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98 火の神様の思惑

 

 もぐもぐ。ねっとり、しっとり。

 さすが安納芋(あんのういも)。甘いっ!


「不便な体でだいぶ懲りたろ。そろそろウィルを引き渡す気になったか?」


 夕方、落ち葉を燃やしてみんなで焼き芋をしているところに、火の神様がふらっと現れた。

 真っ赤な髪をかきあげて、偉そうに見下ろしてくる。

 

 思わず熱々のお芋を投げつけちゃったのは、反射的なあれであって──断じて狙ったわけではないよ。

 

「熱っ! お前、一度ならず二度までも神を侮辱するとは。いい度胸だなぁ!」


 あ、やべ。


 私はウィルの肩に手を置いて、語りかけた。


「いいでしゅか、ウィル。食べ物を粗末にしてはいけましぇん。いまは緊急事態だったので、仕方なかったけど、落ちたお芋もあとからスタッフが美味しくいただきましゅ」

 

 いまの行為は教育上よろしくなかった。

 うん、反省。


「う、うん。でも、あの、スゥが──」


 気にすべきはそこじゃない、と訴えるようにウィルが火の神様をちらりと見る。大丈夫。私も気づいてた。火の神様、激おこだね。


 だけど、安心して。かんたんにやられる姉さまじゃなくってよ。


「はっ。ララに度胸を問うなど、笑止千万。お前こそ、俺の伴侶に手を出すとは、よほど肝が据わっていると見える」


 ハティがせせら笑い、「あん?」とメンチを切る火の神様。思ったとおり、火の神様はかんたんに挑発に乗ってくる。


「てめぇ、俺に負けたくせして舐めた口きいてんじゃねーよ。またワンコロに変えてやろうか」


「負けたのはお前だろう」


 胸ぐらを掴み合うふたり。


「いまよ、ララちゃん」


 イヴが私の背中を押す。


「うん。『収納』!」


「あ」


 ハティと火の神様。そしてイヴが『亜空間No.2』に吸い込まれた。

 私は振り向き、事情知ったるビビとセオに敬礼。


「じゃ、そゆことで。ウィルを頼んだよ」


「はいよ」


「まかせろ!」


「まって、姉さま!」


 ウィルの焦った声を聞きながら、私も『亜空間No.2』に消えた。


 火の神様が現れたときの作戦その1。

 とりあえず、閉じ込めとけ。


 3日どころか、けっきょく2日と経たず現れちゃった。おかげで一瞬焦ったじゃん!

 火の神様はイヴの言うとおり、我慢の利かない性分らしい。


 ◆


「さて、いくら神様でもここを自力で抜け出すことはできにゃいよ」


 たった数秒の間にずいぶん暴れたらしい。絨毯や細かい道具類があらぬ方向に散らばっている。


 白い壁にも、焦げたような跡。こっちは現在進行形できれいになりつつある。この空間には、自動修復機能が備わってるみたい。え、なにそれすごい。


「諦めてお座りなさいな」


 イヴが静かに命じる。


 ハティとイヴは、床に直に座っている。私はハティのお膝の真ん中にちょこんと。向かい合うかたちで、火の神様はしぶしぶ腰を下ろした。あぐらをかいて、ふんと横を向く。


 司会進行役は、やっぱり私。


「まず、はっきりさせておくけど、ウィルは絶対渡しゃないから。そのうえで、お話し合いをしようと思いましゅ」


「話し合いだぁ?」


「ララ、やはりこいつには拳で分からせたほうが良いのではないだろうか」


 おお、背後から怒りのオーラが……


 私だって火の神様にはムカついてるよ!

 

 でも、ウィルと約束したから。


『スゥはね、ぼくをしんぱいしてるだけなの。つぎ会ったら、ちゃんとスゥのおはなしも聞いてあげて』


 って、昨日の夜。だから仕方ない。我慢、忍耐、気合じゃー!


「へぇ、ほーん、話し合いねぇー」


 寝っ転がって、鼻をほじほじする火の神様。

 ムカっ。

 気持ちはあっさり反転する。


「やっぱムカちゅくね。埋めよっか」


「よし」


「よし、じゃないわよおバカ」


 イヴがぴしゃりと言い放った。びくっとする私にも、先回りするような釘刺しが。


「ララちゃんも、あとでウィルくんに叱られたくなければおとなしくしていてちょうだい」


「うぐ……」


 今日のイヴはソファで溶けてるいつものイヴとは一味違う。有無を言わせぬ威厳をまとって、火の神様に対峙(たいじ)している。


 そもそもの話。火の神様を『亜空間No.2』に閉じ込めて、話し合いを持とうと計画したのはイヴなんだ。

 

 ウィル誘拐宣言の後、5歳児に変えられ恥ずかしい思いをいっぱいした私が、「お話し合いをしましょう」なんていい子ぶれるわけがないよね。


 シャーッと威嚇もんですよ。


 じっとり睨みをきかせる私とハティを呆れて一瞥し、イヴは改めて火の神様に向き合った。


「ウィルくんを連れて、街で一旗揚げると言っていたわね」


「だからなんだっての?」


 火の神様の挑発に、イヴは乗らない。

 どこまでも冷静で、それからちょっぴり悲しそうだった。


 イヴはそうと決め打った。


「ウィルくんを守るためね」


 一瞬、火の神様が反応を見せた。

 すぐに咳払いで誤魔化していたけど。


 びっくりしたのは私だ。ウィルを守るため? なにそれ。


 いまのいままで火の神様を悪役と決めつけていたのに、まさか、違うの?


