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36 実は偉い神様ズ


「獣の神よ、そして植物の神よ、挨拶もせず御前に居座った無礼をどうかお許しください」


 ハティとイヴに向かって、アロンが頭を下げた。ほとんど土下座の勢い。


「どうしてあやまってるのー?」


 ウィルが、腰掛けたベッドの上から不思議そうにアロンを指す。

 質問されたイヴが高らかに宣言した。


「それはわたしが偉い神様だからよぉ!」


 もっと敬いなさい、とイヴはドヤ顔だ。


「よい、人間。ウィルを救ってくれたそなたには多少の無礼は許そう。楽にせよ。だが私とイヴに対してだけだ。ララへの無礼は微塵たりとも許さんぞ。先程から、ララに対するその偉そうな言葉遣いが気に障る。改めよ」


 ハティは威厳たっぷりに命じる。アロンはもう、「ははーっ!」ってかんじだ。青い顔して、冷や汗なんか浮かべちゃってる。


「しかし、本物の神に会えるとは……それも、5柱の最上神に数えられる厄神様と、美の女神様。………まだ夢でも見てるんじゃないかって思うよ。神の産物と名高い『エクストラポーション』がぽんと出てくるわけだ……」


 いま、『エクストラポーション』は私の手の中だ。赤い液体が小瓶の中で揺れている。

 アロンは薬師としての血が騒ぐのか、もの欲しそうに見てくるけど、欲しいとは言わない。その辺は新参者としてわきまえているのだろう。

 あとでこっそり見せてあげよう。


 しかし、アロンの反応からして、ハティもイヴもこの世界では相当偉い神様なんだなぁ。5柱? よくわからないけどすごそう。

 普段は、ただのカッコカワイイ狼と、ちょっと残念なお姉さんだけどね。


 偉い神様だとわかったところで、もうふたりは家族って感じだから、いまさら遠慮もなにもないんだけど。


「あの……よければ、庭園を見せてもらえないだろうか」


 さっそく言葉遣いを改めたアロンが、おずおずと言ってくる。


「いいよ。好きなだけ見て。ウィルを治してくれたお礼に、気になる植物があれば採ってもいいよ」


 薬草でも、野菜でも、果物でも、ご自由にどうぞ。案内しましょう。


「本当かい!? ありがとう!」


「ぼくもおそといくー!」


「ウィルはだめ。病み上がりなんだから、今日一日は寝てなくちゃ」


「えぇ~っ」


「イヴ、ウィルが外に出ないように見ててね」


「オーケー。ついでにマンゴー採ってきてね」


「はいはい」


 アロンは畑や果樹園を見て回りながら、キラキラした瞳で子どもみたいにはしゃいでる。

 いつもの澄まし顔のせいですごく歳上に見えてたけど、本当は私とそんなに変わらない年齢かもしれない。


《アーソロン・ノヴァ。22歳。魔法属性:水》


 お、『鑑定』さん、年齢が見れるようになってる。


 魔法属性:水、か。

 魔法で作り出した清らかな水を必要とする『ハイポーション』が作れるわけだ。


 魔法は貴族にしか使えない。侯爵家の跡取り息子だという本人の主張は正しいのだろう。


 いつも二番目の項目にあるスキルは表示されていないし、持っていないのかな。


「『ヒイラギ草』に『ハトマツ』、こっちは『ヨモギ』! す、すごい……絶滅危惧種が当たり前のように生えている! ここは植物の楽園だ……!」


 ああやってはしゃいでると、8つも歳上には見えないな。

 ちょっぴり微笑ましくなる。

 

「こ、これ、この果物? は何という名前なんだい? リルケに似てるが、大きさも、艶も、ぜんぜん違う」


「『リンゴ』っていうんだよ。あとでウィルに切ってあげるつもりだから、よかったら、その時いっしょに食べてみて」


「ああ、ぜひ……!」

  

 青森県産の高級ふじリンゴだから、果肉は弾けるように瑞々しくておいしいよ。


 "一日一個のリンゴは医者いらず"っていうくらいだから、リンゴは栄養素たっぷり。

 病み上がりのウィルにはぴったりの果物だ。


 たくさん収穫して、フレッシュジュースにするのもいいなぁ。

 絞るのは力がいるから大変だけど、今日はアロンという男手がある。彼にやらせよう。


「"リンゴの木よ、たくさん実をつけなさい!"」


 鈴なりに赤い実をつけていくリンゴの木を見て、アロンが腰を抜かせた。


 しまった。慣れすぎて感覚が麻痺してたけど、これって『不思議な現象』だった。


「………次から何かやらかす時は事前に一言欲しいな」 


「あはは、やらかすって──うん。ごめんね」


 顔面蒼白なアロンを見てたらさすがに可哀想になっちゃった。


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