いからとはいえ味方が扱う爆弾でここまで体力が吹き飛ぶとは思わなかった。先ほどのように驚いて飛び上がり、地上まで上がったのとは違う、爆発による推進力で吹き飛ばされた巨大魚は立ち上がることができることも忘れたようにびちびちと地上を跳ねている。ただその巨大さ故に地と宙を上下するたびに、地響きがこちらにまで届く。
「あ、釣れましたですかー?」
ここまでのことが起きて三、いや四度だろうか、それほどの連続の睡眠から目覚めたドリさんが、何事もなかったかのようにベッドを片付け始める。マイペースの極みみたいな人だ。
「見ての通り、死にかけましたけどね」
「釣れたっていうより、かかった」
罠にかかったみたいなニュアンスで言いたいんでしょうけど、それ僕を餌にした罠なんですよね。ポーションをがぶ飲みしてなんとかHPを回復する。しかしポーションのクールタイムやらで時間を使っていた手前、巨大魚も再度起き上がり、また湖へ戻ろうとしていた。
戻ろうと立ち上がり、湖のほとりまで歩いた巨大魚の足元で小規模の爆発が生じ、再度転倒する。転倒した先で連鎖するように大規模な爆発が連なる。
「ミヅキ先輩」
「湖をグルーって囲む感じで設置した。地上用ならいっぱい余ってるから安心して」
それ巨大魚以外が踏んだらどうするつもりだったんですか。
もしかして僕の吹き飛ぶ位置が湖に近かったらと想像すると怖くて仕方がない。
「とりあえずフィッシングですよー、コマイヌ君、ごー」
いつも通り自分から動く気はあまりないドリさんの指令の元僕が飛び出す。まずは先ほど爆破された恨み……逆恨みだけど。横っ面に一発ボールをシュートするように蹴り上げる。強化されたSTR、そして蹴り上げる際に発動した≪スラッシュ≫の勢いも合わさりわずかに巨大な魚の顔を宙へ上げる。
顔が宙へ浮いた顔で、僕の方を睨みつける。横たわる体を魚らしくしならせながらわずかな距離を詰め、口を開く。びっしりと生えた鋭い牙と魚らしい感情が伺えない顔はそこはかとなく恐怖心を煽る。
「ちょっとどいて」
まぁミヅキ先輩にはあまり関係ないらしいが。地上に上がった時点で彼女のステージなことには変わりなく、わずかに開いた口の中に新たに何かを投げ込み、離れた。ちなみに僕はミヅキ先輩が離れる三倍くらいの勢いで離れた。ちらっと見えた投げ込んだものが、先ほど水中で爆発したものと似通った形状をしていた気がするから。
予想が的中したのか、先ほどと同じように鮮やかな光を発しながら巨大魚の臓器がありそうな位置で破裂音が響く。
発声器官がないからか叫び声はないが、苦しみを表現するようにのたうち回り、その移動で更にミヅキ先輩が仕掛けた地雷を踏み抜いていく。地上では敵わないと判断したのか、それとも単純に僕らから逃げようとしたのかわからないけれど、再度、しかし先ほどよりも素早く湖へ戻ろうとする巨大魚の背中に、ドリさんが魔法を放ち足止めしつつ声をかける。
「コマイヌ君ー、魚が逃げようとしてるので引っかけてくださいですー」
「引っ掛けると言っても、釣り竿じゃ……」
「何も魚を釣るのに釣り竿を使う必要はないのですよー」
何を言っているのか一瞬理解ができなかったがちらりと振り返った時に僕の腕を見たことから把握できた。両腕から鎖が付いた剣を射出し、顔の前を狙い空中で≪クロスカット≫を発動する。攻撃が外れたことにか、それとも眼前で剣が舞ったことに対してかはわからないが、驚き足を止めさせた。しかし攻撃が外れたことには変わりなく、巨大魚は歩みを進め始めた。
射出したほうの腕とは反対側の【素兎】へ、空中から落ちていく交差した剣を回収する。剣に付随したままの鎖はジャラジャラと音を立てながら両腕に戻ろうとし、巨大魚に阻まれ止まる。
巨大魚は煩わしそうにするが鎖をどかす腕などはなく、そのまま鎖に繋がった僕事湖へ引きずり込もうとする。
「ドリさん!ちょっときついんですけど!」
「とりあえず岩を立てておいたのでそこに捕まる形でお願いしますー」
「夢、睡眠デバフは」
「この魚寝ても動き続けるタイプか、寝ないタイプかわからないですけどー、全然効かないですねー」
話をしている最中、ずるずると引きずられていた僕の少し前に出っ張りのような岩柱が立てられる。鎖をその岩に巻き付けるようにし、さらに両足の踵に長く刃を展開、≪ピアス≫の交互連続発動をもって洞窟の床深くに刃を埋め込み、両足を固定する。引きずられるごとに両足に付いた刃の耐久値が下がっていく音が聞こえるけど、
まぁどうせこれ終わったら帰るし!リーシュ君もそのころには少しは手が空いてるだろう!
