100 フリフリぴんくドレスの刑!
「ぷっ」
「……ぶ……ぐふ……」
「くくっ」
さっきから、居間にはみんなの押し殺した笑い声が響いている。原因はこの方、
「笑うんじゃねぇー!!!」
羞恥に震える火の神様。それに合わせ、スカートも震える。
彼は今、『フリフリぴんくドレスの刑』に処されているところだ。私の命によって。
「くそったれ、覚えてろよ!」
「あーあー、そんなこと言っちゃだめだよ、スゥ」
すかさずウィルがたしなめる。
「これは"オオカミのつがいに手を出したバツ"なんだから」
狼の番に手を出した罰。
そう、その通り。
『砦を破壊した件は、ウィルの願いに免じて水に流してやる。だが、ララに手を出した件は別だ。報いはきっちりと受けてもらおうか』
体を元に戻して。
やだ。
そのやり取りがあったあと、仲直りのゆるい空気はどこへやら、ハティは一気に殺気立った。
『うそ! うそだって! 元に戻すから早まんなって!』
せっかく仲直りしたばかりなのに、またケンカになってはたまらない。火の神様は必死に弁解したのだった。
『てか! 魔法はもうとっくに解いてんだよ! そもそも、人間にかける変身の魔法には制限があんだ。一人に対して一度きり、2、3日しかもたねぇ。明日には勝手に元に戻らぁ』
というわけで、私の5歳児フォルムも明日にはお別れできるらしい。やったね!
そして今度こそ、めでたし、めでたし……とは、だけど、残念ながらいかなかったんだよね。
狼には狼のプライドがある。
『どちらにせよ、ケジメはつけねばならぬ』
ということらしい。ハティは引けない。
でも、仲直りしたばかりだし、かつてのような血みどろの戦いは、本心では避けたいところ。
だったら、とウィルが提案したんだ。
『では、"だいたいあん"を出しましょう』
『代替案?』
『ここは、ちょくせつのヒガイシャである、姉さまに"ケジメ"のないようを決めてもらうのです。戦い以外のほうほーで』
姉さま何がいい?
視線を受けて、びくっと震える火の神様。私はにやぁと笑った。
5歳児フォルムになって、何が一番屈辱だったかって、プリティすぎる衣装を着せられ遊ばれたこと。ていうか、現在進行形で、耐えている。
ケジメというなら、火の神様にも同じ気分を味わってもらうのが道理では? うん、我ながらとっても合理的な思考である。
てわけで、火の神様のケジメの内容は、
『フリフリぴんくドレスの刑!』
イヴが秒で作りました。ピンクのドレスに赤髪がなんとも目に痛い。けど、違和感がないから不思議なんだよね。オネエ感はあるけど、普通に美人。
「似合ってりゅよ、火の神様。ぷくく。とりあえず、2日間はそのままね」
はーっ、スッキリ!
「くそったれ、覚えてろよ!」
「覚えてろ? 聞き捨てならんな。わかっていると思うが、次はないぞ」
「もう手は出さねーって!」
「ほんとかなぁ?」
火の神様は、キレて暴走しやすい性格ぽいからね。信用できんね。
「それはお前だろ。嫌なことがあれば、すーぐ癇癪起こしやがる。まるで5歳児だぜ」
まさか。
気づいて、私はがく然とした。
「もしかして、私をわざわざ5歳児に変えたにょは……」
火の神様はにぃと笑みを深めた。
「精神年齢にみあった姿だろ?」
ムキーッ!!
悔しいけど、ここで癇癪を起こせば火の神様の言いがかりを証明してしまう。
安い挑発には乗らないもん!
ぷくーっと頬をふくらませ、ぷるぷる。
耐える私のほっぺを、ビビとイヴが「可愛い」とつつく。唇から空気が漏れる。私の憤慨は、たちまち和やかな雰囲気に飲み込まれてゆく……
し、しまらない。
「しかし、代替案とは。よく思いついたね。さすが私の弟子」
アロンに頭を撫でられ、ウィルはくすぐったそう。なるほど、お師匠の入れ知恵でしたか。代替案なんて難しい言葉がすらすら出てくるわけだ。
◆
火の神様は、夕食のカレー(『収納』から出したやつ)をちゃっかり食べ、おかわりまでして、すっかり我が家の一員と化している。
思えば火の神様は、いままでも『トルネードスネイク』のスゥとして食卓に参加してたんだ。ウィル以外、誰も正体に気づいていなかったけど。神様ズも気づかないって、どうなの?
目が合えば、鼻で笑われる。
私たちは変わらずバチバチで……
どうにも、仲良くなれそうにないな。
別にいいけどー。
ビビやセオは明朝の手合わせを取り付けて早々に打ち解けてる。
アロンでさえ、火の神様が住んでる火山地帯に生える植物の件で、深く話し込んでたし。
別にいいけどー!
