11 レベルアップ〜『収納』レベル2
潜伏生活6日目。朝起きると、ハティがいなかった。少し遠くまで狩りに出かけているのかもしれない。
森でのサバイバル生活にもだいぶ慣れてきた。屋敷から盗んだ品々で過ごす快適生活をサバイバルと呼んでいいのかは置いとくとして。
ウィルはまだすやすや眠ってる。起こさないように、そっと布団から抜け出す。
朝ごはん、作らなきゃね。
『収納』から卵を取り出す。
卵はビタミン、ミネラルが豊富に含まれている貴重な栄養源だ。残り20個、大事に使っていこう。
と、
《レベルアップ!収納レベルが2になりました。容量300㎥を開放します》
ピコン、という音とともに頭の中で声が響く。
『レベルアップ』……?
300㎥っていうと、小学校のプールがそれくらいの体積だって聞いたことがある。そのぶん『収納』が広くなったってことかな。
正直、これまでの容量でも特に不便は感じてなかったけど。
『レベルアップ』とやらをしたら、容量が増えるのね。
どうやったらレベルアップするんだろう。特に変わったことはしてないけど……使い続けたらそのうちアップしていくシステム?
よくわかんないな。
ともかく、朝ごはんだ。
『スキル』問題については今は横に置いておく。そのうち色々とわかっていくでしょう。
それよりも、私にはウィルをお腹いっぱい食べさせるという重要な使命があるのです。
卵を2つ使って、ミニチーズオムレツをつくる。
バターでベーコンをカリカリに焼いて、チーズを溶いた卵でくるむ。
いい匂いに釣られたのか、ウィルが目をこすりながら起きてきた。
「おはよう、ウィル。よく眠れた?」
「うん。おはよう、姉さま。あさごはんなぁに?」
起きたばっかりなのに、お腹がぐぅぐぅ鳴ってる。
くすりと笑う。わんぱくなお腹だなぁ。
「チーズオムレツと、野菜スープとくるみパンだよ」
「チーズオムレツ!! わーい! おなかすいた! はやくたべたい」
ジャンプしながらきらっきらの目で見つめてくる。くぅ、皆様、ここに天使がおわします。
「いただきます!」
「はい、どうぞ」
いつものように可愛くセットしたテーブルでご飯を食べ始めても、ハティは帰ってこなかった。そろそろスープをねだりにやってくる頃なんだけどな……どこまで行っちゃったのかな。スープの匂いが届かないくらい遠く?
ウィルにテーブルマナーを指導しながら、森の方を見る。ハティがいないせいか、急に不安になってくる。いつもより森が静かな気がして、不安に拍車がかかる。
「きょうはもりにいかないの?」
朝ごはんのあと、かごを持ったウィルが聞いてくる。
ここ数日、朝ごはんのあとは森に食材採取に出かけるのが日課になっていた。
「案内役のハティがいないから。そのかわり、今日はいっしょにジャムを作ろう!」
「ジャムー!!」
ウィルがぴょんぴょん跳ねる。
「ぼくにもできる?」
「うん、いっぱい手伝ってもらうね」
保存のきかないお菓子はあらかた食べてしまった。そろそろ甘いものが欲しくなる。
コーネットの屋敷にいた頃は甘味なんて贅沢なものなかなか食べられなかったのに、ここ最近過剰摂取したせいで幸せを覚えた脳が暴走してる。というわけで、甘いものを欲する禁断症状が出ないうちに保存のきく甘いものを作ってやろうっていうのが、今回の狙い。
イチゴとかごをウィルに渡す。
しおれてきたイチゴも、ジャムにすれば大丈夫。美味しく日持ちする甘味へと変身だ!
「ヘタを取って、こっちのかごに入れてね」
「こう?」
「そうそう、じょうず!」
「えへへ~」
私はその間に火をおこす。火は、昨夜の焚き火の残り火を何とか復活させて用意した。ハティがいたらつけてもらえるんだけど、いないんじゃしょうがない。
鍋にヘタ取りの終了したイチゴを入れて砂糖をまぶし、かるく潰しながら火にかける。
まぜる係はウィルにやってもらう。
「んしょ、んしょ。わぁ、いいにおいしてきた!」
「ほんとだねぇ。美味しそうな匂い」
沸騰してきたらレモン汁を投入。レモン汁のクエン酸がジャムにとろみをつけてくれる。
時々かき混ぜながら30分程煮詰めれば完成!
「ひゃー! おいしそぉ!」
「まだ熱いけど、味見してみる?」
「する!」
『収納』からクラッカーを2枚出して、一枚をウィルに渡す。スプーンでジャムをすくって、クラッカーにのせてあげる。
「熱いから気をつけてね」
フー、フー、と息を吹きかけるウィルの唇はつやつやピンクで衝撃的な可愛いさです。
んんん、可愛い可愛い可愛い。抱きしめたい。だけどいまやったら天使が火傷なさる!我慢せよ、ララ!
「おいちー!」
んはーっ!『おいしい』が『おいちー』になりましたね。噛みましたね。可愛いです。ありがとうございます。
「美味しいね~」
ニコニコ、上機嫌でウィルの頭を撫でる。
青空の下、美味しいジャムに天使の笑顔。最高です。神様、この世界に私を転生させてくれてありがとう。ウィルの姉さまに産まれてこれて、私、幸せです!!
その時。
ガサゴソと茂みが割れた。
▶森のくまさんが現れた。
あー、やば。これは死んだ。





