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79 神様のルール レベルアップ〜『安寧の地』レベル7〜


「すまない……」


 今回のことで、アロンはかなりショックを受けている。各地に放った部下から、ミカエルの情報はまったく入らなかった。もしかしたら、彼らはミカエルに寝返っているのかも。尾行にも、まったく気づけなかった。「あいつらは私を絶対に捕まえられない」と追手の無能さを馬鹿にしてたアロンだけど、その自信は完全に砕け散ったってわけ。


 アカツキに戻れば、待ち構えているであろう追手に捕まる可能性があるし、しばらくはうちにいてもらうってことで話はついた。はずなんだけど……


「私がここにいれば、ララやビビたちにまで迷惑がかかってしまう。やはり私は国へ帰ったほうが……」


「ダメー!!!」


 落ち込むアロンの両頬を、ぱしっと挟む。

 うじうじ、うじうじ。黙れってんですよ!


「帰りたくないんでしょ! だったら帰らなくていい!」


「しかし……」


「私がコーネットに帰りたくないって言ったとき、アロンは『それなら協力する』って言ってくれた! 追手に偽の情報流してくれたり、安全な街を教えてくれたり、おかげで私、いままで捕まらずにいられたよ。今度は私が『協力』するの。アロンは私が守る」


「ララ……」


「何て言われても譲らないから! それでも捕まりに行くって言うなら、椅子に縛り付けてこの家に監禁してやる!」 


「監禁って」


 うん、監禁はちょっと大袈裟だった。訂正、軟禁します。三食しっかりご飯付き、寝床もフカフカの用意します! ホテル級のおもてなしをお約束! 当ホテルは源泉かけ流し(うそ)のヒノキ風呂が自慢でして……


 ふはっとアロンが笑った。眉間に刻まれたシワが消える。あははと声をあげて笑い出す。

 ふぇ? 何急に。なんか私笑えること言ったっけ。

 そうしてさんざん笑ったアロンはため息をつくように言った。


「───はぁ。敵わないな。だから君が好きだよ、ララ」


 これは完全に不意打ちだった。だっていまは緊急事態で、恋とか愛とか持ち込む場面じゃないはずで……

 ていうかこれ、話題に出していいことだったの?

 

「すき?」


「え、すき?」


 私の真っ赤になった顔を見て、ビビとセオがざわつきだす。そこへ、大したことじゃないとでも言うように、アロンが言ってのける。


「この前、ララに告白したんだ。即刻振られちゃったけど、私は諦めていない」


「「ええええええ!!!」」


「だって、ララはハティ様の恋人だぞ! 神様から女を奪うつもりかお前、すげぇ度胸だな!」


 ビビにバシバシ背中を叩かれ、「痛い」とアロンが苦笑する。

 そしてすかさず私を背中から拘束するハティ。


「さっさと諦めろ。お前に勝ち目はない」


「でも、婚礼を挙げるまで1年の猶予があるんでしょ。勝負はまだついていない」


 ……や、やめてぇ。睨み合わないでぇ……

 こんな事になるまでは二人の男に取り合われるとかステキ☆なんて夢見てたけどこれ、実際目の前で繰り広げられると結構きつい。面倒くさいし、なにより恥ずかしい。

 二人ともこんな私のどこがそんなに良いんですか。ただのブラコンだぞ。まぁとんでもなく美少女だけど。顔か? 顔なのか!?


「そ、そういえば、アロンは植物馬に乗ってここへ来てたでしょ。ミカエルが馬で追跡したとしても絶対追いつけないよね。たぶん、一度見失ったんだろうけど、そのあとどうやってこの場所まで辿り着いたんだろう」


 ビビも疑問に思っていたようで、私の言葉に深く頷いた。


「偶然っていうのも、納得できないよな。……まさか、そういう『魔道具』があるのでは? 対象の位置を正確に知り、追うことができるような」


「だとすると厄介っすね。俺たちも見つかっちまう」


 ビビとセオが、難しい顔で考えに沈む。


 対象の位置を正確に知り、追うことができるような魔道具───?

