86 ウィルの誕生日 レベルアップ〜『鑑定』レベル6
ウィルがいない間に、お料理と居間の飾り付けはばっちり整った。
居間の真ん中にドンと設置した8人がけの長テーブル。そこへ、コーネットの屋敷から持ってきた中でも一番高級感のあるテーブルクロスを敷き、花をふんだんに飾る。私とイヴで『創造』したユリの花だ。8月の誕生花。
ウィルのお友達の小動物や魔物たちも、居間の飾り付けを手伝った。
小鳥たちは草花で作ったリーフを壁に飾る。『ブルーバード』の"アオ"が先導している。彼女はとってもセンスがいい。
一方、地を這う者たちもキレイな木の実や落ち葉を床にばらまいて……ってこれ、散らかしてるんじゃないよね? 飾り付けてるんだよね? 物言いたげな視線に気づいてか、「失礼な!」と言わんばかりのお猿さん。その名もジョージ。彼がリーダーか。……ううむ、もう好きにやりたまえ! それが君たちなりのお祝いのやり方ならば仕方ない。「キキィ!」と嬉しそうに鳴き、ジョージはまた仲間たちに指示を出す。
テーブルの上には、これでもかと並べた料理の数々。揚げ物、煮物、焼き物、和洋中、なんでもござれなテーブルの上はカラフルが過ぎる。でも、見ていて楽しくなる御馳走づくめだ。その真ん中を陣取るのは、イチゴのショートケーキ。3段の、超特大ケーキです。お部屋が甘い匂い。
お料理は、ビビも、セオも、アロンも、イヴも、みんなで協力して作った。
野営で鍛えただけあって、ビビとセオの包丁さばきや焼きの技術は素晴らしかった。……が、味付けは壊滅的にダメ。特にビビ。味オンチではないはずなんだけど、"付け足し癖"があるんだよね。塩と胡椒だけでいいところを、だんだんそわそわしだして、気づけば砂糖も醤油もドバドバくわえちゃってる。そんなかんじ。この癖は早いうちになおさないと、将来セオの味覚が大変なことになる。
これまで、野営の調味料は塩しか使っていなかったというセオはビビの悪癖に初めて気づいて恐れおののいていた。
「料理は俺が作ります」
とか、やんわりビビから鍋を取り上げようとしてたけど、まぁ、見事に失敗。どうやらビビは、『料理は女の仕事』という古風な考えの持ち主のようだ。
セオの震える視線に、私はとりあえず「安心して」の意味を込めて頷いておいた。ここは元・レストランの娘がひと肌脱ぎましょう。花嫁修業はまかせて。
アロンはまったく問題ない。すべてをテキパキ、的確にこなす。顔も良くて、お金持ちで、お料理もできて、ハイスペック男子ですね。
お鍋を混ぜてるときは、なぜか白雪姫の悪い魔女感あって怖かったけど……
眼鏡押し上げながらブツブツ何か言ったり、ニヤッと笑ったり、そういうところだと思います!!
私も前に思ったことだけど、料理と薬作りは似てる。それで、アロンには薬師スイッチが入ってたのかも。
薬作ってるとき、いつもあんななのかな? 大鍋と炎がとってもお似合いで……もちろん、褒め言葉だよ?
イヴは……うん、とりあえず包丁を持たせてはダメだと思いました。まな板がいくつ粉砕されたか……。壊れたぶんは、イヴが新しいのを魔法で作ってくれるから良いのだけど、キッチン台まで破壊する勢いだったから、さすがに包丁は取り上げた。
その後はジェノベーゼソースとか、ドレッシングとか、刻んだ食材を混ぜる係に任命。味見しながら楽しく混ぜ混ぜしてた。
今回一番の活躍を見せたのは、やっぱり『安寧の地』が出してくれた『オーブン』かな。スペアリブからケーキまで、本当に大活躍してくれた。『安寧の地』様々だ。特にケーキを焼くのには助かった。フライパンで作ったケーキじゃ迫力が出なかったし、かといって街にケーキを買いに出るわけにもいかなかったから……
アロンが追手に見つかり、うちに潜伏して以来、私たちは一度も街へ買い物に出ていない。敵に関する情報収集の道が絶たれたいま、街に買い物に出るのは危険と判断したのだ。
幸い、時間停止機能付きの『収納』にはたっぷりの食材が入ってるし、『植物創造』のおかげで野菜や果物、米には困らない。作ろうと思えばパンも作れる。イースト菌はリンゴの瓶詰めから天然のものが取れるし。
そんなわけで、食べ物にはいまのところ特に困ってはいないのだけど、プレゼントを用意するのはみんな大変だったと思う。買い物に行けないから、いま手元にある品物でプレゼントをこしらえなきゃならない。
私もかなり悩んだ。『判定式』を受ける7歳は、この世界では節目の、大切な年だ。特別なものをあげたい。本当は(アロンのおかげでたっぷり)貯め込んだ大金を注ぎ込んで、強力な『魔道具』のひとつでも贈ってあげたかった。ウィルは魔法が使えないし、きっと役に立つ。でも、『魔道具』の原産地タリス王国に出向くのはさすがにためらわれた。あそこは最初に、コーネットの追手が到達した地でもあるし。
けっきょく、私はリボンを作ることにした。
最近、ウィルは運動するとき髪を結ぶことも多いので、ちょうどいいと思った。それに、リボンならいつも側に置いてもらえる。
