13 獣の神とスキル『体力∞』『安寧の地』
《フェンリル。全ての獣の王であり、獣の神》
以上、『鑑定』さんより。
どうやらハティは、獣の神様だそうです。最強のはずだよね。保護した迷い犬は神様でした……ってなにそれ!どこの少女漫画だよ!いやごめん、少女漫画にもこんな展開ないよ!
「やっと、口を利けるまでに魔力が回復したのだ。一時はどうなるかと思ったが。その節は助けてもらい、感謝している」
精悍な見た目も相まって、なんだか『武士』ってかんじ。あと、無駄に重低音イケボ。
なんでも、ハティは何年も前に大怪我をして、力の大半を失っていたそう。そのために子犬の姿になって、ふらふら歩いてるうちにコーネットの屋敷に迷い込んだと。
「ハティ! ちからがもどったからって、このままどこかへいっちゃうの? いやだよ、ハティ。ぼくらといっしょにいてよ!」
ハティの首根っこにウィルがかじりつく。
「もちろん、どこにも行かん。俺はお前たちの『護衛騎士』だからな」
「ほんとう? よかったぁ」
うわ、私、ノリで神様を護衛騎士にしちゃってたよ。バチ当たんないかな。怖いよ。
「ハティがいてくれたら、そりゃあ心強いけど……」
なんたって神だし。
「無理しなくていいんだよ。神様を護衛騎士にするなんて畏れ多いし……」
「なに、お前たちを一生護衛したって、悠久の時を生きる俺には一瞬に過ぎぬ。遠慮はいらん。俺を側に置いておけ。護衛としてはこれ以上ないほど最強だぞ?………いや、今回は間に合わなかったが。守れなくてすまなかった」
おお、ハティがなんかイケメンだ。狼だけど。イケ狼だ。
神様がここまで言ってくれているのだ。断るほうが失礼かもしれない。
「わかった。じゃあ、これからもよろしくね。私達の護衛騎士さん」
「任せとけ」
ピコン、と頭に音が響く。
《神獣の加護を得ました。スキル、体力∞(無限)を習得しました》
「あの……ハティ? 神獣の加護ってなに?」
「ああ、お前たちは俺の保護下に入ったからな。力を少し分け与えた」
「ウィルにも? 『体力∞』って……」
「これからは何をしても疲れない体になる」
なにそれ、めちゃくちゃ強いじゃん……
森での生活が益々楽になりそうだね!
でもさ、それ、女の子にはあまり可愛くないスキルなんじゃないかな……
ただでさえ黒髪黒目のハンデを負ってるのに、ますます嫁の貰い手が……っ
森には危険がいっぱいだ。今回みたいにジャイアントベアーが出たら、疲れず逃げ回れるのはありがたい。背に腹は変えられぬ、これも生き抜くためじゃー!!
それより、気になるのはさっき突然発動した私のスキル『安寧の地』。
よく見れば、今も私たちの半径5メートルを透明のドームが覆ってる。シャボン玉みたいに、時々虹色に光る。
そして……、
ドームの中心には小さな掘っ立て小屋が出現している。薄い木の板でできた4畳くらいの狭い小屋だけど、屋根もドアもあって、雨風は凌げそう。
これってやっぱり、スキル『安寧の地』の副産物だよね。
「スキル『安寧の地』? 聞いたこともないな」
ハティも知らないみたい。
名前からして、このスキルで発動したドームの中は絶対安全の地になるのかもしれない。魔物や肉食獣や、私達にあだなす者は絶対に侵入できい。……もしそうなら、すごいスキルじゃない?
このドームの中なら無防備に寝こけても大丈夫ってことだもん。いや、いままでも警戒は護衛のハティ任せで無防備に寝こけてたけども。
ハティだって、心安らかに寝こけられるようになるね!
「この美味そうな匂いはなんだ?」
スンスンとハティが鼻を鳴らす。
「ジャムだよ。食べる?」
「うむ!」
「ぼくも手伝ったんだよー!」
「おお、そうか。それはすごいな」
辺りにはジャムの甘い匂いが充満してる。ジャイアントベアーもこの匂いに誘われてやってきたんだろうな。ハティがいないときは気をつけないと。
腕の怪我は、屋敷から盗ってきたお父様のウイスキーで消毒して包帯を巻いた。ウイスキーはアルコール濃度が高いし、うまく消毒できていればいいんだけど。
この日は、ドームの中にベッドを出して眠った。小屋の中にはキングサイズのベッドは入らなかったから、その横に出した。今夜も夜空の下で就寝だ。
ドームの持続時間が不安だったけど、翌日になっても、ドームはそのままの形を保ったままだった。





