40 魔物使い、ウィル
朝ごはんのあとは、畑仕事をするのが日課になっている。
スキル頼りの、楽ちん畑仕事だ。
まずは『収納』で運んだお水を、ざばぁっと放水。こんな雑な感じでも、私が『創造』した強すぎる植物たちは萎れたりしない。
雨のように水を降らせると、薄っすらと虹がかかる。これをハティと一緒にしばらく眺める。
「きれいだな」
眩しいものを見るように目を細めて、ハティは言う。灰色の目に、きらめく虹が映り込む。私はその目のほうがきれいだなって思う。そう言うと、ハティは照れる。可愛いから、毎度言って照れさせる。
『安寧の地』が作り出したドームの向こう、原っぱで遊ぶウィルの笑い声が聞こえてくる。
「──ああ、ウィルが面白いものを見つけたようだ。ちょっと行ってくる」
「うん」
ハティが駆けて行く。私の隣にいるときも、ハティは時々顔を上げては、ウィルに視線を走らせる。護衛の任務に抜かりはない。真面目さんだ。
ハティがウィルと合流した。ひときわ大きなウィルの笑い声がひびく。私の頬は自然と緩む。
「よし、次は……」
水やりが終わったら、次は在庫管理に入る。
『創造』を駆使して、次々に果物や野菜を生み出していく。
ここ最近、畑や果樹園の果物は常に実らせておくようにしてる。
ウィルがいつでもお腹を満たせるように、姉さまの粋な心遣いってやつだ。
畑には『イチゴ』。
果樹園には『りんご』『ぶどう』『バナナ』『オレンジ』『イチジク』。
小腹が空いたときに、さっともぎ取って食べられるラインナップだよ。
それから、イヴ用に『マンゴー』と『シャインマスカット』もね。
りんごをひとつもいで、ワンピースの裾で磨いてからかじってみる。
じゅわっと口の中に広がる果汁。
ん~~~っ、美味しぃぃぃ!
さすが青森県産ふじりんご。
畑にいる時間が好きだな、と思う。
植物や土の匂いは落ち着くし、頬を撫でる温かい風が気持ちいい。ついでに日向ぼっこをして、心も体もぽっかぽか。
………って、あら? ウィルがドームの前を行ったり来たりしてる。どうしたんだろ。あ、目が合った。呼んでる。いま行くよ、マイエンジェル……!
「姉さま、はいれないの」
「え?」
本当だ、ウィルがドームに阻まれてる。
透明の壁に頭を打ち付けたみたいで涙目だ。
どうしていきなり? いままで普通に入れてたのに。
と、頭の中で声が響いた。
《一角ウサギが境界線越えの許可を求めています。許可しますか》
一角ウサギ? それって、頭に一本角が生えたウサギの魔物だよね。
一角ウサギとウィルを間違えるなんて、スキル『安寧の地』バグってる?
「あっ、こら! だめだよ」
………うん?
ウィルの様子がおかしい。
上着の中に何か隠してるね。姉さまの目は誤魔化せませんよ。
「ウィル?」
「あ、あのね、いちごあげたらね、このこがおともだちになりたいっていうの」
「この子?」
そっと見せられた手の上に、小さな毛玉が乗っている。
ぴく、ぴく、とそれは小刻みに震えた。
ぴんと上を向いた短い耳に、額にある1センチくらいの突起。
これは………
一角ウサギの、赤ちゃん?
えぇぇ、前に突進されて、危うく殺されかけたやつじゃん。
「ウィル、その子は魔物だよ? 危ないよ」
「だいじょうぶだよ! わるさしないってやくそくしたもん」
「約束?」
友達になりたいと言ったとか、約束したとか、まるで一角ウサギと会話してきたみたい。
「ウィルはスキル『真実の目』を持っている。一角ウサギの感情を読み取ったのだろう」
いつの間にか側にきていたハティが言う。
つまり、『真実の目』って、魔物と会話できるスキルでもあるの!?
てことは、たぶん普通の動物とも……?
うわ、天使なウィルと動物たちがお話ししてるとことか、絶対可愛いじゃん……!?
ログハウスの方へ向けて、拝んでおく。
ありがとう、イヴ。可愛いステキイケメンに成長する予定のウィルに、さらなる付加価値をつけてくれて。
《一角ウサギが境界線越えの許可を求めています。許可しますか》
あ、頭の中の声に催促された。
「でも、やっぱり、魔物は……」
抵抗ありまくりだよ。
最近、昆虫型の魔物、クダシ虫のせいで危険な目にあったばかりのウィルだ。また、何かあったら……
「ウィルを害すなと命じておいた。命令に反すれば死よりも恐ろしい結末が待っている。この魔物はウィルを害せんよ」
くっく、と笑うハティさんが悪の幹部っぽくて格好いい。
でも、そっか。ハティがそう言うなら心配いらないかな。なんたって、ハティは獣の神様だからね。獣に魔物が含まれるかは知らないけど、言うことをきかせられるなら、上位には立ってるはずだし。
「ウィル、ちゃんと面倒を見るんだよ?」
「うん!」
キラキラ緑の目、かわゆす。
「"許可します"」
「ありがとう姉さま!」
一角ウサギを大事そうに抱えたウィルは、ツリーハウスへと駆けて行った。
去り際、一角ウサギに頭を下げられた気がするんだけど、気のせいだよね……?
その後、幾度となくウィルが持ち帰ってくる小動物たちの《境界線超え》を許可した。
追加の一角ウサギ、いろんな種類の小鳥、土亀に、ねずみ、リス、ハリネズミみたいな魔物、小さな猿……
動物も魔物も様々入り混じっている。
ツリーハウスはわずか数日で、動物園と化した。
餌は『植物創造』で無限に出せるし、お水も水道水で無限にまかなえるので問題ない。
とはいえ、ちょっとやりすぎなかんじはある。
そして……
頭に小鳥を乗せ、肩に猿を乗せ、胸に一角ウサギを抱いて、ウィルは順調にムツゴロウさん化していっております。なんか、間違った方向に進んでいるような気がしなくもない。
ま、小動物と会話してるウィル、とんでもなく可愛いからいっか……!
畑仕事をしながら、小動物と戯れるウィルを観察するのが、私の新たな日課になりつつある。
ほのぼのほんわか幸せ空間。顔がにやけちゃうね。
ただひとり、ハティだけは不満顔。小動物たちにウィルを取られた気がして寂しいのかも。





