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96 元に戻る方法

 

 翌朝、まだみんなが寝静まった早朝。


 大あくびをしながら続き部屋を出てきたアロンは、居間の絨毯の上、眠るハティの抱き枕になってる"ミニチュア・ララ"を見て、たっぷり10秒かたまった。


「……夢か」


「夢じゃにゃい! 夢じゃにゃいからまた眠りに行かないでぇーっ!!」



 やられた! ったく、やられた!!


 火の神様は、きっと最初から私を狙ってたんだ。ハティを襲えば、私が庇うってわかってた。そのうえで、ハティに向けて『変身』の魔法を放った。で、まんまと引っかかった私は自ら魔法に体当りし……5歳児に変えられたというわけ。


 火の神様が去り際に残した、あの"してやったり"顔はつまり、そういう意味。


「けどしゃ、これって『神様のルール』で禁止された"人を傷つけりゅ"行為には当たらにゃいわけ?」


 ぶはっと吹き出すアロンを睨む。昨夜のあらましを話しはじめて、これでもう3回目だぞ!


「ごめんごめん。舌足らずなのに、気の強い喋り方はやっぱりララで、なんだか可笑しくて」


 メガネを外し、涙を拭いながらアロンは笑う。まだ結われていない灰色の長髪は無防備で、寝起きってかんじ。


「むぅーっ! わたちだって不本意でしゅ! これでもがんばってりゅんだから!」


「ぐふっ、もう、ほら、そんなに騒ぐとハティ様が起きてしまうよ」


 あっと息を詰めて、確認する。ハティは私を抱きしめたまま、時々幸せそうな吐息を漏らして眠っている。穏やかな表情は、昨日の夜のことなんて、ぜんぶ忘れてしまってるみたい。


 ──昨日の夜は本当に大変だった。


 自分の恋人を5歳児に変えられ、最初こそ火の神様に激怒してたハティだけど、そのテンションは徐々におかしな方向へとヒートアップ。

 

 端的に言うと、過保護っぷりが爆発した。

 5歳児の私を、"小石が当たれば死ぬ"くらいのか弱い生き物と認定したんだね。


 常に自分の懐に入れていないと安心できないし、誰も私に近づけようとしない。セオも、ビビも、それがウィルであろうと、歯を向く始末。人間の姿に犬耳としっぽを出現させて、グルグル、家族を威嚇する。


 そんな混乱状態で、唯一ハティを正気に戻せそうなイヴはといえば、ゲラゲラ笑ってた。


「ふにゅ、ララぁ……」


 身じろぎするハティの頭を、よしよしと撫でてみた。夢を見てるのか、長いまつ毛が震えてる。


 わかってるよ。

 昨日は突然のことで、ハティも混乱したんだよね。火の神様の魔法を防げなかったのも、ショックだったと思う(それについては、飛び出した私が百パーセント悪いのだけど)。


 でも、今日は元に戻ってるといいな。

 私は、私だけじゃない。私の大事な人も大事にしてくれる、いつものハティが好きだよ。


 ふいに、背中に回る腕に力がこもった。

 心地よい重みと温かさは、幼い体をひどく安心させる。あ、だめ、眠気が……


「──ララ?」


 アロンの声に、パチッと覚醒。


「ララは眠ってましぇん、瞬きしただけでしゅ!」


 言い訳は余計だったかも。アロンの哀れみの視線が突き刺さる。ハティとくっついてるとお小言を浴びせてくるはずのアロンも、今日は静かなものだ。子どもにそういう心配はしなくて大丈夫ってことなんだろう。


 ……くっ、私ってば、せっかく妖艶美少女だったのに。いまは胸もぺったんこで、鼻水タレのちんちくりんだ。


 ぐすん、と鼻水をすすっていると、その間にコーヒーを淹れて戻ったアロンが、私の側に膝をついた。ミルクお砂糖たっぷりのおこちゃまコーヒー、ありがとうございましゅ……


「さっきの質問に答えると」


「さっきのしちゅもん?」


「ほら、君を子どもに変えるのは人を傷つける行為に当たって、『神様のルール』に違反するんじゃないかっていう、あれ」


「ああ……」


「怪我はさせてないから、セーフってことなんじゃないかとね」


 ……なるほど?


