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30 3つのレベルアップとマヨネーズ


《レベルアップ!『鑑定』レベルが3になりました。説明文が一文追加されます。説明文が3行になりました》


《レベルアップ!『収納』レベルが3になりました。内容物につき、時間停止機能が開放されました》


《レベルアップ!『安寧の地』レベルが3になりました。『キッチン(小)』『トイレ』が追加されます》


 庭の一角に作った調理スペースで朝ごはんを作っていると、頭の中で例の声が響いた。そろそろかなぁ、とは思ってたけど一気にきたな。無機質な女の人の声が連続で響いてきて頭がぐわんとする。


 今回のレベルアップ、色々気になる内容ではあるけど、いちばんはやっぱりこれ!


「『トイレ』が追加されますだって!?!」


 切りかけの材料を放り出して、ログハウスの中へと駆け入る。


 トイレ、トイレ、トイレ……どこにあるんだろ。あ、あれ! 壁際にいままで無かった扉が出現してる!


 扉を開けると、やっぱりトイレだった。しかも、ぽっとんじゃない…!


 "TOTO"ってマークがついててもおかしくないくらい、『日本』のトイレにそっくりな陶器製の水洗トイレ。なんと、トイレットペーパーまでホルダーにセットされてる。


 配管工事なんかした覚えは無いのに水洗だし、トイレットペーパーを取り出すと自然に補充される不思議満点のトイレだけど、そんなのどうだっていい。


 兎にも角にも、トイレができた!! これで、森の中で用を足さなくても済む! ああ、やっとだ……やっと、あの屈辱の日々から解放される……ありがとう、スキル『安寧の地』!


 ウォシュレットと、ヒーターの機能がなくても、流れるトイレだけでララは満足です!


 続いて、スキル『安寧の地』のレベルアップの説明にあった『キッチン(小)』を探してみる。それは、新たに出現したドアなしの続き部屋にできていた。


 一口コンロと、小さな流し台がある、ちょっとした給湯室のような狭い空間。だけど立派にキッチンだ。


 取っ手をカチってやるタイプのこの一口コンロ、ガスコンロだよね? ガスはどこから……? ガスメーターも見当たらなければガス供給管に繋がる管もない。


 そして流し台に設置された蛇口をひねるタイプのステンレス製の水道……


 いや、さっきは舞い上がって考えるのが後回しになってたけど、これってかなり、ヤバイことが起きてると思う。


 トイレもコンロも水道もどれも日本にいた頃、似たようなものをよく見かけた。だけど、この世界にはないものだ。この世界にはない技術だ。ここにあったらオカシイものだ。


 この世界で私が知るトイレは汲み取り式のぽっとん便所だった。

 それから、トイレットペーパーなんてものは無かった。薄紙と、使い古した布がお尻拭きだったんだ。

 ガスコンロなんてもちろんなくて、一日中火がたかれたかまどには火の番をする少年がいた。

 水は井戸から汲んで使っていた。


 はたと、気づいた。


「『安寧の地』、私の記憶に寄せてきてる……?」


 私の記憶、それは前世の記憶。私の家は両親が営むレストランと一体になっていた。ログハウス風の2階建て。……そう、ちょうどこのログハウスと似た雰囲気だった。1階がレストランで2階が自宅。1階にある調理場からいつも美味しそうな匂いが漂う家だった。忙しなく動き回る両親を手伝って接客し、休憩時間にはご褒美の特製デザートをお腹いっぱい食べて惰眠を貪る。そんな、幸せな、あそこが私にとってのまさに『安寧の地』で………


