12 レベルアップ〜『鑑定』レベル2
10メートル先には頭に角が生えた巨大グマ。ハティはいない。さぁ、どうする。
……本当にどうしよう。
もしかしなくとも、あの熊は魔物だよね。つまり、普通のクマより凶暴で強い。
『鑑定』の結果は、
《ジャイアントベアー》とでた。
知ってるよ。大きいクマってまんまじゃんか。『鑑定』さんの微妙さよ!
と、
《レベルアップ!鑑定レベルが2になりました。説明文が一行追加されます》
こんなときにレベルアップ!
それよりこの状況をどうにかしてよー!
苦し紛れに『鑑定』をもう一度かけると、
《ジャイアントベアー。非常に凶暴な肉食の魔物》と出た。
非常に凶暴な肉食の魔物であることは見ればわかるよー!めっちゃよだれ垂らしてこっち見てるもん!!
クマに出くわしたときはどうするんだっけ。目を逸らさず、ゆっくり後退するんだっけ。私は敵じゃない、私は敵じゃないって念じながら。
「姉さま……」
震えるウィルの声にハッとする。しっかりしなきゃ。ハティはいない。私が、ウィルを守るんだ。
ウィルを抱き上げる。けっこう重い。サバイバル生活で筋肉ついてきたかなって思ってたけど、引きこもり令嬢にはまだまだ『普通』への道のりすら遠そうだ。
その状態でゆっくりと後退する。
「私は敵じゃない。私は敵じゃない……」
念仏虚しく、ジャイアントベアーが突進してきた。
「きゃー!!」
奇跡的に避けるも、転んでしまう。ジャイアントベアーはすぐに体を反転させて襲いかかかってくる。
だめだ、今度は間に合わない。避けるも、やっぱりわずかに間に合わなくて、ジャイアントベアーの爪が腕をかすめた。
「いっ、」
「姉さま!!」
「大丈夫、かすり傷だから」
「血でてる」
うん、けっこう血出てるね。かすり傷は無理があるか。あー、これは傷跡残るやつだなぁ。せっかく将来有望な妖艶美少女の体なのに。
もっとも、"死を運ぶ鳥の君"を好んで娶ってくれる殿方なんてめったにいないだろうし、この体は誰にも晒さないまま一生を終えるかもしれないけど。
現実逃避をしてる間も、ジャイアントベアーは確実に迫ってくる。今度一撃を繰り出されたら、たぶん死ぬ。
ウィルも私も、地面に転がって泥だらけだ。震えて抱き合い、敵の攻撃を待つことしかできない。こんなの無理……
いや、諦めちゃだめだ!私だけじゃない。ウィルもいるんだから。ウィルには指一本触れさせない!
ジャイアントベアーが走ってくる。
「来るなー!!!」
ウィルを抱きしめて、叫ぶ。
と、
《スキル開放。スキル『安寧の地』を行使しますか?》
ジャイアントベアーはすぐそこだ。
《行使しますか?》
なんでもいい!早く助けて!
《スキル『安寧の地』を行使します》
ジャイアントベアーが突進してきた。凄まじい衝撃音。だけど、私とウィルは無事だ。
何が起こったのかわからない。ジャイアントベアーもわかっていない。頭を数度振りながら、ジャイアントベアーが再び私たちに襲いかかかろうとするけど、できない。見えない壁に阻止される。
そう、私達の前には透明の壁がある。こちらから手を伸ばしても空気を掴むようで触れることはできないけど、ジャイアントベアーの攻撃はアクリル板のように弾く。両者、呆然と睨み合う。しかし、その時間も長くは続かなかった。
ガルルルル!
いままで聞いたこともないような恐ろしい咆哮をあげて、銀色の巨大な狼がジャイアントベアーの喉元に噛みついた。ハティだ。
ハティが首をひねるように顎を振れば、肉が削げてジャイアントベアーはあっけなく絶命した。ハティより2倍は大きなクマだったのに。一撃だ。ハティってば、めちゃくちゃ強い。最強の護衛騎士だね!
ハティが私達のもとへ駆けてくる。
私の腕の傷を見て、しゅんと耳が倒れた。ペロペロと傷口を舐められる。唾液が染みて、ちょっと痛い。ハティの不思議パワーで傷跡も治るかなって思ったけど、それはできないみたい。
申し訳なさそうに、くぅんと鳴くハティを撫でる。
「ありがとう、ハティ。お酒で消毒するから大丈夫よ」
「……すまん。治癒の魔法は苦手なんだ」
「ううん、いいよ………………って、え?」
いま、どこかから、重低音なイケボが聞こえたよね。
ウィルを見る。周囲を見る。ハティを見る。
「ララ、大丈夫か?」
ララ、大丈夫か。そう、ハティの口が動くのをはっきりと見た。
灰色の双眼が、心配そうに私を見つめる。
「「は、ハティがしゃべったー!!!!」」





