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104 予感

 

 誕生日といえば──、そう、プレゼント!

 たくさんもらっちゃった。

 

 ウィルからは、ドライフラワーで作った髪飾り。

 アロンからは、愛読書の一冊。

 イヴからは、美しい彫刻が施された木製のジュエリーボックス。

 ビビからは、巨大な魔石。天敵を倒した記念品だって。

 そんな中、一番の意外性を見せたのは、セオだった。

 セオからは、絵付けされた木製のしおりをもらったんだけど、なんと妖精のイラストまですべて自作。強面な見た目に反して、繊細なものをお作りになる。人は見かけによらないって、本当だね。

 

 それから、『眷属』の比較的小さな魔物たちからも貢物があった。ウィルのときにもあげてた、宝石の類。『中立の森』には鉱山でもあるのかな。原石の一粒を『鑑定』したら、目がお金マークになるほどやばい結果が出たので、あとはそのまま『収納』にしまった。やれやれ、この調子だと、アロン塾でやっと手に入れた正しい金銭感覚とおさらばする日もそう遠くないな。


 ハティからは──、あれ? そいえばまだもらってないや。


「さすがお貴族様の屋敷にあったお酒よねぇ。美味しいわぁ。もう一杯!」


 裏庭のパーティー会場で、イヴは完全に出来上がってる。


 飾り付けられた会場を見て、みんなが密かに準備を進めてくれたんだと思うと嬉しくて……求められるまま、お酒をたくさん出しちゃったのがマズかったな。


「もうないよ。さっきのが最後の一本」


 お父様が相当溜め込んでたお酒も、何度か開かれた大人たちの宴会のせいですっからかん。

 飲酒しない私は別に困らないけど、お酒大好きイヴは苦渋の表情だ。あと、ハティも。


「えぇ〜っ! やだやだぁ、まだのむのぉ! あ、そうだわ。レネ(水の神)が神酒を溜め込んでたわね。たかりに行きましょう」


「それはいい。やつの造る酒だけは旨いからなぁ」

 

 ふたりの行動は早かった。池の水に腕を突っ込んで、ズルリと引きずり出されたのは──水の神様だ。食事の途中だったのか、お皿とフォークを持っている。怯えるレネを、ケケケと笑いながら囲むイヴとハティ。

 レネの不幸は、獣の足元に池など作ってしまったことだ。


「か、可哀想に……」


「まるでチンピラだな」


「神様には見えないよね」


 アロンと私は残りの料理をつまみながら、ちびちび飲んだ。──りんごジュースを。


 前の酒宴でしこたま飲まされたアロンは、お酒がダメになったらしい。格好悪いと、本人はちょっと気にしてる。けど、匂いで吐き気をもよおすらしいから、克服はしばらく無理そうだね。


「楽しいな」


 ぽつりと、アロンが言った。

 視線は広場に向けられている。


 ビビとウィルが、火の神様(体長3メートルほどのドラゴン版)に剣を打ち込んでいく。


「すきあり!」


「甘いっ! 俺には隙なんてねーんだよ」


「そこを突く」


「あッ!? ずりぃ!」


「フッ。隙などないのでは?」


「上等だ、コラァ」


 剣の訓練って言ってたけど、ほとんど遊びだね。

 

 セオも、剣の先生として指示を飛ばしながら参加してる。

 

 転がりながら、傷を作りながら、でも、笑いながら、みんなすごく楽しそうだ。たしかに、見てるとこっちまで楽しくなるね。

 

 と、アロンは急に正気に戻ったみたいにハッとして、


「……冷静に考えるとこれ、すごい光景のはずだよね。ドラゴンと人が戦ってるんだ」


「う、うん……」


 ドラゴンVS人間。

 スポーツ観戦するみたいに「楽しいな」なんて私たちは呑気に言ってるけど、普通は失神するか逃げるのが正しい反応。間違っても、ジュースを飲みながら談笑したりしない。


「アロンも相当毒されてるね」


「まったくだ。──でも、悪くないよ」


 最初の頃、不思議な光景を目の当たりにすると、逃げ出したそうな顔で頭痛を訴えていたアロンだ。そのアロンが、いまはすごくリラックスしてここでの生活になじんでる。しかも、楽しいって。


 それが、すごく嬉しいなと思った。

 私の笑顔につられたように、アロンも笑う。


「ありがとう、ララ。私を仲間にしてくれて」


「こちらこそだよ、アロン。いつも足りない私を助けてくれてありがとう。本当に、なんど助けられたか」


「君は危なっかしいから」


「むぅ……それは否定できないけど。でもでも、この世界の常識もいっぱい学んだし、イヴから淑女教育まで受けてるし。立派なレディになる日も近いよ。私ってば最近、成長著しいから」


 淑女(レディ)(笑)


 って、アロンはからかってくると思った。

 

 でも、返ってきたのは静かな肯定。


「そうだね。──本当に、その通りだ」


「やだ、ついに私を自慢の弟子だって認めた?」

 

「調子にのるな」


 アロンは私の両頬をつねった。おかしな具合にねじれた私の変顔がおかしかったのか、爆笑する。


 懐かしいな、と思った。前はよくつねられていたっけ。


「いひゃい、いひゃいってば。ギブ、ギブ」


「やっぱりこの顔はブサイクだなぁ」


 ふいに、私の頬に柔らかい熱が触れた。目をつむっていた私は、その正体に気づけなかった。「ブサイクはひどい!」って断固抗議する。それから告げ口。ハティ、アロンが私のことブスって言った〜!



 ウィルが、"ウィリアム"として生きる道ができ、私にかけられた魔法が解かれ、火の神様っていう強力な味方を得た。そして、返ってくる穏やかな日常。私の誕生日が、わかりやすい区切りだったのかもしれない。


 その夜遅く、みんなが寝静まったあと──

 アロンはひとり、静かに『安寧の地』を去った。

次話は、11月9日・月曜日に投稿します☆

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様'sは何時でもカオス発生源ww ララさんは何時でもカオス拡散器ww [一言] アロンさんは『安寧の地』を護る為、自身の戦場を定め旅立ったのでしょうか? だとすると少々格好つけ過ぎです…
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