「どういうこと? 街で一旗揚げることが、なんでウィルを守ることに繋がりゅの?」


「それはね──」


 イヴの話は、思わぬところ、そう、いままで頑なに避けていたっぽい、勇者・コウタロウの物語から始まった。


 勇者・コウタロウ。黒髪黒目の、純粋な日本人。コウタロウはこの異世界に召喚された人間だった。はじめから、勇者として。


 貴族以上の魔法とスキルが使える、人類最強の盾であり剣。


 コウタロウはとにかく優しい人で、頼られると断れない性格だった。


 魔物に苦しめられてる土地があると聞けば、どんなに遠くでも駆けつけた。それこそ、国境をこえて。


 頑張れば当事者だけでどうにかできそうな厄介事も、人々はコウタロウ任せにする。遅刻しそうだから、なんていうくだらない理由で救急車を呼びつける人たちくらいの気軽さ。

 

 そんな世界のために、コウタロウは身を粉にして働いた。


 この世界になんの恩もないのに、むしろ無理やりの召喚で家族と引き離され、悲しい思いをさせられたのに。


 都合のいい人間。勇者・コウタロウ。


 最後、コウタロウは魔王討伐にたった一人で向かわされ、戦いにはどうにか勝てたけれど、引き換えに視力を失った。

 

 そうしてコウタロウは、身も心も使い潰された。この世界の人間たちに。


「視力を───」


 私は息を呑んだ。

 伝説ではそんなこと、語られていない。圧倒的武力で悪をかんたんに打ち負かす。それが勇者だ。苦戦なんてしない。


「やつは優しすぎたんだよ。気持ち悪ぃほどな。だから、人間どもにナメられた」


 苛立つ火の神様に、イヴはやっぱり悲しそうに聞いた。


「だから先に人間たちと戦争でも起こして、ウィルくんの力を見せつけようとでもいうの?」


「遅かれ早かれ、ウィルは人間たちに『勇者』にされちまう。どうせ今度も、やつらは使い潰してくるぜ。その前に、力関係を見せつけんだよ。どっちが上かってな。そうすりゃ、一方的に使われることもねぇ。頼みてぇことがあっても、遠慮して、諦めんだろ」


「どうかしら。目立てば余計に、頼み事を持ち込む人間が出てくるような気もするけど」


「あー、うざってぇ! ぜんぶ、断らせんだよ! そういう、意思の強い男に俺が育てる! お前らみてぇな甘ったるい優しさは毒だ。こんな環境で育てば、コウタロウ2号ができちまう。そうなる前に、あいつは俺と来るべきなんだよ!」


 ララちゃん。


 イヴは戸惑う私の手を取った。


「つまり彼は、ウィルくんを悪目立ちさせることで、守ろうと計画してるのよ。隠すことで守ろうとする私たちとは逆ね。だけど、気持ちはいっしょ。──ウィルくんを、守りたい。言葉足らずで誤解があったけど、そういうことなのよ。わかってあげてね」


「それで、ララを頷かせるために、変身の魔法などかけて脅すような真似をしたのか。暴走が過ぎるぞ。まったく、呆れてものも言えない」


「うるせぇよ……」


 悪気はないけど、だからこそ、たちの悪い人間。

 人間不殺のルールゆえに身動きが取れず、使い潰されていくコウタロウさんをただ見ているしかできなかったイヴの苦悩。

 なんとしても、ウィルに同じ道は歩ませない。火の神様の気持ち。

 いろんな想いが、わーっと心になだれ込んできた。


 じわっと視界が滲んだ。


 和やかに収束しつつあるかに見えた話し合い。

 だけど、火の神様は自分の計画をちっとも諦めてなかったんだ。


「で、わかったんならさっさとウィルをよこしな。かわりに、お前にかけた魔法、解いてやるからさ」


 火の神様の言い分はわかった。

 そういう道もあるかなって、ちらりと思っちゃうのも事実。

 でも、だからって、


「ウィルを連れてくなんて勝手だよ……」


 思わず、ハティにすがりついてしまう。嫌なものは、嫌なんだもん。離れたくないんだもん。

 服を握る幼い手を、ハティが優しく包み込んだ。


「ああ、ウィルは連れて行かせない」


「交渉決裂だな。こうなりゃ無理矢理でも連れてくぜ。お前と植物女相手じゃあちと骨が折れるが、仕方ねぇ」


 火の神様がきっぱり締めくくり、刹那、ハティとの間に緊張が走った。


 と、そのとき。


「そうだよ! かってだよ!」


 ウィルの声が、『亜空間No.2』に響いた。


「くそ、ウィル! お前、『共有』は切っとけっつたろうが!」


「やだやだ! ぼくぬきではなしすすめないでよ!」


 火の神様が唸り、目を押さえる。金の瞳が、時々グリーンに変わった。ウィルの目だ。


「姉さま、ぼくを入れて!」


 強い声。それは弾かれるように。


「あ、うん」


 気づけば、ウィルを『亜空間No.2』に招き入れてしまっていた。


「だれもかれも、ぼくを守る守るって。スゥも、イヴも、ハティも、姉さまも、みんなかってだよ! もうもう、バカー!!」


 真っ赤な顔でぷるぷる震えながら、ウィルが言い募る。

 

 バカ、だって。

 私たちはみんなそろって目を丸くした。

 天使のお口から発せられた暴言の威力は凄まじかった。


 あっけに取られる私たちを見て、ウィルは満足げにうんうんと頷く。


 そして、


「ぼくは守られなくたって、つよいよ! ていうか、ぼくがみんなを守るんだから!」

 

 腕を組んで、自信満々に、そう、宣言した。

次話は10月13日、火曜日にアップします!

今後は4日に一度の定期更新にします

今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いします(*^^*)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 表紙のララさん、デ○ビーム辺りを発射する寸前に見えません? 微妙に指先が光ってますし [一言] 火の神の言い分は理解してやらん事も無いけど、結局は使い潰されるって未来しか見えません。 …
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