57話
遊ぼうよ竜騎士。その言葉が聞こえてはいないと思うが、槍は完全にこちらを向く。そして竜の力を持ってして振るわれる槍は、頭、足、胴と順番に僕を穿とうと飛んでくる。しゃがみ、飛び、体を逸らし全てを回避する。
全てを完璧に回避することで、槍を引き戻す際に少し隙ができる。
そこへ今度は左に刃を展開し、お返しに≪ピアス≫で体を突く。ただ相手も、少し宙へ浮いた僕を今度こそ貫こうと槍を突き出す。
【Action Skill-chain : 《ハイジャンプ》】
ピアスで相手に触れているため、空中でさらにジャンプし、相手の頭上を飛び越える。
ただ少し読みと違ったのは相手は翼で空気を打ち、空気を持ち上げて飛んでいると思っていたけど、スーッと水中を移動するように僕を追いかけてきた。
竜っていうのは魔法的な何かで浮いているのかもしれないね。呑気にそう考えていると今度は槍のような直線的動きでは避けられるという判断か、右腕で直接掴みかかりに来る。
「ばいばい」
【Action Skill : 《シャドウアサルト》】
ただ悲しいかな、ボスとして高度なAIを積んでいるとはいえモンスター。目の前で一瞬でも消えるとヘイトを他へ移し替えるとプログラミングされているため僕に背を見せる。これがプレイヤーだったら消えたことを悟って適当に僕がいたところへ攻撃を振るうだろうに。
背を見せた竜騎士の翼へ踏みつけるように両足の剣を突き刺す。一発では剣がまったく刺さる気配がないため、≪スラッシュ≫で、≪ピアス≫で、数秒間に何回も叩きこみようやく突き刺さる。
ただ最初の予定だとこれで落とせていたのだけど、翼以外で空中の機動力を得ているみたいなので、これでは落ちないらしい。そして次の問題はというと、そろそろ僕が落下するということだ。
背後へいる僕を薙ぎ払うように尾が振るわれるが、足に展開していた刃を切り離し蹴り飛ばすことでいったん攻撃範囲から逃れる。さて、相手は自由に空中を飛ぶモンスターで、空中では動けないはずのプレイヤー。周囲には崖肌と、枯れかけた植物くらいしかない。対モンスター緊急離脱スキルとなっている≪シャドウアサルト≫も現在はクールタイムだ。
数回にもわたる攻撃で完全に怒っている竜騎士がこちらを向く。ただ翼に剣を刺した意味はあったのか、少しくらい機動力が落ちている、気がする。
右腕を反対の宙へ向け、左腕を竜騎士へと向ける。
「まぁ、止まらないよね……」
プレイヤーだったら警戒するだろう予備動作も、これまたモンスターには意味がない。まぁこれに関しては厄介な方で働いてるけど。勝手に警戒してくれないのだから。なので竜騎士へと向けた左腕、その刃を眼前に射出する。驚きこそしないと思うが、余りダメージにもならないそれは槍を振るって叩き落とされる。
しかしその程度の時間があれば十分だ。左腕から剣を射出すると同時に右腕から枯れた木へ向け剣と鎖を伸ばしていた。生木ではなく、枯れた木には剣はしっかりと刺さった。≪ライトウェイト≫を起動、こちらへ猛進する竜騎士よりも早く、全てが軽くなった僕とその装備が枯れ木側へ引き寄せられる。
余り体重をかけすぎると折れてしまいそうな木だけど、今の軽い状態なら問題なさそうだ。川辺でやっていたように足に刃を展開し、木の上に立つ。さて、着地もできたしスキルのクールダウンもだいぶ解消された。
こちらへ向かってくると思った竜騎士へと目を向けると、息を吸い込むような動作。そして口の端から漏れ出るように出た黒いエフェクト。いやもしかしてそれ人の形態でもできるの?咄嗟に左腕を地上へと向ける。
「いや、それちょっと待っ」
【Action Skill: 《哭竜咆哮》】
できたらしい。しかもスキルに昇華されてる。僕を焼き尽くさんと向かう炎を、刃を収納して木から≪ステップ≫で飛び降り、回避する。左腕から地上へ向け鎖を伸ばす。先ほど目くらましに使い叩き落とされた剣へ鎖が届き、巻き取られることで着地する。ついでに刃も回収。すぐさま【素兎】に収納する。
視線を外した瞬間に、竜はこちらに詰めてきている。完全に僕にしかヘイトがない感じだな。
【Action Skill : 《刻槍・二ノ型》】
