28話
「もんって何」
「そこ深く突っ込むところでもないです」
無事スキルを取得する時に送ったミヅキさんへの「あと数秒で仕掛けるので支援お願いします」というPTメンバーチャットが届いたようだ。事前に聞いていたのだがPTチャットは戦闘中でも見れるようにできているため、何かあったら送れと言われていた。
ミヅキさんはあの後森の中に誘導した敵を全員均等に削り続け、リソースが尽きるまでひたすら投擲や爆破による嫌がらせを繰り返し、そのまま相手のHP・MP共に削れたところで一か所に集め、最後に聞こえた巨大な爆発音で全員吹き飛ばしてきた、と。
その後すぐに駆け付けなかったのはアイテムを回収していたからで、僕がPTチャットを送ったためアイテム漁りを中断してきてくれたらしい。
送ってよかった……
「それじゃあ、これからどうしますか」
「アイテムは回収する。報酬が出るとはいえ今回物資を使いすぎた」
まぁあれだけ爆弾や罠をしかけていればそれはそうだろうな。そう言ってミヅキさんは地面に落ちた袋や使い残した罠などを回収し始めた。僕も先ほどの姫と巨漢の袋を漁る。僕の知識では何がいいものかなんてわからないけれど、まだまだインベントリには余裕がありそうなので回収していく。さすが姫、ゲーム内マネーはとんでもない量持っているな。銀行みたいな預けシステムとかないのか……と思ったけど、あの人たちPKだった。あったとしてもたぶん使えないな。
また小爆発の音が聞こえ、そちらの方を見ると洞窟の前でミヅキさんが何かを燃やしていた。何かと思い近寄ると洞窟の入り口を完全に封鎖し、いらない物資を燃やしているらしい。
「ここでリスポーンしないように念入りに塞いでいる」
「ああ、洞窟内部爆破したのって嫌がらせのためじゃなかったんですね」
そもそも外におびき寄せるためだけならここまで必要なかっただろうからな。結局のところミヅキさんが何をしていたかは全然わからなかったけど。
「そういえばミヅキさんってなんであんな自爆して平気だったんですか、分身するスキル?」
「……まぁいいか。そう、私が操作する分身を作るスキル。いっぱいは作っても動かせないし、MPも結構使うからあんまり使えないけど」
へー、そんなスキルだったんだ。汎用性高そうだと思ったけど育てないと使えないスキルだったんだろうな。そういう複雑なスキルほど後半にあると聞いた気がする。そう言われればミヅキさんは針投げや爆破がメインの攻撃で、スキルを使った攻撃は最初の方に使った針で≪串刺し≫にするスキルくらいだったっけ。
「でもMPポーションみたいなの飲み続けて分身出し続ければ最強じゃないですか?」
「まず現実の脳が疲れる。次にMPをそんなに回復してくれるポーションが今のところない。最後に分身を操作できる範囲が意外と狭い」
なるほど、本体からめちゃくちゃ離れたところには分身は出せないと。洞窟爆破の際も僕が通りがかりの人を瞬殺しているときに分身を出して、本体はあのあたりで待機していたらしい。そして爆破を実行した後に急いで出て、罠を張り巡らせていたと。
この人姿を隠すところとか、分身するところとか、全体的に忍者みたいだな。
「じゃあ今は本体なんですね」
「分身はそんなに出すものでもないし、そう」
「へぇ、そいつはいいこと聞いたな」
という声に嫌な予感を感じ、反射的に刃を右腕に展開し、中腰でアイテムを漁るミヅキさんをかばうような形で振り上げる。
「ッ…おっも……!」
こちらの剣ごと押し通そうとする剣を押し返そうとするもSTRの差から押し切られそうになる。しかし押し合った一瞬でミヅキさんが離脱してくれたことにより剣戟を下に流し、僕も一度全力で跳ね退く。
そこで初めて相手の全貌を把握する。受け流した剣を余裕そうに肩に担ぎ、こちらを見てへらへらと笑う大柄な男性だ。おそらくPKクランの一員でもないし、僕の知り合いでもない。一体……?