 つぅ、と頬を涙が伝い落ちた。


 もしかして、スキル『安寧の地』はスキルの持ち主が想像する『安寧』のイメージに従い、持ち主の希望に沿ったかたちでレベルアップするのだろうか。


 もしこの考察が正しければ、このログハウスは今後も私が望むように、あの懐かしい家を再現していくだろう。より便利に、より生活しやすい空間に、そうして進化していく。


 スキルは神様がくれるもの。このスキルをくれた神様が何の神様なのかはわからないけど………ありがとうございます。


「おはよう、姉さま」


 私のドタバタのせいか、ウィルが起き出してきた。さっと涙を拭って笑顔を向ける。


「おはよう。よく眠れた?」


「うん! よくねた!」


 腰元に抱きついてきたウィルの頭を撫でる。今日も安定のサラサラ具合だ。はぅ、癒やされる。


「いいにおい。おなかすいた」


 あはは。起きたばっかりなのに、今日も盛大にお腹が鳴っておる。

 レベルアップした『鑑定』と『収納』の機能は、あとでゆっくり検証することにする。


 まずは放り出してきた朝ごはんの続きを作らなくちゃね。


 前世を思い出してちょっぴりセンチメンタルな気分になっちゃったけど、今の私の居場所はここなんだから、きちんと日々を生きなくちゃ。

 自分もウィルも、幸せにするって決めたんだもん。


「いつも早いわねぇ、ララちゃん。よく頑張れるものだわぁ」


 朝ごはんが完成した頃、イヴが大あくびをしながら起き出してきた。


「イヴは遅すぎ。もうちょっと規則正しい生活をしたほうがいいと思うよ。美容のためにも」


「あら、大丈夫よぉ。ララちゃんが『創造』してくれる果物のおかげで、最近肌艶がいいの」


 果物にはお肌に良いビタミンCがたくさん含まれてるからね。たしかに、私の肌も最近調子がいい。


「ハティが言ってたでしょ。"働かざる者食うべからず"。果物が欲しければ、テーブルセット手伝ってね」


「も、もちろんよ!」


 慌てて出ていくイヴを見送って、私はウィルにトイレの使い方を教えた。

 イヴとハティの神様ズは用を足す必要はないらしく、トイレの説明はいらない。

 二人とも、あれだけ色々食べてるのに、栄養素も不要物も全部体内で消化してるのかな。ミラクルな体、羨ましい。


「姉さますごいね。いろんなものいっぱいだせるんだね」


 楽しいね、とウィルは瞳を輝かせる。


 ふっふっふ。姉さまはすごいでしょう? 本当にすごいのはスキルなのだけど。それは言わないお約束だ。


「テーブルセッティングできたわよ~!」


 イヴが呼んでる。


「ウィル、庭に『オクラ』があるから収穫してきてくれる? 緑のとんがり帽子みたいなやつだよ」


「ちくちくの毛がはえてるやつね! わかったー!」


 新鮮なオクラはちくちくしてるもんね。笑いながらカゴを渡すと、ウィルは庭園に走っていった。


 さて。オクラに合うドレッシングと言えば……


 マヨネーズだ!


 昨日絞ったオリーブの汁から、上澄み液だけをスプーンですくい出して、オリーブオイルは無事に完成してる。


 マヨネーズの作り方は簡単。オイルと、卵黄と、塩と、レモン汁を混ぜ合わせるだけで完成! 最初に卵を溶いて、オイルをゆっくり混ぜ入れるのが分離しないポイントです。


「おいしー! ぼく、にんじんたべれるよ!」


 ウィルはにんじんスティックにマヨネーズをたっぷりつけてぱくぱく食べてる。

 やっぱり、マヨネーズは野菜嫌いのお子さまの強い味方だね!


「この『マヨネーズ』、悪魔のドレッシングだわ。どうしてくれるの、食欲が止まらないわよぉ」


 うん、イヴはマヨネーズがなくても、いつもそれくらいぺろっと食べてるよね?


「美容に良いオリーブオイルで作ってるから、いくら食べても大丈夫だよ」 


「ほんと!? よーし、食べるわよ~!」

 

 しかし、太らないとは言っていない。


 パシ、と太ももに重みを感じた。見れば、ハティがマヨネーズの催促をしてくる。


 ハティにいたっては、野菜なしでマヨネーズだけペロペロ舐め続けてるね。


 気に入ってくれて嬉しいけど、みんな目が怖いよ。あとわずかに瓶に残るマヨネーズを狙って争奪戦が起きそうだ。


 マヨネーズは『悪魔のドレッシング』か。たしかに、それほど衝撃的な美味しさがあるかも。


 マヨネーズはまだ作れるから、喧嘩せずに食べてね。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] オクラにマヨネーズて、合うの? オクラにはかつおぶしと醤油、てイメージが・・・
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