窓辺の丸テーブルで、アロンが薬草調合の作業をしていた。
カラカラ。木製の手回し機が回る音が、なんとも眠気を誘う。
へんなの。火の神様がかき回した一日も、穏やかな夜に終わるなんて。
「おやすみ〜」
「おやすみ」
ビビとセオがあくびをしながら階段をのぼっていく。いつもよりちょっと早い。
火の神様が現れたらすぐ対応できるように、今日の午後は特に気を張ってたから、疲れたのかも。ありがとうね、ふたりとも。
イヴはとっくにソファで寝入ってる。
火の神様は、「テキトーにその辺で寝るからほっとけ」とのこと。
毛布くらい出してあげることにする。
癇癪のかの字も知らない、ララは穏やかで優しい子なので!
「姉さま、おやしゅみ……ふぁ」
「はい、おやしゅみ〜」
ウィルは火の神様と雑談しながら階段をのぼっていく。もちろん、フリフリドレス姿のまま。
テキトーに、とか言いつつ、ウィルの部屋で寝るつもりかな。あそこはいまセオも使ってるから、狭いと思う。
「お前さー、『みんなを守る!』とか言ってやがったが、それ、まさか俺も入ってんのか?」
「もちろん。スゥもぼくの大切な家族だからね」
「ぶっはは、バカが。人間のガキごときに守られるほど、俺ぁ、落ちぶれちゃいねーよ。んはー、腹いてぇ」
「じゃあきくけど、ぼくがかけた『共有』、切れる?」
むっとしてウィルが聞く。
火の神様は何か気づいたように、自身の左目に手を当てた。しばらく唸って、舌打ちする。左目はウィルの目と同じ、グリーンに変わっていた。
金とグリーンのオッドアイが、不機嫌に睨む。ウィルは得意げに笑った。
「むりでしょ。スゥよりぼくのほうがつよいんだ」
「ふん、生意気なやつめ」
「ウィル」
ハティが呼び止める。階段の途中で、ウィルが振り返った。手招きされ、おりてくる。
「なに?」
ハティの声は低く、真剣だった。
「そう急いで大人にならなくとも良いのだぞ。守る、などと……。お前はまだ、たった7つだ。親の庇護のもと、何も考えずに毎日を楽しく過ごせば良いのだ」
「……ハティは、『弱きを守るは強き者のつとめだ』って言った」
ハティは苦く笑い、ウィルの頭をぽんと大きな手で包んだ。
「たしかにウィルは強い。これからも強くなるだろう。しかし、知っているだろう? 我々だって十分に強い。仲間を、家族を、もっと信頼していい」
「でも……」
表情がくもる。ハティはウィルの髪をくしゃくしゃにする。
「なにを心配しておる。弱さをみせれば、我らが幻滅するとでも? ありえん。俺は、頼ってくれたのかと、嬉しくなるぞ。──いいか、覚えておけ。強い者も、一人ですべてを背負うことはできぬ。背負えば、心が壊れる。喜びだけじゃない。不幸も、家族はみなで背負うものなのだ。分け与えよ。良いな?」
「わかった。おやすみ!」
ぱっと笑顔になったウィルは、足取り軽く階段を駆け上がっていった。一瞬、ハティと視線を合わせた火の神様も追いかけていく。
「おっと。……どうした? ララ」
私はハティの足にしがみついていた。
もう何度目かわかんないけど、つくづく思った。
ハティがいてくれてよかったって。
ウィルは強いけど、その強さを自覚しているがゆえに、責任を感じてたんだ。自分がみんなを守らなきゃ。重荷がウィルを押しつぶす前に、ハティが気づいておろしてくれた。
「だいすきだよ、ハティ」
ウィルだって、勝手なんだから。私たちと同じ。
体が浮かぶ。ハティに抱きかかえられたんだ。近づく太陽の香り。たちまち包まれる。
「すぐに体が戻るようでよかった。10年、待たねばならぬかと覚悟もしたが。──所詮、無理な話だ。あと数カ月でも、待てるか怪しいというのに」
甘くかすれた声に、ドキドキ。幼い心臓でも、大人のララみたいに高鳴るんだ。見てくれが変わっても、心は私のまま。ハティが大好きで、ウィルが、家族が、大好き。幸せ。
そんなことを思っていると、
「ゴホン」
わざとらしい咳。アロンだ。
いつの間にか、手回し機の音が止まっていた。
カァと顔が熱くなる。見られた。大好きハグ、見られた。
「私がいること忘れてませんよね」
ハティがにやりと笑う。
「もちろんだ、薬師どの。──さて、ララは今夜も俺と眠ろうな」
「うぇ?」
「だめに決まってるでしょう。さぁ、ビビに預けに行きますよ」
「狼の姿を取る。それなら構わんだろう?」
「だめです。あなたには前科がありますから。ララをかしてください。あなたが抱いていると、どうにも犯罪臭がします」
「小うるさいやつめ。だからモテぬのだぞ」
「それは本当に余計なお世話です──」
二人が階段をのぼっていく。お決まりの、言葉遊びみたいなやり取り。声音の穏やかさが心地いい。ハティの胸で揺られ、いつの間にか私は、眠りに落ちていく……
感想返信、遅れてすみません!
明日以降に返信していきます(^^)
いつも励みになっております、感謝!
誤字報告も、本当に助かります!
ありがとうございます
次話は10月21日・水曜日に投稿します★





