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101 おはよう眠り姫 レベルアップ〜『安寧の地』レベル8

投稿が遅れ、すみませんでした

風邪っぴきはなんとか治しました!

季節の変わり目、みなさんも体に気をつけてお過ごしください(´・ω・`)


 さわさわと、頬に柔らかなものが触れる。

 くすぐったい。

 温かなシーツのはざま。

 身をよじって、私は目を開けた。


 飛び込んできたのは、大好きな彼の極上の微笑み。


「ハティ……」


「おはよう、我が姫」


 こめかみにキスされる。

 それもまた、くすぐったい。


「姫か……ふふ、姫、いい響きだね」


 ハティを護衛騎士に任命したのは私で、姫に騎士、その関係性はあながち間違いじゃない。


「あれ? 私──」


 ふと違和感を覚え、喉に手を当てる。声が……手が……


「ああ。元に戻っているぞ」


 次の瞬間、私は両手首を拘束され、ハティに組敷かれていた。


 だからといって、特に貞操の危機は感じなかった。ハティがしてることといえば、私を抱きしめる。首筋に頭をうずめ、深く息を吸う。ただ、それだけだから。


「大きな子どもみたい」


 ハティの頭を撫でてあげる。ふわふわの、綺麗な銀髪。シルクのシーツにも負けない上質な肌触り。


「ふふ、気持ちいい」


 男の人の、ハティの、身体のかたさ、厚み、重み、それがとても心地良い。


 近づくハティの唇。受け入れ態勢の私。むしろ積極的に動いた。ハティの首に腕を回し、ねだるように──

 

 だけど、望んだ熱は頬へ逃げてしまった。


「何をぼーっとしている。俺が暴走したら、『命令』で拒絶しろと言ったろう。でなければ止まらぬと」


「でも、いまは私もしたいって思ったから」


 ハティがうなる。


「俺はララを大事にしたいのだ。……しかし、この状況はいささか刺激が強すぎる」


「え?」


 ハティの視線を追い、ぎょっとする。


 わがままボディを覆うには、幼児服じゃあ圧倒的に力不足。イヴ特製幼児用ネグリジェは、見るも無残に破れ去っていた。


 つまり、私はいま、ほとんど裸なわけで。


「きゃーっ! み、見ないで! あっち向いて!」


「もう十分見たのだがな」


 シーツにくるまり、ベッドの端に逃げる。一気に目が覚めた。そう、さっきまでは寝ぼけていたのです。だから、大胆にもキスをねだったりできたんだ。


 でももうだめ、ララは起きた。


「いつからいたの! ビビは?」


 うん、おかしいんだよね。ハティがこの部屋にいるの。


 ここは女子部屋。私と、ビビの部屋。男子禁制で、唯一の例外はまだおこちゃまなウィルだけ。

 

「一時ほど前から。ビビはセオと共に早朝訓練に」


 悪気なく答えるハティはたぶん、裸の私を一時間たっぷり鑑賞したんだろう。とても、満足げ。


「アロンは?」


「ここにいるよ」


 音もなく部屋に入ってきていたアロンは、用意していたトレーでハティの頭を叩いた。


 パコン、と潔い音。


 やはり、彼がこの状況をヨシとするはずがなかった。


「ちょっと目を離した隙にあなたは、まったく! 犬でももう少しお行儀が良いですよ。元が獣とはいえ、人の姿を取るなら自重してくださいとあれほど。その耳はお飾りですか。だいたいあなたはウィルくんと森へ出かけたはずでしょう! どうしてここに……」


 窓辺のカーテンがはためいている。

 「ハティ、まーだー?」と図ったようなタイミングで、ウィルの声。


「窓から侵入したんですね」


 呆れてものも言えません、なんて言ってる割にはお小言が次々湧いてくるアロンである。


 それより、本当に「ものが言えない」状態になってるのはハティの方。


 神様が人間に頭を叩かれた。

 それはかなりの衝撃だったようで……

 もちろん、痛みではなく、精神的な意味で。


 むんずと首根っこをつかまれ、ハティはおとなしくアロンに連行されていく。


「ララ、お帰り」


 部屋を出る直前、アロンが言った。


 5歳児になっていたとはいえ、私であることは変わらなかったのに。変なの。とは思ったけど、その「お帰り」は実はけっこう嬉しかった。


「ただいま」


 せいぜい3日間、されど3日。

 