そんなことを考えているとドリさんが巨大魚の足元の僕の前に立てた岩柱と同様の柱、また前の戦闘でも見た泥沼を展開、そしてミヅキ先輩の分身が鎖が簡単にほどけないように、細く丈夫な糸で補強していく。
でもミヅキ先輩のそれ、本来補強用じゃなくて木々の間とかに括り付けて、通ろうとした人の首撥ねる用ですよね。
「地引網とか思い出すのですよー」
「夢参加したことあるの?」
「いや、まったくないですねー。ミヅキはー?」
「私も知らない人と共同作業とか、厳しい」
すごいフワフワした会話が繰り広げられてる。ちなみに当然僕も参加経験ないけど……いや、じゃあこの会話絶対広がらないじゃん、口を出すのはやめておこう。
数度目の糸による補強、そして鎖が絡みついたままの両腕の刃を地面目掛けて振り下ろす。足の剣と同様に何回も発動し地中深くにアンカーのように埋め、切り離す。再度展開した別の刃の腹で≪バッシュ≫を発動。釘を打つようにさらに埋め込む。これで刃はだいぶ消費したけど、自由に動ける。
「攻撃準備オッケーです!ドリさんは柱を補強していただけると助かります」
「了解ですよー」
「いつでもいい」
ミヅキ先輩が先に踏み込み、僕はそれを追いかけるように走り出す。いつも通り≪脱兎之勢≫≪ライトウェイト≫≪紫電一閃≫を連続起動。先に踏み込んだミヅキ先輩よりも早く到着し、切りつける。
「ミヅキ先輩、爆弾の位置ってだいたいどこですか」
「ちょっと待って。……ここ」
そういうと針を投擲し、カカカッと音を立て湖のほとりに突き刺さる。あの程度では爆発しないのか、よくわからないけれどだいたいの位置がわかった。
≪飛燕≫を発動、魚の背に跳び上がり剣を振り下ろすも、腹側や頭側とは違い、固いトゲの生えたヒレに剣を押し返される。さらに背に着地しようとすると、トゲが蠢き、位置を変える。いや、気持ちわる!
攻撃を躊躇った僕が着地するのと同時くらいに腹側にミヅキ先輩の針が突き刺さる。しかし剣とは違い針、あまり深手にもならないようだった。
「爆弾は」
「鎖がとれちゃうと思うのですよー、仕留めきれるならいいですけどー」
今吹き飛ばされると、勢いのまま鎖が外れてしまうかもしれない。ミヅキ先輩ががっちりハメてくれた糸により多少は補強されていると思うが、最悪爆弾の威力によってはそれ事吹き飛ばされてしまうだろうし。
最大火力となる≪一閃≫≪スラッシュ≫の連続発動により、ダメージを蓄積させるが、今回切り離した剣の本数が思ったよりも多く、≪二刀流≫による別種起動できる回数が少ない。
うーん、最大火力……そうか。結局はこれか。
「ミヅキ先輩、爆弾使ってくれて大丈夫です!」
「でも鎖……」
「仕留めれば平気ってことですよね。たぶん行けると思います」
現在僕が出せる最大ダメージを出すには、ミヅキ先輩の爆弾が今必要だ。ミヅキ先輩は行けるという文字列を聞いた瞬間には僕が水中へもっていったものや、先ほど口の中に投擲した物よりも巨大な、手りゅう弾などではなく砲弾のようなものを投げつけた。
起爆までの一瞬のラグ、その際に爆弾を踏みつけ、≪ハイジャンプ≫を発動。すぐにスキルの効果で高く飛び上がり、爆弾の推進力によりさらに上空へ飛び上がった。
「あいたっ」
余りにも高く飛び上がり過ぎて、頭を洞窟の天井にぶつけてしまったが、高さが必要なだけだったので別に問題はない。
手元にある剣を右腕に集め、体に引き寄せるように構える。≪空列閃≫を発動。
巨大な魚の頭部を落とすように、長く伸ばした刃を思い切り振り下ろす。部位破壊か、それともそういう撃破エフェクトかはわからないけれど、首のあたりを境目に頭部が落とされ、魚はポリゴンをまき散らしながら爆散する。
そして釣りで釣れる魚という特性か、通常のモンスターよりも多くの素材を結晶化させ、まき散らしていった。
三枚おろしにはできなかったけど、無事捌きおえた。ごちそうさま……いや、食用ならこれからいただきますか。




