表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/78

54話

「ほーん、じゃあアカリちゃんは斥候職なんやね」


「は、はい。地図士に、隠密に、偵察とか歩法とか色々取ってたら少し器用貧乏になっちゃったんですけど……」


「いやいや、そういうプレイヤーこそ必要と言われるものだよ。自分からは選択しづらい、素晴らしいビルドだ」


「シャー、なんか気持ち悪いね」


 雑談に花が咲いている。時折僕が相槌を打つとそういえばいたなみたいな雰囲気が醸し出され、少しの間雑談が停止するのが何とも寂しい。フレンド申請を受理してくれたことや、僕が出す話題にも一生懸命返そうとしてくれることからそこまで僕が苦手というわけではないのだろうとあたりをつけている。というかぶっちゃけ本人になぜそこまで怯えてるのか聞いてみたところ怯えというよりは大半が緊張らしい。


 なぜ僕にそこまで緊張を……と思ったけどPKしたからか?うーん、わからん。


 それにしても地図士に偵察、隠密か。この討伐に参加している時点でそこそこクラン内では高レベルなのだろうが、あの低レベルの僕にワンコンされていた理由がわかったな。耐久がおそらく僕並みで、しかも僕よりも防具が薄いのだろう。そりゃ暗殺できるわ。


 その後もwiki'sの話していい程度の内情やウチのクランの話していいのかわからないグレーな部分まで話し合っていると前方の方がざわつき始める。アカリさんがオネーチャンさんに呼ばれて地図を確認し始める。前方の会話を聞くにモンスターが出現するポイントはここら辺らしい。


「そういえばハナミさんってこういう時どうするんですか?」


「今日はガチョ君がお休みやし、【ユミナリス】のユミコとかやな~」


 ユミコて。まぁ弓扱いの召喚獣なんだろうけど。リスで、弓?相変わらずこの人の戦い方意味わからないな。そして最初のフェーズが出番と言っていたリーシュ君はというと……手斧を構えていた。


「え、斧なんて何に使うんですか」


「投げるんだよ」


 投げる、投擲のことだよね。え、斧投げるの?切れ味鋭そうだし、結構いい素材使ってそうだけどその斧投げるんですか。


「ふっふー、よく見てこの斧!刃の部分が広くて柄の部分が短い、しかも重心がこっちに寄ってるから投げると放物線を描いて、刃が刺さりやすいの!それで、すっごい薄くて鋭く作ってるから、耐久度とかはないんだけど投げて……」


 ああ、なんか長くなりそうなんでそれくらいでいいです。つまり投擲用の斧なんですねそれ。遠距離攻撃って投擲だったのか。ミヅキ先輩といい投擲好きだな。


「元々ミヅキねぇに教えてもらったんだよ~」


 あの殺人投法が師匠なら安心ですね。でもそれ人への当て方とかじゃなかったですか?僕あの人がモンスター相手にしっかり投擲してるところを見たことがないんですけど。


 うん、何度想像しても狙う部分が人体の急所とかなイメージがある。いや急所を狙えるならそれでいいはずなんだけどなぜだろうか。


 話していると前方からアカリさんが戻ってくる。やはりこの場所で間違いがないそうだ。地図士使わないと開始位置がわかりづらいクエストとか、めっちゃ前提多いところとか、もしかしてこのクエスト推奨レベルとかもっと上なんじゃ……


 少しばかりの不安が僕の脳をよぎった所で、別にこのクエストが延期になるわけもなく、隊列が組まれ始める。遠距離攻撃手段がろくにない僕は同じような前衛戦士たちの集まりに加わる。アカリさんも特にやることがないのか、このグループだ。ちなみに視線は逸らされる。


 まぁ最悪暴風さんとかそのクランの人が何とかしてくれるだろう。たぶん前線組ってもっとレベル高そうだし。


『竜騎士の慟哭が響く……古に沈みし竜を嘆く音が響いた』

『DANGER!ボスモンスター出現まであと十……』


 クエスト特有のシステムメッセージが流れると周りの雰囲気が変わる。先ほどまでは谷、山?何もない荒れ地のような場所だったのだがいたるところに激しい戦闘の後が見られる焼野原が現れる。辺りにはゲーム特有表現の若干ぼかしが入れられ、鮮明ではない戦士たちの死体が転がっている。


 そしてカウントダウンが進むたびに地面が脈動し、ついにそのカウントがゼロになった瞬間、暴風をまき散らしながら地面から弾丸のように黒い影が飛び立った。


『RAID BOSS【哭竜騎士】』


「撃てーッ!」


 上の日を覆い隠すような光を飲み込む漆黒の巨体をした竜に、二メートルは超えるであろう騎士が跨り出現した。僕がそのモンスターを認識していたころには、暴風さんたちは準備を整えており、一斉に射撃が開始される。


