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53 お米さま『創造』


「薬草取り引きの日を、もう少し増やしたい。そうだな、3日に一度なんてどうだろう? もちろん、私がこちらへ出向くよ」


 アロンの提案に、「いいよ!」と私は答えた。むしろ、こちらからお願いしますってかんじだ。なんせ、こっちに来るたびに味噌やみりんを買ってきてくれるって言うんだもん。

 植物馬での移動だから、少しずつになるって言われたけど、ぜんぜんオーケイ。そのぶん、街に出ないで済むなら万々歳だ。


 アロンは照り焼きチキンサンドを食べて、すぐに帰っていった。

 "黒以外の服"を着るように、と言い残して。

 アロンが買ってくれた洋服たちのことね。

 明るい色の服を着るのはちょっと恥ずかしいけど、胸ぱっつぱつの今のワンピースのほうがもっと恥ずかしいか。

 あとで着替えよう。

 

 そういえば、私が買った『醤油』やっぱり『収納』に入ってたんだよね。

 だから、アロンが持ってきてくれたのは、自分用に買ったやつじゃない?

 そう指摘すると、「どうだったかな」とアロンは言葉を濁(にご)した。


「まぁ、いいさ。これは置いていくから、今度も美味しい食事をご馳走してよ、ララ」


 ぽんと頭に手を置かれ、「煮物が食べたい」とさっそくリクエストされる。


「なら、肉じゃが作ってあげる」


「肉じゃが?」


「あれ? 知らない?」


 そういえば、『ジャガイモ』ってこの世界にないんだっけ。『ノルイモ』っていう似たような芋はあるけど、アクが強くて、煮てもシャリシャリしてる。

 肉ジャガっぽい料理があるとすると、肉ノルって呼ばれてるんじゃないかな?

 聞くと、肉ノルなら知ってるって。やっぱり。


 ここは日本の『ジャガイモ』で、ほくほく美味しい肉じゃがを作ってあげよう。


「ま、楽しみにしててよ。これが煮物の王様だっていうの、教えてあげるから」


 なんだそれ。言いながら、アロンは声を上げて笑った。


 そういうわけで、いまお家には醤油瓶が2本。ストックがあるってステキ。あれも、これも、たくさん作れる。想像すると、幸せな気分になった。


 ───さて、


 アロンは帰ったし、ウィルは遊びに行った。イヴはお昼寝。ハティもなぜだか私の側を離れてる。家事もだいたい済んで、


 完全に手が空いた!

 よし、やっちゃいますか。

 そう、お米『創造』を!!


 わっくわっく


 日本人の心を取り戻してまいります!と勢いこんでやってきた庭の畑。

 

 お米作るなら、広い場所が必要だよね。


 うーん………だけど場所、まったくと言っていいほどあいてないよ。

 今ある植物たちを抜くのも面倒だし……


 そのへんの土の上でいっか! いけるいける、耕(たがや)してない雑草まみれの土の上だけど、たぶんいける! 最強スキル『植物創造レベルMAX』ならね!


 わかってる。私がズボラな性格してるってことは。でも、スキルがそれに応えてくれるんだもん。

 アカツキの街では、石畳に隠れた土の上でも『創造』できるって証明されたし、雑草くらいの障害物、スキルはものともしないはず。


 とりあえず、5メートル四方にどばっと『創造』してみよう。


 お米は、香りよしツヤよしの新潟コシヒカリ。君に決めた!


 一本一本、『創造』していく。これが地道な作業でさ、だんだん、面倒になっていく。適当になっていく。


 それで、ブチ切れ。


 あーーーもう!


「"千本くらい、一気に育ってくれたらなぁ"」


 ものは言ってみるもんだね。ザッと軍隊が整列するような音を立てて、千本の稲が目の前に出現した。


 ふぉーーーー!


 テンションMAX。

 もう、ノリノリだ。


「"大きく育て~! 美味しいお米を作れ~! 黄金色の稲穂を垂らせ~!"」


 緑色の稲がぐんぐん伸びていき、黄金色の稲穂が重たげに垂れた。


「"ここから乾燥させたり、脱穀するの面倒くさいなぁ。真っ白なお米がそのまま実ればいいのになぁ"」


 正直、調子に乗ってました。スキル『植物創造レベルMAX』なら、なんでも言うこと聞いてくれる気がして。


 結果、


「やっばー………」


 正気に戻った私の前に、真っ白なお米をたくさんつけた黄金色の稲の群が。

 さっきまで、あー、田舎道で見たことあるあるって感じの光景だったのに、もはや別物の光景になっている。

 

 私、まったく新しい種類のお米作っちゃった……?


 ハッとする。


 スキルの名称に使われている『創造』という言葉。『創造』とは、新しい物を生み出すって意味だ。自由に想像して、オリジナルの、何かを。


 イメージだ。これまでも、イメージで地球産の植物を生み出してきた。美味しかったあれ、また食べたいあれ、そういう思い出に寄せて作ってきた野菜や果物たち。それらは、地球産の植物であって、そうじゃないんだ。言うなれば、"ララ産"なのだ。私が感じだままの味、私が知るままの姿で、新しい植物として、この世に生み出される。


 想像した、どんな植物でも───


 私は思い立って、『ツタアケム』を『創造』してみた。アカツキの街でナンパ野郎たちに追い詰められたときに、彼らを拘束したアレだ。


 一本を、小さく作る。


「"ツタアケム、棘(とげ)あり、しびれ毒あり"」


 10秒も経たずに、緑色の蔦(つた)が伸びた。寄木がないので、ぐにゃりと地面にひれ伏す。本来のツタアケムにはない、毒々しい赤い棘がいくつも生えている。指先を、棘に押し付ける。


 プツ──── 


 じわりと、指先に血がにじむ。


「痛い。びりびり、しびれる」


 前に作っておいた解毒ポーションを急いで『収納』から取り出し、飲み干す。次に、切り傷を塞ぐポーションを。すぐに痛みとしびれは消えた。


 思ったとおり。


 スキル『植物創造レベルMAX』は、既存の植物を作り出せるだけじゃない。想像した通りの効果をもたせた、まったく新しい植物を、自由に作り出すことができる。


 体が震えた。これは、すごすぎる。

 私の、武器になる。

 このツタアケムをもっと進化させた禍々しい植物を作りだせば、一人で魔物だって倒せるかもしれない。


「姉さま、これ、なーにー?」


 つんつん、と白いお米が実った稲穂を、ウィルがつついてる。

 

「アオがこれ食べたいって」


 "アオ"は、『ブルーサファイア』という、見た目は青い小鳥の魔物。いつもウィルの肩にちょこんと乗っている。


「いいよ、食べて。またあとで作るから」


 アオに頭を下げられる。うん、どう考えても鳥の知能じゃないよね。て、いまはそれよりも、


「ウィル、そのトゲトゲの草に触っちゃだめだよ! 危ないからね!」


 注意を残して、ログハウスに走る。

 この感動を、恩人に伝えなきゃ。


「イヴ! すごいね、イヴ! スキル『植物創造レベルMAX』最高!」


 言いながら室内に飛び込み、びっくりする。

 ハティとイヴが言い争っていた。

 いや、言い争いなんて、あの二人には日常茶飯事なんだけど、いつもより険悪なかんじで………



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