「初狩りクラン討伐に来たら爆発してるしよぉ、なんかわからんけど【鼠返し】もいるし、しかも珍しく本体がいるってんでおじさん剣振っちまったよ」
「【鼠返し】……?」
「私の二つ名みたいなの。恥ずかしいからやめてほしい」
「おいおい、MMOでスレで話題に出るだけすげぇもんだぜ?誇ってけよ」
ミヅキさんとこの男の人は多少の面識があるらしい。というかミヅキさんスレとかで呼ばれるほどの二つ名とかあるの?かっこよすぎない?
ちなみにミヅキさん、お知り合いなら紹介欲しいんですけど。
「何しに来たの……【暴風】」
「意趣返しのつもりかぁ?俺は二つ名貰って嬉しい限りだけど」
そういって肩に担いでいた剣を片手で軽々振り回しこちらへ向ける。剣を振るうときの風音や剣の圧力から、明らかにミヅキさんたちと同等の、おそらく最前線を進む人たちだろうことがわかる。
「俺ぁwikiんとこの坊主がここのにボコボコにされたってんで、いい加減潰しに来たんだがぁ、【鼠返し】はいつクラン移転したんだ?」
「先にここのクランは私たちが潰した」
「んだよ、じゃあ骨折り損かよ……と、そういえばおめぇらがいたんだったな」
僕とミヅキさんの方を見て笑みを強める。僕たちは何もしていない一般プレイヤーですけど。
正直なところこの人は悪い人ではないのだろうけど、何かとてつもなくめんどくさそうな臭いを感じる。まだ付き合いは短いけど、お酒を飲んでるハナミさんとか、僕を殺そうとしてきたミヅキさんとか、武器を作っているリーシュ君のときのような……めんどくささが。
「そういえばお前らだけに聞いてて俺たちのことは紹介してなかったな」
そういうと剣を上にあげた。何らかの合図だろうか、そう思った瞬間にこちらへ矢と魔法が飛んでくる。矢は弾き落とせるが魔法は避けるしかない。ミヅキさんはと思うとすでに回避する体勢に入っているので遠慮せず先に飛んできた矢を弾き、魔法を回避する。
【暴風】なる人がそれを見て口笛を鳴らすと、合わせたように森の中から数名のプレイヤーが出てきた。しかしまだ姿を現さないだけで、何人かが森の中に潜んでいるような気配を感じる。
ただ数名出てきたプレイヤーの中に、見知った顔を見つける。
「wikiのところって……オネーチャンさん」
「……?ああー、AGIに振った初心者の子~?なんでこんなところに~」
「おいおい初心者でもう矢見切ってんのか?将来有望だな」
僕のことを思い出したオネーチャンさんに、続くように神経質そうなメガネの男性と巨大な剣を担いだ女性が出てくる。
「シュヴァさんの指示でスキルも乗せずに弓撃ったんですからね。本気で撃ってたらAGI振りの初心者なんてもうやれてます」
「うっせーぞーメガネ」
「あ、やんのか?」
「はいはい、喧嘩なら違うところでやってね~」
急ににぎやかになってきたけれど、全員の注意は明らかにこちらへ向いている。さてなぜだろう。僕らはPKクランを倒した優しいプレイヤーのはず。
「ごめんねー、私たちのクランの子が~、偵察中にこの洞窟内でキルされちゃったの~。知らない?」
…………。もしかして洞窟内で遭遇したPK以外のプレイヤー。ミヅキさんが発見して僕が瞬殺してしまった、あの。僕程度で瞬殺だったのは偵察のために隠密などに寄っていたからで……あれ?
「ついでに有名なPKの【鼠返し】さんもいると来たもんだ」
そしてハナミさんが言っていたように前線でも悪名高い僕らのクランの忍者さん。深く息を吸い込み、吐き出す。
あれ?もしかして僕ら一般的なプレイヤーじゃない?
ちょっと短いです。
先日初めて誤字報告機能を使用していただきました。感謝しつつ便利さに驚くあまりです。




