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144 始動! レインボーナイツ!


 論理的なプレゼンのすえアロンから"罠張り隊長"の座を勝ち取ったウィルは、レインボーナイツのメンバー(リアム&シュガ)と仲間の魔物たちを引き連れて意気揚々と森へ入った。


 中立の森はいまだ冬の真っ只中。幽霊の手みたいな枯れ木も、葉を残す巨木も、それに土も岩も、ぜんぶまっ白な雪に覆われている。その白黒の世界を、赤、青、黄色のマントが元気に横切っていく。


「ねぇ、ウィル。いったいどこまで行くんだい?」


「もうちょっとだよー」


 3人と普段おうちにいる小さな魔物たちは、東の砦を目指していた。4キロは、子どもの足にはけっこうきつい。ただし、『体力∞』と『駿足レベルMAX』のスキルを持つウィルには楽勝な道のり。そして底知れない力を持ってそうな子ども、に見えるシュガも平気な顔でついてくる。もちろん魔物たちも平気。ようするに、甘やかされて育ったリアム王にだけ、今回の冒険はきつい道のりだった。


「リアムの弱ミソくん。おんぶしてあげようか」


 女の子っぽいシュガにニヤニヤとからかわれ、リアムはむっとした。


「問題ないっ! ボクはっ、平気だっ! ハァハァ……」


 だけど、歩みはどんどん遅くなっていく。"ヨユーのある王様"っていう猫も完全にはげている。特徴的に跳ねた青灰色の前髪をかきあげるクセすら鳴りを潜め……心配したウィルは、助っ人を呼ぶことにした。立ち止まり、森の奥深くへ呼びかける。


「オガちゃーん!!」


 シーンと静かな雪の森に、ドス、ドスドスッと重たい音が響き始めた。音はどんどんこっちに近づいてくるようである。それに、振動も。突然の事態にシュガとリアムは、ヒーッとかたく抱き合った。こんなに激しい音と振動、巨大な魔物がぼくらを襲いに来るに違いない!

 だけどウィルは腰の立派な剣を抜きもせず、いつも通りの天使の笑顔で待ち構えている。シュガとリアムはときどき思う。自分たちの大将は、頭のネジがどっか抜け落ちているんじゃないかと。こんな緊急事態に笑えるやつは、バカか狂人くらいだ! どっちであるとも信じたくないけど。


 はたしてやってきたのは、想像通り巨大で恐ろしい()の魔物だった。


「「ヒーッ!!」」


 ウィルは相変わらず笑顔で近づいていく。


「「ウィ、ウィルぅ!!」」


 人型の、裸が赤くて、筋肉隆々で、角が生えてて、牙が上向いてて……ふしゅーっと熱そうな息がウィルの顔にかかった。あ、ウィル死んだ。……と、リアムとシュガは半分意識を手放した。だけどもちろん、ウィルは生きてる。そしてあろうことか、恐ろしい鬼の魔物に抱きついた!

 

「オガちゃん久しぶり! げんきだった?」


「ふがっ、ふがふがっ」


「そっかー! 赤ちゃんがうまれたんだ! よかったねぇ!」


 ……なんか、平気っぽい。そう気づいたリアムとシュガはおそるおそる意識を覚醒させた。現実に戻る。


「ウィル、コレは、魔物の上位種『オーガ』だろう……!?!?」

  

 とリアム。


「コレじゃないよ、オガちゃんだよぅ」


「オスなのか、メスなのか!?」


 ツッコミどころはそこじゃないでしょ! というシュガの呆れた視線スルーされ、ウィルは大真面目に考えはじめた。オスメスはウィルにとって考えたこともない問題だったようだ。オガちゃんは、オガちゃんだから。


「うんと、パパになったんだよね?」


「ふんがっ」

 

 どうやらオスらしい。というかむき出しの胸板はバッキバキだし、腰布だけって恰好から明らかだったのだけど。バカだこいつら、とシュガは言いたげ。


「……どうやって仲良くなったの、ウィル」


 シュガがぼんやり聞いた。


「前に戦ったことあって、なんか仲良くなったんだよねー?」


 パーティー会場で気が合って、とでも言う感じの気軽さだ。やっぱりうちの大将はとんでもない……

 シュガは『バカと天才は紙一重』ということわざを思い出していた。魔物と、それも最強の魔物と友達になっちゃうなんて、エルフにも人間にもこれまでいなかったはずだ。あの勇者でさえ、それは倒すべき敵にすぎなかった。


「うわぁ、わ、わ、高いっ!」


 ビクつくリアムをオガちゃんが肩に乗せ、一行は再び東の砦に出発した。途中、オガちゃんが他のふたりも背負ってくれて、3人で空中のお昼ごはんタイムをとったりした。その頃にはすっかりオガちゃんにも慣れてきて、話はお菓子や新しい遊びのアイデア、そしてレインボーナイツの由来へとうつる。


「オトナの監視なく出かけられるとは、良いな。レインボーナイツ、我ら自由の騎士なり!」


 とリアムが恥ずかしいことを口走ったのがきっかけだった。


「それ本当にダサい、イヤ」

  

 シュガは一刀両断するけど、リアムは「カッコいいじゃないか」と譲らない。これまで何度もあったやり取りだ。


 初めて3人が出会った日に、いっしょにツリーハウスの頂上に登って、そこから空にかかる虹を見た。3人はちょうど騎士への憧れを語っていたところで、その虹が天啓に感じられた。それで、ぼくらのチーム名にしようとリアムが勝手に決めたのがレインボーナイツの由来。


「ぼくはどっちでもいいよ」


 とつぜんウィルが言って、シュガは裏切られた思いでおにぎりをほおばるウィルを見た。ウィルだって、イヤだって言ってたくせに!


「だってぼく、3人でいっしょにいられたら、それでいいんだもん」


 はにかんで、言う。これにはシュガもリアムも、「ウィル……」と思わず感動してしまった。ララが作ってくれたお弁当のおかずから、唐揚げ、たまご、チーズのベーコン巻き、とウィルに餌付けを開始する。不可抗力だ。


「えへへ。ふたりとも大好き」


 ………好きっ!


 これが、ウィルの天然たらしたる所以だった。


「あ、そうだ。リアム、オトナの"かんし"はいるよ? 上にスゥベルとぉ、ほら、あの木のかげにミア! ぼくらにひみつで、こっそりついてくるって言ってたもんね」


「雰囲気ぶち壊しかっ! くそぅ、アロンのやつ、ボクを信じるとか抜かしてたくせに!」 


 ……この空気の読めない正直さもまた、ウィルの特徴のひとつだった。


 そうしてのんびり東の砦へと到着。


「よーし、はじめよっか」


 ウィルはにっこり笑って作戦開始を告げた。

 

 魔物たちがいっせいに四方へ散っていく。使えそうな薪、どろ、石などを集めたり、穴をほったりするのだ。ウィルやリアム、シュガも麻で縄を編みだした。


 落とし穴や底なし沼、足を取られるとギューンと吊り下げられる網、あるタイミングで振りかぶる丸太、などなど、ウィルが知恵を絞ってアロンが助言を加えた罠が着々と出来上がっていく。


 と、その片隅ではお猿のジョージが主体となって何やらこそこそ集めている。動物や魔物の(フン)、のようだけど……狙いに気づいて、ウィルがくすくす笑う。リアムとシュガは首を傾げた。あんなにたくさん糞を集めて、いったい何に使う気だろう?



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