49 ララは誰のもの?
森まで私を担いでいったハティは、狼の姿へと戻った。なるほど、変身は自由自在ってわけね。
ハティは私に質問を許さない。怒ってるぞ、って全身で表現してるかんじ。そのままぽんと、私を背中に乗せてログハウスへと帰還した。ほとんど誘拐するみたいに。
「ハティなの!?」
わぁ、と声を上げながら、ウィルが人間の姿をしたハティを見上げる。
「少し重くなったな、ウィル。3日会わなかっただけでこうも変わるとは。人間の成長は早い」
ウィルはハティに"高い高い"されて、キャッキャとはしゃいでる。
はう、美しい神様と可愛い天使の絡み、尊い……
それにしても、ウィルってば、人間版ハティにぜんぜん抵抗ないのね。
距離感を測りあぐねて、ひとり挙動不審な私がバカみたいだ。
「あら、ついに『定着』したのね。おめでとう」
イヴがあくびをしながら起き出してきた。
ソファの前のガラステーブルには、果物の皮が食べ散らかされてる。お腹いっぱいになって、そのまま寝たんだね。
「『定着』って?」
そう聞いても、イヴは含み笑うばかりで答えてくれない。ハティもどこか気まずそうにしてる。
「それについては、後で話す」
ちらりとウィルを見たってことは、ウィルには聞かせたくない話ってことだ。
オーケイ。そういうことなら、今は聞かないでおいてあげる。
『発情期』のアレコレがどうなったのかとか、この3日どこで何してたのとか、他にも色々と聞きたいことはあるけど、それもね。
ハティが何を怒ってるか知らないけど、私だって怒ってる。覚悟して。追及は、容赦しない。
「『アカツキ』はどうだったぁ、ララちゃん?」
おっと。
イヴが長い腕を回して、後ろから抱きついてくる。
「いい街だったよ。いつか住んでみたいって思うくらい」
「よかった。楽しめたみたいね~。私もね、『アカツキ』の街は好きなのよぉ。最後に行ったのは、もう150年も前だけど。人もおおらかで、いい街だわ」
150年前って、さすが神様。スケールが違う。見た目年齢20代だけど、イヴってば本当は何歳なのかな。反応が怖いから聞かないけど。
「その時は何しに行ったの?」
「ふふ。好きな男に会いに行ったのよ」
「好きな男!」
妖艶に笑うイヴがすごく色っぽくて、ドキッとする。
好きな男に会うために人間の街へと降り立つ女神様か。なんだか、素敵だな。
ハッとひらめく。
「その好きなひとって、もしかして人間?」
「ええ、そうよ」
その人とはどうなったの? 結ばれたの?
そう聞く前に、ハティが口を挟んだ。
「『アカツキ』が良い街なわけがあるものか。ララは襲われたのだぞ」
「いや、別に襲われてはないんだけど……」
「何を言う。あのまま反撃しなければ、あの下衆共に純潔を散らされていたぞ。奴等の瞳には欲望がありありと燃えていた」
じゅ、純潔を散らされるって……
それに、欲望とかなんだとか。
どうしてそんな言葉を簡単に口にできるの。恥ずかしくて死にそうだよ。
「真っ赤になっちゃって、可愛い」
ひぃ、もうイヴ、胸を揉まないでってばぁ……!
やだ、ひんっ、やめて……!
「触るな。これは俺のものだ」
ハティに肩を抱かれ、イヴから引き離される。ぎゅう、と抱き寄せられて苦しい。
ていうか、お、おれ、俺のものって……っ
頭が沸騰しすぎて、目が回りそう。
「やだぁ、ララのおっぱいが自分のものだなんて、ハティったらえっち」
「ち、違う! 俺が言ったのはそういう意味じゃなく……! ララ、違うんだ。誤解しないでくれ!」
揺れる灰色の瞳に迫られ、何も考えられなくなる。もう完全にキャパオーバーだった。
「あら、気絶しちゃった?」
くす、とイヴが笑った。
◇ ◇ ◇
「姉さま、だいじょうぶ?」
目を覚ますと、ドアップの天使のお顔があった。
頭の下には柔らかい感触……
「ひ、ひじゃまくら!!」
なんと、ウィルに膝枕されておりました。
最高かよ……!
ここは天国ですか?
キラキラ緑の目、垂れ下がる金の髪、ちっちゃな鼻にピンクのうるうる唇。
か、可愛すぎだよぉ……!!!
「いいこ、いいこ、はやくよくなってね」
私が病気か何かだと勘違いしてるのかな。
心配そうな顔で、頭を撫でられてしまった。
はきゅー………
再び気絶してしまったことは、言うまでもないよね。





