45 ミナヅキ王国へ
結局、3日経ってもハティは帰ってこなかった。
護衛のハティがいない間は森へは出ないほうがいいとイヴに言われて、この3日はずっと『安寧の地』のドーム内で過ごした。
普段、森を遊び場にしてるウィルにとっては、閉じ込められたような気がして息苦しかったみたい。
とはいえ、ドームの中にはツリーハウスがあるし、小動物たちというお友達もいるから、つまらない時間を過ごしているわけでもない。
つまらない時間を過ごしているのは私の方だ。いつも当たり前に側にいたハティがいないと、心にぽっかり穴が空いたような気がして、何に対してもやる気が起きない。
ハティに想いを馳せては、今頃どこで何してるんだろうって、ずっと悶々とした時間を過ごしてた。
そして───
今日はミカヅキ王国にある街『アカツキ』に出かける日。
アロンが植物馬に乗って、ログハウスへとやって来た。
今日のアロンはいつもより重装備だ。濃紺のローブの下に、革鎧が見える。帯剣もしているみたい。
「やぁ、ララ。なんだか元気がないようだけど、何かあったの?」
ハティの不在を告げると、「今日、街へ行くのはやめておくかい?」とアロンが気遣ってくれる。私がひどい顔をしていたからかもしれない。
「行ってきなさいよ」とイヴが口を挟んだ。
今日のイヴは、なんだか押しが強い。「でも……」としぶる私に、「アカツキの"タロ芋"がどうしても食べたいのぉ。買ってきて」と、無理にでも出かけさせようとする。
「ね、ほら、ウィルくんはわたしが見ておくから」
そういえば、ウィルが一緒に行きたいって駄々をこねないのは珍しい。
一緒に行きたいよね?と訊ねると、ウィルはイヴをチラチラと気にしながら「べつにっ。いきたくないよ!」と慌てて答えていた。
………なんか、怪しいな。
アカツキの街へ行くのは楽しみにしてたし、いい子でお留守番してくれるなら、行きたい気持ちはあるけど。
送ってくれるはずだったハティはいないけど、植物馬に二人乗りができるから、移動手段に問題はない。
結局、二人に後押しされるようにして、私とアロンはアカツキの街へと出かけることになった。薬草取り引きを早々に終わらせて旅の準備をする。
「白いローブを」
「わかってる」
アロンに言われ、彼にもらった白いローブをいそいそと羽織る。ぱっと見地味な作りのローブは、街の中でも浮かなそうだ。それでいて、よく見れば上等な品であることがわかる。抜かりのないアロンらしいチョイスだと思った。
「姉さま、きょうはハティ、かえってくるかな?」
一角ウサギを抱えたウィルが不安そうに聞いてくる。
「うん、帰ってくるよ。イヴがそう言ったもん」
「うん……そうだよね。いってらっしゃい姉さま!」
笑顔でお見送りしてくれるウィルをぎゅっと抱きしめる。
「お土産たくさん買ってくるね」
「うん! ベリーパイね!」
「おっけい。任せといて」
「飛ばします。しっかりとおつかまりください」
私とアロンを乗せた植物馬は軽快に駆け出した。
植物馬のスピードは想像以上に速く、通常馬車で一日以上かかる距離をたった2時間ほどで走り抜けてくれた。
ハティだったら一時間もかからないとは思うけど、植物馬も十分早い。
『アカツキ』は塀で囲われた大きな街だった。
見上げるほどに高さのある門の前には数人の門番がいて、彼らの審査を受けなければ、街の中に入ることはできない。
「薬師のアロンです。こちらが『薬師ギルド』の登録カードです。はい、自宅はこちらです。薬草を仕入れ、帰ってきたところです」
アロンが門番の質問にスムーズに答えていく。慣れてるってかんじ。
「彼女は私の妹です。ああ、顔の包帯は火傷の痕酷く、それを隠すために……」
うっ、とアロンが涙に声を詰まらせる芝居をする。
笑っている口元は、うまい具合に門番には見えない。
森を抜ける前に、私は顔の上半分を包帯でぐるぐる巻きにされている。まるで出来の悪いハロウィンコスプレのミイラみたい。
アロンてば、私の顔にぎゅうぎゅうに包帯を巻きつけながら、悪魔のように笑ってた。わかってたけど、アロンって絶対Sだよね。それも、ドS。
門番さんは、悲痛な面持ちで「可哀想に」なんて言ってくれる。良い人だね。
なんやかんやで、5分ほどのやり取りのあとあっさり街の中へ入ることができた。
「ふぅ、上手くいく勝算はあったけど、少し緊張したよ。君が何かやらかさないかってね」
ちょっと、アロンの中で私、信用なさすぎじゃないですか?
「言われた通り、ちゃんと黙ってたじゃん」
「うん、偉い偉い」
適当にあしらわれてイラッとするも、すぐに気が抜ける。
「本当にどうしたの、今日は。いつもならここでガミガミ噛み付いてくるくせに。もしかして、ハティ様が旅に出てるから? 寂しいとか?」
にやにやと、うっとうしい。
アロンってば、ほんと意地悪だね。
わかっててからかってくるんだから。
「さっさと行くよ」
「はいはい」
……そりゃあ、寂しいに決まってるじゃん。
ハティ、早く帰ってきてよ。