槍を両腕で握り、上から全身を貫くように落下してくる。他のゲームでも見たことあるけどこのモーション、実際に相対した時絶対に避けやすいと思ってたんだよな。半身逸らすことで槍を躱す。もし僕の髪の毛や皮膚に明確なダメージ判定があったのなら、数本ちぎれ、薄く裂けていたかもしれない。それだけギリギリでの回避、そして相手は槍を地に突き立て、引き抜く瞬間。
「つまりチャンスタイムだ」
右腕を宙へ向け、そこから伸ばした鎖を相手の背中に突き刺さったままのうち一本の刃に接続、左足の刃にエフェクトを纏わせ、斜めに切りつける。発動したスキルは二刀流のスキル、≪クロスカット≫。つまりもう一つの剣が必要なスキルだが、その一本はすでに出ている。鎖から刃までにエフェクトが付く。独りでに動き出すように刃は背中から解き放たれ、竜騎士を切り裂く。
まだ抜き出した程度か。警戒心が薄いのか、単純に槍を引き抜くモーションが悠長なのかは知らないけれどまだ続けられる。右腕の鎖が繋がった剣で≪スラッシュ≫≪ピアス≫≪バッシュ≫のスキルを連携させて発動させる。単純に連続攻撃をしたわけではない。スラッシュで体を半周させ、ピアスで前方を通り抜け、バッシュで一回転させた。そう、鎖を竜騎士へ巻き付けたのだ。
この段階で槍を抜き終わり、空中へと飛び上がる竜騎士。そして馬にロープを巻き付けた人のように、無理やり空中へ引きずられる。あー、一応鎖とはいえ軽い金属にしたし耐久度平気かな。ただここまでは狙い通りだ。
空中へ着いてきた僕を今度こそ空中で仕留めようとする竜騎士だが、その体は鎖に巻き付かれている。煩わしそうに振りほどこうとするが、それよりも早く僕が鎖を引き寄せる。当然抵抗する竜騎士に力負けをするため、くるんと竜騎士の周りを一回転し、遠心力で竜騎士の頭上に位置する。空中で体勢を整え、翼に突き刺さったままの剣二本に向けて、両足を落とす。カチャン、と刃がはめ込まれた音と共に、エフェクトが付く。
「暴風さんが待ってるんで、落ちてもらうよ」
【Action Skill : 《空烈閃》】
それは体重をかけたのしかかりというべきか、プロレス技で言うとムーンサルトフットプレス、かな。ただそれに地上まで落ち、上空から出すほど威力の高い技が追加される。高度を落とすごとにダメージ判定が発生し続け、判定のたびにガガガガと音を立てながら竜騎士もろとも落下する。
地上に落ちた瞬間に最後のダメージエフェクトをまき散らし、地面にクレーターを作る。そして先ほどの竜でもわかったが、空中からダメージを与えられて墜落させられた場合、少し硬直が発生する。
まぁ竜だけでもしかしたら竜騎士の方にはないかと思ったけれど、そんなことはなかったらしく、四肢を立てようと宙を掴んでもがいている。僕は連携させたスキルの硬直やら落下硬直やら、まぁそんなないけどちょっと動けないし。とどめは譲ろうと思う。
「じゃあ、後は任せました」
心の中ではバトンを渡す様に、ハイタッチするような気分でそれを見送る。先ほどよりも風が渦巻いているように感じる剣を手に、二つ名を持つプレイヤーが行った。
◇
確かに期待はした。俺と戦った時の戦力差を考えればもしかしたらあいつはって思ったところもある。ただ下された結果は予想以上……いや、予想外だった。この戦闘が終わったらあいつにも、この戦場にいるらしい技術担当にも詳しく話を聞かにゃならねぇと心に誓う。
ただ今はそれよりも考えることがある。最高峰のパフォーマンスでバトンを渡してくれた坊主に、盛大な華を見せてやらなきゃならねぇ。
【Action Skill : 《燕牙暴風》】
この世界にも存在する大気、そしてそれを揺らし、押すことで生まれる風。それらすべてが敵となるスキルに、剣を振るい続けることで剣自体が風を纏い、大気の渦。竜巻ができる剣を合わせる。坊主のPSで小技を繋げ、大技に変えるスタイルと違うが、俺としちゃちまちましてるのは性に合わなかったし、適当にやってりゃ最後には全部終わるこれが一番性に合ってる。
すっかり風を失った剣を、背中の鞘に戻す。少し残った風が鞘の中で散るように、フッと音がなった。
風の音と共に、大きな翼が崩れ落ちる音がした。
ちなみに一の型は騎士を先に倒した竜主体の場合に使用します。