前世の知識をもとにイヴに木製の編み針を作ってもらって、あとは前に街で買ったサテンの細糸を使って、細かく複雑に編んでいった。
そうして、朝日に輝くエメラルドグリーンの湖畔のような、美しいリボンが出来上がった。
《レベルアップ!『鑑定』レベルが6になりました。『遠視』機能が開放されました》
「どうしたんだい、ララ。ボーッとして」
アロンの声にハッとする。
窓の外、ウィルを探して森のあたりをじーっと凝視していたところだった。はるか遠い場所をさまよっていた焦点が、やっと近くのアロンに定まる。
すごかった。ずっと向こうの葉っぱの雫まで見えた。まるで、目の前にあるみたいに。
「えと、『鑑定』がレベルアップして、遠くが見えるようになったの」
「『遠視』か」
アロンもハッとする。思わず、といった感じで浮かべた笑みは『勇者』伝説に心躍らせる少年そのものだ。いまにも質問攻めが開始されそうな雰囲気だったけど、その隙はなかった。
「お誕生日おめでとう、ウィル!!」
早々と、ビビが花びらのシャワーを舞わせる。
ウィルが帰ってきた。
◇
「わぁ、どうしたのみんなぁ!」
ウィルは目を大きく見開いて、あたふたと私たちを見回した。思ったとおり、今日が自分の誕生日だって、ウィルは知らなかったんだ。そう思ってサプライズの成功にニヤニヤしてたんだけど、違った。ウィルが驚いたのは、みんながパーティーを開いてくれたことに対して。今日が自分の誕生日ってことはちゃんと知っていて、まさかの逆サプライズまでしかけてきたんだ。
「あのね、ハティが言ってたんだけどね、おたんじょう日は、うんでくれてありがとうっておやにかんしゃする日でもあるんだって。姉さまはママじゃないけど、でも、ぼくのおやは姉さまだから、これ、かんしゃのプレゼントとおてがみです!」
「えっ……」
ずっと練習していたのかもしれない。よどみなく言葉を言い切り、ふんす! と満足そうに私に手紙と木箱を渡してくる。
「木のはこはイヴにつくるのてつだってもらってぇー、あ、ここのもようはぼくがほったんだよ! すごいでしょ!」
ニコニコ。輝く笑顔で色々と説明してくれるウィルを見てたらもう、辛抱たまらなくなった。
「お、おい、ララ……?」
「ララちゃん……?」
泣きました。もう、号泣。
だってまさか、ウィルからこんなサプライズがあるなんてぜんぜん予想してなかったんだもん。不意打ちだよ。
こんなの泣いちゃうに決まってるじゃん。
まだ箱の中身も見てないし、手紙も読んでないのにね。
ウィルに抱きついて、わぁわぁ、まるで子どもみたいに声を上げて泣いた。
「ひっく、よかったよぉ、わたし、ウィルのお姉さまになれてよかったよぉ。わたしの弟に産まれてきてくれてありがとうっ。幸せだよぉ……!」
私の泣き声につられたのか、ウィルのグリーンの瞳にも涙がじわっと浮かんで、わぁと声を上げて激しく泣き出した。
わぁわぁ、蛙もびっくりの泣き声の大合唱。正気に戻ったら『亜空間No.2』に"おこもり"したくなるくらい恥ずかしくなるのはわかってたけど、止まらない。ここぞとばかりに泣きわめく。溜まってた感情を、ぜんぶ吐き出すように。
とそのとき。ふいに、大きな体が私たちを包み込んだ。ハティだ。
「我が命に勝りしものたち」
つぶやかれた低い声は、少し掠れている。ハティもうるっときちゃってるのかも。顔を見ようとしたら、そうできないようにいっそう強く抱きしめられた。
そこへ、イヴも加わる。ハティとは反対側から私とウィルを包み込んだ。
「私の愛しい子どもたち」
イヴは何度も何度も、私たちの頬や頭部にキスしてくれる。
そこへ突進してきたビビ。
「え、ちょ、ビビ様!?」
セオもしっかり連れて、セオごと私たちをがっちりホールドする。
「うえーん! よかったなぁ! ウィルもララも、なんて可愛らしい姉弟なんだぁ! うちなんて、クソバカ兄貴たちしかいないのにぃ……! ララの愛情見習えってんだよぉ……!」
おおふ、力が強い……
クソバカ兄貴はうちもだぜ。
ていうかセオさん、白目剝いてませんか? き、気のせいだよねっ。
大きなおしくらまんじゅう。でもまだ、一人足りない。
「アロンもきて」
私は腕を伸ばし、アロンを輪に招いた。
アロンは一瞬躊躇したけれど、「まったく、仕方ないな」と笑みをこぼしながら私たちの輪に加わってくれる。
「あったかい」
えへへと、輪の真ん中でウィルが嬉しそうに笑った。
うむ、幸せ。
心の中で叫ぶ。
みんな大好きだよ!
「ぼくも大好き」
「俺も」
「わたしも」
……おや、声に出ていたみたい。
ちょっぴり恥ずかしい。
さて、美味しいお料理が待ってるよ。お誕生日ソングを歌って、みんなで食べよう!
◇
その頃。
窓の外、庭の土が突然渦を巻きだした。中央から水が滲み出し、沼が広がっていく。パーティーの噂を聞いたある男が、この家を訪問しようとしていた。
次回は27日・木曜日に投稿します!