 一生このままかもって、不安になったこともあった。


 ほっとする。


 やっと、元に戻れた。



 ◆



「いま、がっかりしたでしょ」


 じっとり睨むと、ビビは「ぜ、ぜんぜん!」と全力で否定した。


 ビビとセオが早朝訓練から帰ってきて、これから朝ごはんという時間。


「ほんのちょっと、寂しく思うだけだぞ、うん。あの柔らかくて小さな生き物を、もう一度抱きしめたかったなぁと……あと、もう、二度か三度か四度ほど……う、嘘だぞ、ララ! そんな目で見ないでよぉ。ビビ姉さま、傷つく」


 お姉さまモードがいまだ抜けないビビだった。

 一方、イヴは落胆を隠さない。


「ええっ! 元に戻っちゃったのぉ!? せっかく追加のお洋服作ったのに。今日一日くらいは遊べるかなって思ってたんだけど、残念だわ。……ねえ、スゥベル? もう一度魔法かけてよ」


「ちょっと、イヴ!?」


「じょ、冗談じゃねぇ!」

 

 私やハティが怒るまでもなく、火の神様は断る姿勢を見せた。それも、ハティの睨みがきいたのか、かなり焦って。


「威嚇すんなよ、やらねぇて! てか、そもそも無理なんだよ。一人の人間に対して一度きり。変身の魔法には制限があんだ。言ったろ。俺はそいつに二度と同じ魔法をかけられねぇ」


「人を害するべからず。神々のルールゆえの縛りでしょうか」


 アロンの問いに、火の神様はふてくされて頷く。


「クソみてぇなルールだけどよ」


 ちなみに火の神様、今日もフリフリぴんくドレス姿である。3日間の刑罰の、2日目。


 ニヤニヤは、がんばって引っ込める。

 ハティの妻として、その親友とケンカするのは本意じゃない。

 私は寛大な大人の女だからね!(精神年齢5歳児って言われたこと、割と根に持っている)


「おなかすいた! 朝ごはんにしよ!」


 ウィルのかけ声と共に鳴った盛大なお腹の音に、みんなが笑う。


 ウィルが下げるかごには、鶏小屋から取ってきた新鮮な卵が7つ。献立が浮かぶ。


 これを味わうには……卵焼きがいい!


 つやつやで、ふわふわで、とろとろで、甘々の。


 それと、お味噌汁にごはんに焼き魚。

 美味しい和食を作ろう。

 キッチンに拒絶された幼いララはもういない。今日は思いっきり腕を振るおう!


 と、思ったのだけど……


「今日もララが元に戻ってなかったら大変だと思ってさ。へへ、私が作っておいたぞ」


 ビビの発言に、場が騒然となったのは言うまでもない。


 セオがゆっくり首を振る。てことは、事前に塩と胡椒以外の調味料を隠す計画は失敗したってことだ。


「一度きりでも例外が許されてるだけ、スゥベルはいいわよね」

 

 珍しく険のあるイヴの発言は、急に用事を思い出してそそくさと動き出す喧騒にかき消されることとなった。


 もっと踏み込んで、よくよく話を聞いていたら。後々の後悔を、このときの私たちはまだ知らない。



《レベルアップ!『安寧の地』レベルが8になりました。『ログハウス』に『3階部分』が追加されます。オプション解放。『暖炉』『テラス』が設置されます》


 久しぶりにレベルアップのお知らせがあったのは、翌朝のことだった。


 これ以上ないほど豪華に進化したログハウス。これはきっと、もうひとりの神様からのプレゼントなんだ。


 私の15歳の誕生日がやってきた。

次話は10月28日・水曜日に投稿します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 【と言うよりも愉快な点】 レベルアップした家、既に要塞ですね?w [一言] ララさん……… 一応はお嬢様だったララさんが今では… ホント…、ハティさんは罪な人ですね…(と、ニヤニヤしな…
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