 色とりどりに光る各属性の魔法の色、スキルエフェクトが乗せられた弓や投擲。すべてが巨体である竜の体に吸い込まれていく。


『おおっ……我らが友は何処……戦場の洗礼を……』


「変化!タンク前へ!」


 上空から響く悲しみを帯びた声、これは……ボスモンスターの声?何をトリガーに発されたのかわからないけれど、騎士の声が響いたと思った瞬間に上空から巨体で隠していた太陽を落としてきたかのような爆炎が放たれる。ただ求心のペンダントとタンクによるヘイト奪取スキルは無事に機能しているようで、僕らや後衛勢に飛んでくることはなくすべてが前方に落ちていく。


「ひえぇ……」


 そして後方に控えているアカリさんは怯えている。この人僕じゃなくても怯えるんだな。実際緊迫した場面だけど特にやることないし雑談でもしてるか。


「すごいですねあれ。僕だったら消し炭ですよ」


「一番硬い人たちに求心のペンダントが渡されてるみたいですし、最前線のタンクが横並びなので……ごめんなさい」


「謝られても」


 別にミヅキ先輩と違って積極的にPKする人ではないんですよ僕。人が死んでるところが見たいサイコマーダーとかじゃないですから。ミヅキ先輩もそんなことはないだろうけど。


 それにしても求心のペンダントはここで使われていたのか。そういえば装飾品って壊れるのかな、この戦闘で壊れたら損害が大変なことになりそうだけど。

 いや、リーシャさんならそこからむしり取るか。なら平気だ。


「アカリさんってここに配備されてますけど戦闘っていうのは完全にできないタイプですか?それとも多少は戦闘スキルも振っているタイプですか?」


「いや、多少は短剣とかも取ってますけどほとんど戦力外で……すみません」


「だから謝らないで平気です」


 横に並ぶ人たちを見ても強そうな剣を背負った人とか、逆に一切戦闘できなさそうな、なんでいるんだろうって人たちも混じってて不思議だったのだ。


「私たちは情報班……戦闘からパターンを割り出したり、安定した攻略法を考える班です……ごめんなさ」


「謝らないでいいですからね」


 なるほど。カメラを回したり写真を撮ったりして今後のクエスト攻略に役立てるためのプレイヤーたちらしい。アカリさんも僕と話しながら竜騎士の過去に取った戦闘パターンや写真に違いがないか確認してる際中らしい。


 あれ?もしかして僕邪魔してる?


 コネで参加させてもらった上に邪魔をしていることに気が付いたのでここらへんで戦闘をしているうちのクランメンバーを探すことにした。


 事前に言っていた通りハナミさんはタンクの後ろから弓を打っている。周りの人たちに比べるとやや小ぶりの弓で、どちらかというと手数で攻めるタイプらしく飛び回る竜へしつこく当て続けている。でもそれ飛ばしてるの木の実っぽいですけど、本当に弓扱いなんですか。後で聞いてみよ。


 弓といえばその隣に並んで弓を放っているのが初めて戦闘を見るリーシャさんだ。ただ使っている弓が明らかに高そう。なんというか、見たことがない作りなのだ。明らかに最新式のですよーって感じ。周りの人たちを見比べても最前線の暴風さんたちの弓と遜色がないように見える。

 たぶん買い取ったんだろうな。あれも高そう。


 ちなみに変わり種のリーシュ君は本当に斧を投げていた。命中率は五分といったところだが、当たるたびに高らかな音とヒットエフェクトが出ているところを見るにダメージは高いらしい。しかもその斧をミヅキ先輩の針と同じように次から次へと手元へ出現させている。

 よく耳を澄ますと


「素材代はシャー持ちだから投げ放題だー!」


 とか聞こえるので普段はあんなに高そうな斧を投げれないのだろう。途中wikiの人たちが少し勿体なさそうにリーシュ君のこと見てましたよ。


 そして問題の竜はというと……かっこいい。

 そうじゃないか、どれほどのダメージが出ているのかわからないがスキル名が叫ばれスキルが放たれ、詠唱が終わり魔法が放たれ、それらが全て着弾し終わると小ひるみが発生しているのを見るに体力は削れているらしい。

 体を縦に伸ばし、上昇したかと思うと翼を羽ばたかせながら口元に炎を溜め始める。そしてその後ろで騎士が先ほどまでと違う長文を詠唱している。お、何をするんだろう。


「あれ?新モーション……」


 隣の情報班、アカリさんがポツリと漏らす。前回のwikiの人たちだけの討伐では出てこなかった行動らしい。まぁどう見てもあれ……


「たぶん範囲攻撃です~!逃げれる人はフィールドの端まで退避~!」


 まぁですよね。口元の炎が漏れだしたところで大規模な魔法陣が竜の背に現れ、口元を下へ向ける。


 まぁフィールドの端まで悠々と移動できるし、僕は安全だけど……


「え、え?」


 逃げ遅れたアカリさんと目が合う。その瞬間に上から轟音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