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10話

 あのまま話すのも、という話になり手頃な岩に腰掛け話をすることになった。正直な話AGIの限りを尽くして逃げ去りたい。

 ハナミさんはインベントリから結晶を取り出すとオブジェクト化した。この臭い……お酒?


「コマイヌ君も呑むぅ?」


「あー、一応未成年ですので」


「カーッ!まーた候補まで未成年かいな!酒飲み友達が増えんわぁ」


 このゲームお酒作れるんだ。というか未成年にお酒を勧めるのはどうなんだ、年齢制限というか、倫理的に。


 そんなことはお構いなしにハナミと名乗った女性はグイッとお酒を飲み干し、杯を口から離す。するとまたアルコールの臭いがたちこめ、また杯を傾け飲み干した。


「あー、美味し。いくら飲んでも現実に響かないのは最高やな!」


「ハナミ、お酒臭いから離れて」


「んもー、ミヅキちゃんもいずれ付き合いとか飲むことなるで〜?今のうちに慣れときぃな」


「ハナミみたいな人とは関わらないから」


「釣れへんなぁ」


 先程までの戦闘の雰囲気は何だったのかと思うほどに和やかな空気が流れる。ミヅキさんも相当お酒が嫌なのかハナミさんから離れ、僕の腰掛けている岩へと座った。


「あのー」


「ん?このコップ?ええやろー、ミヅキちゃんの針とおんなじでなぁ、使うとインベントリから自動で補充してくれるんよ」


「いやそっちではなく」


「コマイヌ君まで冷たくせんでよ〜」


 期せずして針投げの仕組みを知ったがそちらではなく。結構この人めんどくさい人だな。ゲーム内でも酩酊状態になれるのだろうか。酔っぱらってる感じではないとはいえ。


「勧誘の件なんですけど」


 殺しかけておいて勧誘とは、だ。明らかに手加減してくれたみたいだけどそれとこれでは話が違う。


「そやったそやった。コマイヌ君って本当に1stキャラなん?」


「まぁ、サブキャラどころかVRすら未経験ですね」


「おおー、有望株やんな。知り合いとかおったり勧誘受けてたりはしないやんな?」


「しない、ですね」


 オネーチャンさんのところで本当に入るところがなかったらうちに、と言われたけれどあれは新規の訪れた人全員に言っているらしいしそもそもフレンドはみんな経験者とか先行してるプレイヤーばっかりだ。


