47 本気のナンパ
あらかた必要な物を買い終わって、今度はアロンの用事に付き合う。注文の薬を届けに行くっていうあれだ。
風邪薬かな? ハイポーションかな?
それとも、惚れ薬?
アロンは何も言わない。だから私も詮索しない。ちょっとだけ、気になりはするけど。
特に、惚れ薬は気になるよね。
誰が、誰に対して使うんだろう。
人の心を薬でどうにかするのはダメでしょ、とは思うけど、そこまでしてでも振り向かせたい相手がいるのは、いいなと思う。
私にもいつか、そこまで思える人ができるのかな。
「君はここで待ってて」
狭い路地にある一軒家の前で、アロンが言った。
「いい? ここから一歩も動かずじっと待ってるんだよ? わかったかい?」
「わかったってば」
そう何度も念を押さなくたっていいじゃん。
一回聞けば理解できるって。
ララはここから動きません。じっと待ってます。
それでも疑いたっぷりに、お客さんの家に入るのを躊躇うアロン。
「すぐ戻るから」
やっとアロンが家に入るのを見届けて、路地の壁に背を預けて待つ。
見上げれば、壁の幅に切り取られた、すかんと青い空がある。
静かだなぁ。
路地裏だというのに、浮浪者も孤児もいない。平和な街だ。
ここなら、ウィルも安心して連れてくることができる。
「お嬢さん」
あまりに平和すぎて、ぼうっとしてた。そのせいで、近づいてくる人の気配に気づかなかった。
すぐ側で声をかけられ、慌てて視線を向ける。
3人組の男が、私に笑いかけていた。
小綺麗な格好で、二十歳くらいとまだ若い。
「何か用ですか?」
「可愛い声だなぁ」
「ほらな、まだ若い女だって言ったろ?」
男の一人がそう言って、隣の男を小突く。
「暇そうだね。僕らとお茶でもしない?」
なんだなんだ、ナンパですか。
私も捨てたもんじゃないな……じゃ、なくて。
「いえ、人を待ってるところなので。暇ではないんです。ごめんなさい」
「誰を待ってるの? その人が来るまでいっしょに待つよ」
「兄です」
「お兄さんかぁ」
「ねぇ、なんで顔隠してるの? 見せてよ」
一人の男があろうことか、私のフードに手をかけた。
はぁ!? ちょっと、何すんの!?
避けたけど、間に合わなかった。フードが取り払われ、黒髪がするりと腰へ流れた。
なぜか包帯まで取れてしまって、完全に容姿を暴かれてしまう。
え、嘘でしょ……
3人の男が息を呑む気配がした。
まずいまずいまずい……!!!
私はパニックになって………逃げ出した。
そしたらなぜか、男たちも追いかけてくる。
ひ~~~~っ、怖い怖い怖い!!
「なんで追いかけてくるの~~~~!?」
狭い路地を走る。
なめるなよ、私には『体力∞』のスキルがあるんだ。このまま奴等が疲れるまで走り続けてやる!
と、思ってたのに……
行き止まりです。もしかして、誘導された……?
地元民が相手じゃ、土地勘のない私はかなわない。
「どうして逃げるの?」
壁に追い込まれ、見下される。
俗に言う『壁ドン』状態だけど、好きでもない男にされると恐怖でしかないよ。
「それは、あなたたちが追いかけてくるから……!」
「君が逃げるから、追いかけたんだよ」
う……、たしかに先に逃げ出したのは私だけど! もう、放っておいてよ~~~っ!
涙目になると、男たちの表情は益々熱を帯びてくる。
もうやだ……
男たちの腕が迫ってくる。逃げなきゃと思うのに、恐怖で足がすくんで動かない。
その時、ぴんと閃いた。
この路地、石畳の下は『土』だよね。
それなら、『植物創造』が使える……!
焦ってた。思った通りのことができるかどうかなんて、わからない。それでもやるっきゃない!
「"『ツタアケムよ、3人の男の体にまとわりつき、大きく育て!』"」
その瞬間、石畳が砕ける。何本もの深緑のツタが伸び上がり、まるで意思を持つかのような動きで悲鳴をあげる男たちの体にまとわりついた!
『ツタアケム』は木々や家の壁に絡みついて育つ、この世界固有のツタ植物だ。
一度絡みついたらなかなか取れない厄介な植物でもある。
本で知識を得たその性質を利用して、一か八かの賭けに出た。
そして、私は見事、その賭けに勝った。
『ツタアケム』は、男たちの体を拘束して離さない。
「やった~!! 成功~っ!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて作戦の成功を喜ぶ。
それにしても……
スキル『植物創造レベルMAX』最強すぎ!!
ひ弱な女の子ひとりで男3人を圧倒だ!
男たちは失神している。ついでに"失禁"も。
これ、どうしようか。
一度『創造』した植物は消せないし、私一人の力じゃ助け出すことは不可能。
可哀想だけど、このまま放っておくしかないよね。
それに、この状況を誰かに見られたら、説明が面倒だ。
よし、とんずらしよう。
そう決意して振り向き、絶句した。
とんでもなくイケメンな男が一人、唖然とこちらを凝視してた。
もしかしなくとも、見られたっぽい。それも、この驚きようからして、おそらく一部始終を。
「えと、これは、あの、その、なんというかですね……!」
あわわわわ、どう説明するんだよ~!!
ヤバいやつがいるって、辺境伯の所に連行されたら終わりだ! 拷問されたりなんかして、そこから芋づる式に私の正体が知れるに違いない! やばい、やばい、それはやばい。ウィルにだって、危険が及ぶ。
………このイケメン、殺るか……?
不穏な決意をしかけたとき、イケメンが笑いだした。
「急いで来てみれば、もう仕留めた後だったとは。恐れ入った。ララは強いな」
笑い声の合間にそう囁かれた声を聞いて、今度は私がびっくりする番だった。
この声、ハティだ。
いやいや、そんなのあり得ない。だって、ハティは狼で。だけど、目の前にいるこの男は人間だ。