 私はハッと思いついて、アロンの荷物をひっくり返した。細かな道具をかきわけて、怪しい物体を探す。……ない。

 立ち上がり、今度はアロンが着ている服をまさぐる。


「ちょ、ララ!? ひっ、どこ触って──」


「じっとして」


 アロンの上着の右ポケットに、硬い感触。引っ張り出すと、それは直径3センチほどの紫の石だった。金の装飾が施された中央が、ピカピカと点滅している。


「ねぇアロン、これに見覚えある?」


「───いや、ないけど。なにこれ」


 ……うそ、本当に見つけちゃった。こんなものが、この世界にも。前世の世界にもあった『追跡装置』。衛星カメラで対象の位置を把握する、文明の利器。


「たぶん、この石がその『魔道具』だと思う。石が発する信号を辿って、ミカエルはここへたどり着いたんだよ。私、似たような道具を知ってる」


「仕組みはよくわからないが、石がここにあっては危険ということだな? また信号とやらを辿って、追手が来てしまう」


 ビビがミスリルの剣を引き抜き石に近づこうとするのを「待って」とアロンが止めた。


「それは壊さないほうがいい。別の場所へ捨てて、追手をそちらに向かわせるんだ。……時間稼ぎくらいにはなってくれる。ハティ様、お願いできますか」 


「……ああ」


 立ち上がり、姿を狼に変えたハティは石をくわえ、風のように森へ消えた。……かと思えばもう帰還。即座に人間の姿に変身し、席につく。

 ……あの、ちゃっかり私を膝に乗せてうなじの匂いかぐのやめてくれませんか。みんなが見てるよ!


「みなに伝えておかねばならない事がある」


 あ、そのまま話しだしちゃうんだ。


「我々神は、人間の争いに介入できない。よって、仮に人間たちが『魔道具』なる武器を持ちここへ迫ってきたとしても、俺とイヴは戦えない。そういう、決まりなのだ」

 

「まぁ私はそんな決まり、いざとなれば無視してやるけれど」


「……イヴ」


「冗談よ」


 ハティに睨まれたイヴが、調子よく肩をすくめる。

 神様にそんなルールがあったなんて、初めて知った。


 上を向いたり、下を向いたり、みんなが目をそらす。

 正直、神様の戦力をみんな期待してた。私を含め。だってそうでしょ? 万の獣を支配下におさめ、植物を自在に操れる神様が味方についてるんだもん。負ける気がしないって、強気になってもしかたない。

 頼りすぎるのはよくない。自分たちのことは自分たちでなんとかすべきだ。そう思いながらも落胆が隠せない私達に、ハティが力強く宣言した。


「だからお前たちを強くする。俺たちの力などあてにせずとも追手どもを蹴散らせる一騎当千の戦士に、俺が育て上げる」

 

「一騎当千って……マジすか?」


「やったー! 演武を見たときからぜひご教授願いたいと思っていたのです! よろしくお願いしまっす!」


「え……『お前たち』って、もしかして私も入ってます……?」


 当たり前だ、と言われたアロンが頬を引つらせ、私を振り向く。アロンは頭脳派。後方待機の司令官タイプだもんね。剣を振り回して千人の敵をなぎ倒す! っていう姿はイメージできない。

 思い返せば、鬼ごっこのときもすぐへばってたし、ちょっと心配かも。


 そして、なんとなんと!

 ハティは私のことも鍛えてくれるらしい。常に私を甘やかし、ぶくぶく太らせてきたハティだ。てっきり今回も私を仲間はずれにするんだろうなって諦めてたのに。


「いいの? 私、本気でムキムキの女戦士目指しちゃうよ?」


「ムキムキはやめてくれ……」


 わくわくの私とは正反対に、ハティは苦い顔。でも、認めてくれた。

 私のムチさばきを見て考えが変わったのかな。こっそり練習したかいがある。ふひひ。


「ハティ、大好き。私がんばる」


 笑顔を向けると、がばっと抱きしめられた。


「苦しい」


「ララが可愛すぎるのが悪い」



「……憐れだな、アロン」


「……うるさいよ、ビビ」



 っと、いつまでも甘々ムードではいられない。


 『追跡装置』もだけど、タリス王国で製造が進む『魔道具』は危険。

 ミカエルの小さな爆弾ひとつでさえ、ドームに亀裂を作った。大人数で、しかも大量の爆弾なんて抱えて攻めてこられたら、今度こそドームは崩壊するかも。


 アロンの追手、ビビの追手、私の追手。


 一度に襲ってくる敵は数百人? 対する私達はたった数人。それこそ一人ひとりが一騎当千級の力を持ってないと、一方的にやられて終わり。

 そんなことさせない。

 私達の平穏な暮らしを邪魔するやつは誰であろうと悪・即・斬! 私、強くなる! 千人蹴散らす!!

 気分はさながら、成り上がりを夢見る少年漫画の弱小主人公である。


「いや、やばいムチで地面割れるくらいだからいまのままでも十分つょ───」


「甘い、甘いよアロン! そんなことじゃ大将軍になれないぞ!」


「は? 大将軍?」


 

《───『ドーム』の損傷を確認。『修復』……クリア。『強化』……クリア。レベルアップ! 『安寧の地』レベルが7になりました。『カメレオン型光学迷彩機能』が追加されました。これより背景と同化します》



 筋肉ブートキャンプ、スタート。


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