 小さな体には、怪我もなく、体調もすこぶる良好。たしかに『傷』はつけられてない。

 ……なるほど、なるほど。


「って、なにしょれー! 断固抗議しゅる! 姑息なやろうめ!!」


「そうだね。とりあえず、問題は元に戻れるかどうかだ。まぁ、いまのままでいたほうが追手を欺けるし、君にとっては都合がいいだろうけど──私としては君には元に戻ってもらいたい。"犯罪者"になるのはゴメンだからね」


「犯罪者?」


 それには答えず、アロンはにっこりと私の幼い手をとった。


「ハティ様も、イヴ様も、あてにはならないようだから、もうひとりの神様を頼ろう。さぁ、静かに抜け出して」



 ◆


 ハティを起こさないように、なんとか静かに這い出して、私とアロンは裏庭の池へとやってきた。早朝の池からは湯気のように霧が立ち上り、森の木々を暗く覆っていた。


「あやつは姿を変えるのが得意なのじゃ。恐ろしげなものに変身しては人を驚かすのが好きだという悪趣味なやつでなぁ」


 『水の神様』レネは船着き場に座って、昨日ビビが作った魚料理の残りを食べた。一口一口味わうようにゆっくり口を動かして。


 左右非対称の水色の髪に目元が隠れていて、相変わらず表情は読みづらい。しかし「むふーっ」と吐かれる幸せそうな吐息から満足してるんだってことがわかった。


 レネは……可哀想なことに、味覚音痴らしい。


 おげぇ……


「わしも大昔、手酷い目にあってのぅ。あやつ、絶世の美女に変身してわしを誘惑したのじゃ。それで夜、肝心なときにネタバラシとくる。残酷じゃろう?」


「それはヒドイですねぇ。はい、こちらもお食べください」


「良いのか? わーい、いただくぞよっ」


 嬉々としてビビの魚料理をすすめるアロンは悪魔だ。それも、これを対価に火の神様に関する情報を引き出そうっていうんだから、大魔王だ。


 そして、アロンの命令により、だんまりを決め込む私も小悪党だ。


 こ、心苦しい……


 でも、レネは嬉しそうだし、そもそも、ビビの魚料理が食べたいって言い出したのはレネだし?

 

「わしの川で育てた魚じゃからな。どれ、味見をしてやろうと思うてな! その不思議なポッケに調理したものがしまってあるのじゃろう? 出してみよ!」


 ってね。だから死に至るレベルの激マズ料理を与えても何も問題ない。以上、心の自己弁護おわり!


 ちなみに『ポッケ』というのは、私の『収納』のことだった。まさか『収納』の中まで匂いを嗅ぎつけたわけじゃないと思うけど……いや、神様だならな。できても不思議じゃない。


 とにかく、レネは教えてくれた。私にかけられた、火の神様の魔法を解く方法を。


「火の神の魔法は、火の神にしか解けぬのじゃ。まずはやつを探すとよいぞ」



 ◆


「探すって言ってもねぇ。どこにいるか、見当もつかにゃいよねぇ」


 朝食の席で、私はひとりごちた。


 ウィルに心当たりをたずねても、「知らないよっ」って言うし。むぅ……


「口を開けるのだ、ララ。ほら、あーん」


「もうっ、自分で食べられましゅ〜!」


 さっきから、私をお膝に乗せて「あーん」で食べさせてくるハティの手から、サンドイッチを奪い取る……のは失敗。愕然とする。あそこまで手を伸ばすには、圧倒的に腕が短いんだ。

 

 あう、あう……


 傷ついてさまよう私のむっちりした紅葉の手を、ウィルが優しく包み込んだ。


「姉さま、かわいい」


 ちらりと、ハティを確認。灰色の瞳をはちみつみたいにとろかして、微笑んでいる。ウィルに歯を向く気配はない。


 よかった、いつものハティだ。


「はぁ、たまらなく愛らしい。ララと俺の間に産まれる子は、こんなふうだろうか。ああ、待ち遠しいな──」

 

 訂正。いつもより、ちょっとだけやばいハティだ。


 朝食のメニューは、アロン特製サンドイッチ。と、私が『収納』から出した熱々のカボチャポタージュ。それから各種果物を適当に。


 『収納』と『植物創造』。キッチンに立つのは難しい小さな体でも『スキル』は問題なく使えた。


 ただ、日課の水やりは無理だったので、セオが代わりにやってくれてる。ついでに『モウモウ』の乳搾りもしてくるって。「牛乳飲んだら大きくなれるぞ」ってうるしゃいわ!

