2 異母弟、ウィル
黒髪黒目の容姿を理由に、家族や使用人から虐められ続けるという最低な環境の中、それでも『ララ』がぎりぎり正気を保てていたのは、『ウィル』がいたからだ。
ウィルはララ、つまり私の異母弟だ。
6歳のウィルは、お父様が使用人に産ませた婚外子で、半分は貴族の血が流れているにもかかわらず、私と同じで魔法が使えない。そのため、金髪に緑の目とせっかく貴族的な見た目をしているのに、コーネットの一員として数えられていない。さらに、愛人の子であることを理由にお母様が積極的に虐めるから、この家でのウィルの扱いは私と同等か、それよりも酷い。
ウィルの実母はウィルを産んですぐに亡くなっているから、そんなウィルを守る大人もいない。
私とウィルは、嫌われ者同士、助け合って生きてきた。兄のギドや使用人からイジメを受けるウィルをララは守っていたし、ウィルもララを心から慕ってた。お互いがかけがえのない存在。
───ララが自殺すれば、ウィルが一人ぼっちになってしまう。それでも、ララは死を選んだ。あの時はそれだけ、深く絶望したんだね。
井戸から生還し、私はすぐにウィルの部屋へと向かった。そして、ウィルに伝えた。私に嫁入り話が来ていること、だけど私は嫁ぐつもりはなく、その前に逃げ出すつもりだと。
「姉さま、ぼくもつれてって!」
「ウィル……」
「やだよ、ひとりにしないで!」
もちろん、私はウィルといっしょに逃げたいと思ってる。
でも、逃げ出したら最後、後戻りはできない。メリットデメリットを示したうえで、ウィルにはきちんとした意思確認をせねばならない。
心を鬼にして、ウィルを突き放すふりをする。
「ウィル。来年には、『判定式』があるよね。そこで良い『称号』が得られれば、コーネットの跡取りにだってなれる可能性がある。私と一緒に来たら、そのチャンスを棒に振ることになるかもしれないんだよ」
この世界の子どもたちには、7歳になったら教会で『判定式』を受ける義務がある。貴族も、平民も、漏れなくだ。
そうして良い『称号』が得られた者は、将来の成功と安定が約束される。
この世界では、『称号』がなにより重視される。次に、『魔法』。次に、身分。
私も7歳の時に受けたけど、特に良い『称号』は得られなかった。貴族のくせに『魔法』が使えないと判明しただけ。嫌な思い出しかない。
この称号は、神様からの贈り物だそうで、称号によっては人外並みの力が得られる。
たとえば、我がコーネット家には代々『剣聖』という称号を持つ者が現れる。お祖父様がそうだった。
だけどいま、コーネットに『剣聖』の称号を持つ者はいない。次の『剣聖』を得る者として可能性が一番高いのは、お祖父様が亡くなったあとに産まれたウィルなのだ。
『剣聖』の称号が得られれば、ウィルはコーネット家の跡取りにだってなれる。
「ぼく、あととりになんてなりたくないよ! えらそうなきぞくなんてきらい! 姉さまといっしょにいたい」
ウィルの意思は固そうだった。
「………後悔しない?」
「しない!」
「わかった。じゃあ、いっしょに逃げよう」