「そゆことで、うちも新規開拓ってんで勧誘してんよ。特殊なクランやから合いそうな人をざっくりとな」


「特殊というと、PKとかいう?」


「ああ、ちゃうちゃう。それはミヅキちゃんだけや。うちはそんな人ヤらんわ」


 そんなになんだ。たまにPKするんだ。


「うちの方針はやりたいことやる!やからな。ミヅキちゃんのやりたいことがPKなだけや」


「ハナミとあなたも入ったから」


 そんな低い声でターゲット宣言しないでほしい。それも耳元で。


「はぁ……とりあえず理解はしましたけど。それでなんで僕に?二人共強そうだし、新規より進んでる人のほうが……」


「第二の街行っとるやつとかになるとうちらの悪名知れ渡ってるか、そもそもどっか所属しとってあかんねん」


 そう言ってけらけらと笑うがそれを今告白されたら僕も怖いのですが。今のところメンバーがアルコール中毒か殺人鬼だし。


「加えてうちらはなんかしらのモチーフ決めようなった時に、みんなスキル持っとった干支にしてな。うちが虎、そこのミヅキが鼠、あと羊とか」


「僕は兎枠ですかね」


「犬でもええけどな。コマ”イヌ”君やし」


 しまった、コマイヌって名前にしたのがここで響いてくるとは。

 ミヅキさんが静かに話を聞いていたかと思うと不満げに一言だけ付け足す。


「あと戦闘力」


「そやったそやった。ミヅキちゃんからの条件は戦闘力やったな」


 なるほどなるほど。まぁ真意とかどこで僕のこと見つけたのかとか疑問はいっぱいだけどとりあえず相手側の理由は知ることができたな。


 うん、正直全く惹かれないしさっさと帰りたい。


「この件はなかったことに……」


「いやいやそりゃないやろ!ほら!うち可愛い子もいっぱいやで!」


「見たことないですけどそんな変な店の客引きみたいな勧誘あります?」


 変にカタコトに発音されるから急に胡散臭さまで加わったし。


「今ならミヅキちゃんも付けちゃうで!」


「コロス」


「いやこんな野蛮な付録いらないです」


 ファービーもびっくりの鳴き声だ。

 その後もあれやこれやあの手この手で気を惹こうとしてくれるのだが全く惹かれないし。この人たぶん原動力がお酒だから僕と全然合わない。


「もう、全く惹かれないので逆に質問していいですか?」


「おうええで!うちの3サイズからミヅキちゃんの3サイズまでなんでもこいや!」


「マジコロス」


「結構です……えっと、そもそも何が目的のクランなんですか」


「やりたいことするが本当に最終目標やから?ほぼクランってより会合やな。思い思いに好きなことして、たまに手貸し合うみたいな」


 なるほど。それはまぁ悪くないことかもしれない。基本ソロプレイができてアドバイスを求められるのはありがたいし。


「じゃあ次は……クランの皆さんは何をやってるんですか」


「うちは酒造り。酒の素材になりそうなもん探しとって、情報交換したり素材とるの手伝ったりやな。ミヅキちゃんが対人やろ?クラン規模のPvPイベント参加したい言うてうち入ったな。他は…羊は安眠だとか、鳥は武器作り、猪は……ようわからん。でも頑張っとる」


「例えば僕は目一杯この世界を旅するのが目的なんですけど」


 できれば走り回って。


「じゃあうちピッタリよ!邪魔するやつはミヅキちゃんが殺害して」


 いきなりとんでもなく物騒。


「モンスター素材はうちがぶんどるし、武器は鳥が作って、そんでもしなんかやらかしても猪が対処する」


「猪さんがとんでもなく苦労してるのがわかりました」


 話を聞いていると悪名高いのだいたいミヅキさんとハナミさんでは?

 でも倫理的というか悪名高ささえ気にしなければ、今のところ生産も情報も攻略も手伝ってくれるという優良クランだ。しかも規模がまだ大きくないのに攻略も進んでる。

 ただグレークランか……


「わーった、なんと今入ってくれないと、うちが止めたこのミヅキちゃんが粘着します」


「コロス」


「入ります」


 ここにきてシンプルな脅しだった。少し入ろうかなという気分になっていたのに。というかそれはこのゲーム的にありなのか。

 外で話しているとちょくちょくMOBの襲撃が起こりえるので街中へ戻ることにした。歩きながら他愛もない話をする……というかゲームの情報を収集する。


「クラン関係ない質問なんですけどこのゲームPKのペナルティとかないんですか?」


「まぁPKした人数に応じて、殺されたときにアイテムとお金ばら撒くちゅうんがあるなぁ」


「へー。なんとなくのイメージですけど、VRMMOにしては軽いですね」


 そもそもVRMMOでPKがあるとは思わなかった。いきなり襲われたらトラウマになる人とかいるんじゃないだろうか。


「ああ、でもカルマ値?ちゅうんかな。やり過ぎると街中に入ろうとするとお仕置きNPCみたいなんが湧いてでよるし、NPCショップでいい顔されんこともあるらしいな。というかうち以外やとPK専門クランに入っとるやつくらいしかPK見んなぁ」


 NPCとのコミュニティ難に加えてPKKのNPCか……大変なんだな。いやマジでこのクランなんなんだ。


「ちなみにミヅキさんはどうしてるんですか?」


「脅せばなんとかなる」


「極めて原始的答えですね」


「ミヅキちゃんだけやっとるんが世紀末なんよなぁ」


 実際にこの後街の中に入るとき門番にハナミさんとミヅキさんだけ検閲を食らっていた。どうするのか見てると裏に連れ込み針とトンファーのような物を突きつけ門番を脅している人たちがいた。


 知り合いだと思われたら僕まで疑われそうなので知らないフリをして入る。


 街の中で合流すると連れていきたいところがあるらしく二人に先導される。時々NPCらしきショップ店員がこちらを見て目を逸らすのが僕には気まずすぎる。


「ついたで」


 串に刺さったお肉の焼ける音、タレが火で焦げるいい匂い。ここは……ローステンさんの屋台?


「おっちゃんさっき買った少年見つかったわ~」


 僕のこと売ったのおじさんかい。


「コマイヌ君は表の顔しか知らんやろうけど、これ【肉屋】所属のローステン、【肉屋】ってのは表の顔肉屋で裏の顔情報屋っていう集団やな」


「あんまり大きな声で話さないでほしいんだがな」


 なんでもPKクランやPKKクラン、それらに似たハナミさんたちのクランのような相手を対象に色んな情報を売り買いしている怪しい集団だとか。


 情報屋って小説とか漫画ではよく見るけど成り立ってるんだな……すごいな……。


「だいたいがほぼコミュ強集団や。NPC含めて話聞きだすんがうまいやつらってだけやで」


「効率的に情報を収集すると言ってほしいな」


 そういうとハナミさんはお金の入った結晶をローステンさんに渡した。ここの用事はこれだったようでまた来るわ~と気軽な挨拶をし離れた。

 そしてそのまま裏路地に進み、壁の一部を押すとそこが崩れ通路が現れる。


「ここからが連れていきたかったところや」


「早く入って」


「えっと、ここは」


 崩れた通路を進むととたんに視界が明るくなり、光が収まると唐突に木造建築の家の中に現れた。


「ここがクラン、≪十二支≫のホーム」


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