48 ハティの帰還
長さが太ももまである白銀の柔らかそうな髪。
シミ一つない、小麦色の健康的な肌。
すっと通った鼻筋に、薄い唇。
白銀の豊かなまつ毛に彩られた切れ長の目は灰色だ。
ギリシャ神話の神様みたいな格好をした件のイケメンは、私に柔らかく笑いかけた。
「どうした、ララ?」
はぅ、イケメンから紡がれる魅惑の低音ボイスの破壊力やばし……!
じゃなくて!
「あなた、ハティなの?」
「ああ」
たしかに、白銀の髪はハティと同じ色だし、灰色の目にも、声にも、覚えがある。
でも、そんなことってある?
「信じられないか? なら、これでどうだ。護衛騎士の誓いの印」
見せられたのは、大きな緑の宝石がついたネックレス。
これ、ハティを護衛騎士に任命したときに、首にかけてあげたやつだ。それを知ってるのは、私とウィルとハティしかいない。
まじか。本当にハティなんだ。
「ハティは人間に変身できるの?」
「そうらしい」
らしい? 自分の能力のくせに、あいまいな答えだね。
灰色の目が私を見下ろす。少し潤んでいるせいか、宝石みたいにキラキラしてて綺麗。
なんだか、吸い込まれそう。
大きな手に、頬をそっと包み込まれる。なぞられた目元がくすぐったい。
「こんなふうに、触れてみたかった」
熱っぽく囁かれた言葉がお腹の奥まで響いてきて、ぞくぞくした。
温かくて、心地よくて、
………夢見てるみたい。
と、
「その子から離れろ」
第三者の鋭い声が割り入ってきた。
せっかくいい気分だったのに、誰だよ邪魔したやつは……!
「あっ……」
アロンでした。そうだった。動かず待っとけって言われてたんだった。動いちゃった。思いっきり。
でも、私のせいじゃなくない!?
不可抗力だよ……!
アロンはハティに剣を向けていた。
「アロン、違うの。この人はハティだよ!」
頭大丈夫か? そう言いたげな視線を送ってくるアロン。
失礼な!大丈夫だよ!
「ハティは狼から人間の姿になれるんだよ」
私も今知ったところだけどな!
「その腕、食いちぎられたくなければ今すぐ剣を下げろ」
両者睨み合い、一触即発状態だ。
固唾をのんで、二人を見守る。
「その声……たしかに。申し訳ありません、ハティ様」
アロンが剣を収め、ようやく緊張が解けた。
ほっとしていると、アロンがギロリと睨んでくる。
つかつか大股でやってきて、私の両頬をつねった。
「君は本当に! 動くなと言っただろ、馬鹿! 5歳の子どもでもちゃんとできることが、どうして君にはできないの?」
「いひゃい、いひゃい。だっひぇ……」
「やめろ」
ハティがアロンを引き離し、背に庇ってくれる。
「ララは悪くない。暴漢共に襲われ、ここまで逃げてきたのだ」
「それで、その暴漢共というのはどちらに?」
「そこで伸びているだろう」
そ、そうだぞ、私は被害者なんだから!
……瀕死状態の彼らと無傷の私って構図では、そうは見えないかもしれないけど。
「だいたい、悪いのはララから一瞬でも目を離したお前だ。ララを責めるのはお門違いだぞ」
……ハティ、それは言い過ぎだよ。アロンもお仕事があったんだから、仕方ないって。
「………申し訳、ありません」
アロン、しゅんとしちゃったじゃん。
「ハティ、私が逃げ出したのも悪いよ。アロンが入っていった家に逃げ込んで、助けを求めればよかったんだもん。パニックになって、その時は思いつかなかったけど」
「そうだな。ララも、俺がいない間にこんな遠出をするべきじゃなかった」
あ、うん……
それを言われたら反論のしようもありません……
「帰ろう」
ハティが言う。
「え、でもまだ……」
いや、もうこの街に用事はないか。
買い物も済んだし、視察も終わった。
アカツキは良い街だった。物も豊富で、町並みは美しく、人も親切。そして、完璧に平和な街などどこにもないってことがよくわかった。
と、いきなりハティに担がれた。
お姫様抱っこなんて可愛いものじゃなくて、荷物担ぎだ。
た、高い……、というかこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい……! お尻と太ももに手が……!
おえ、肩がお腹に刺さる。
「ララは連れて行く。お前とは、ここでサヨナラだ」
アロンにそう言うと、ハティはさっさと歩きだした。
「ちょっと、ハティ、待って」
だめだ。ハティは私の制止を聞かずに、ずんずん歩いてく。
ええっと、なんか、ごめん、アロン!
「またね、アロン! 今日はありがとう! あの、この埋め合わせは後日するから……!」
ギリリと、アロンの歯ぎしりが聞こえた気がした。