 と、そういうわけで、セオはいま不在。


「はい、姉さま。ふーふーしたよ?」


 ウィルがスプーンを私の口へ運んでくれる。


「ありがとぅ……」


 ぱくり、と食べながら複雑な気持ち。


「すっかりお兄さんだなぁ」


 アロンに褒められて、ウィルは「まーね! ぼくもう7さいだもん!」と胸を張っている。


 そう、どうやらウィルには、お兄ちゃんスイッチが入ってしまってるみたいなんだ。5歳の私と、7歳のウィル。背だって、いまは私のほうが小さい。言葉もウィルのほうが達者。ウィルが私を妹扱いしてくるのも無理ない。でも可愛がるべき弟に可愛がられるなんて、甘やかすべき弟に甘やかされるなんて。


 姉としてのプライドはボロボロだよ……!


「キキッ」


 ウィルの肩でお猿のジョージが私をあざ笑っているように見えるのは、被害妄想でしょうか。


 あっ、涙が……


「大人になれる薬は作れないのか?」


 小さな私に頬ずりしまくってテンションあげあげだったビビも、このときばかりは私を気の毒に思ったのか、アロンに聞いてくれている。けれど、返答は簡潔かつ無慈悲なもので。

 

「そんな都合の良いものはないよ」


「異世界のくせに気が利かにゅ。ぐすん」


「あつかった? よしよし、なかないで。ぼくのひみつきちにつれてったげるからね。いっしょにあそぼ」


「うぃるたん……」


 心臓がきゅんとなって、およよ?と思う。

 いや、うん、この感覚、悪くないぞ。ウィル兄たんに可愛がられるのも、これはこれで……


 お得かも? なんて、小さな体を楽しむにはまだ早かった。


 朝食の間じゅう、私を見つめるイヴの熱視線に気づいたときから嫌な予感はしてたんだよね。

 食後、イヴが見計らったようにすすすと近づいてきて、予感は確信に変わった。


「人生は山あり谷ありよねぇ。悪いときも、楽しまなきゃいけないわよねぇ」


「……つまり?」


「見てこれ! ララちゃんが『私には可愛すぎる』って着てなかったワンピース、仕立て直してみたのぉ! いまならきっと最高に可愛く着られるわ!」


 ひらりと掲げられる、ピンクのフリルたっぷりゴテゴテワンピース。アロンが買ってくれた服の中で、「これは絶対嫌がらせだ」と断じて唯一着てなかった服。


「人生楽しくって、イヴが一方的に楽しいだけじゃんかぁ!」


 それを着せられながら、私はしくしく泣いた。しかたないの、他の服はぶかぶかで着れたもんじゃないんだもの。


 1着のワンピースから、2着の子ども服と、エプロンと、髪飾りと、肌着と、ネグリジェが取れたって。昨日の今日で、いったいいつ作ったわけ?

 あまりのシーツで仕立てられたかぼちゃパンツも渡される。イヴの趣味全開の品々。


 ちなみに、ビビもグルだ。

 自分は男兄弟しかいないからこんな妹がほしかった、だの、夢がかなったようだ、だのと私を拘束して、イヴと一緒に"着せ替え人形遊び"を楽しんでいた。


「ふりふり、ひらひら〜っ、なんて可愛いのかしらぁ! さすがわたし」


「ララ、こっち向いて。"ビビ姉さま"って呼んでごらん。どうした、うつむいて。ぽんぽん痛いのか?」


 ハティもウィルも「可愛い、可愛い」とノリノリで、アロンは引きつり笑い。味方は皆無。


「う、ぐすん、ぐすっ。火の神様め、次会ったら百倍返しじゃ。必ず探し出してやりゅ!」


「ふふ、心配せずともそのうちひょっこり顔を出すわよ。あの目立ちたがりは、いつまでも隠れてられる性格じゃないもの。ねぇ、ハティ?」


「3日と我慢できんだろうな」


「しょーなの?」


 なら話は早い。つまり、火の神様が現れるまでこのまま3日待てば良いのだ。と、少しだけ明るい展望が開けたそのとき。


「コケコッコー!」


 気持ちのいい鳴き声が上がった。まわりを見ても、みんな気づいた様子はない。この脳みそに直接響いてくるかんじ、『亜空間No.2』からだ。ハッと思い出す。


「や、やば、あの子たちのことしゅっかり忘れてた……!」

読者のみなさま

評価・感想・誤字報告

いつもありがとうございます!


月並みな感謝の言葉で申し訳ないですが、

本当に、すごく励みになってます(ToT)♡


次話は10月5日・月曜日に投稿します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 目立ちたいだけの馬鹿? 何かを狙っての強行だと思ってたけど…… 取り敢えずララさんにはランドセルの他、勉強机も用意した方が良いかも? 幼女のオプションですしw(関係なし)
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