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10 バーベキュー

 

 翌日……


 カゴを持って、ウィルと森の中を探索する。もちろん、ハティの護衛つきだ。


 前世の方向音痴は現世でも健在みたいで、私にはもう帰り道がわかりません。その点、ハティなら匂いで来た道がわかるらしいから安心。ハティ様々だ。  


「姉さま、これは?」


「うーん、たぶんそれは毒キノコだよ」


 本を片手に見比べながら答える。


 屋敷から持ってきた食料はまだ大量にある。だけど、無限じゃない。冬が来る前までの半年間は潜伏したいけど、そうなるとたぶん、いまの食料じゃ足りない。来る日の食料採取のために、こうして自給自足の練習をするのだ。


 だけどこれがけっこう難しい。本があるしって軽く思ってたけど、まったく知識がない中でイラストと実物を見比べながら食料を採取するのは大変な作業だ。


 『鑑定』さんは《きのこ》としか表示してくれないから、それが毒を持ってるのかわからない。まったく、役に立ちませんなぁ。


 かごの中にはころん、ときのこがふたつ。

 もう3時間はこうしてるのに。

 はぁ、先が思いやられる。


 いっそ周辺の村でも探して宝石類と食料を物々交換してもらうか。


 ……ううん、だめ。いきなり現れた怪しい二人の子どもの噂がコーネットに流れてしまったら終わりだ。


 やっぱり、この森で食料を見つけるしかない。


 けっきょく、夕方までかかってもかごは半分も満たされなかった。


 ………初めてにしては頑張った方だよね、うん。これからだよ、これから。人間は成長する生き物なのです。


 疲れた。お腹ぐぅぐぅ。


 拠点の原っぱに戻って、『収納』から大きな鉄板を出す。もちろん、コーネットのキッチンから拝借したものだ。


「今日はバーベキューをします!」


「バーベキュー?」

 

「お肉とか野菜とかを焼きながら、熱々のまま食べるんだよ」


 楽しみー!とウィルはハティといっしょに鉄板の周りを走り回る。


 具材を切って、お皿に準備。タレは塩レモンダレを作った。ウスターソースに似た味のタレもコーネットから拝借した調味料の中にあったから、それも出す。

 

 ハティに火をつけてもらって、バーベキュー開始だ!


「焼くからどんどん食べてね!」


 食材は火加減でどうとでも味が変わる。焼き奉行は任せなさい!


 もきゅもきゅと、ウィルは美味しそうにお肉や野菜をほおばる。膨らんでるほっぺを見てるだけでお腹いっぱいになるよ。


 ウィルはまだ6歳。成長期真っ只中だ。たくさん食べて大きくなるのだよ。


 ハティにもおすそ分けをしてるんだけど、それよりも、ハティは一角ウサギたちの狩りに夢中だ。バーベキューの美味しそうな匂いに釣られて、さっきから魔物がちらほら寄ってくる。寄ってきては、ハティに瞬殺される。


 ハティは焼いたお肉よりレアがお好きなようだ。それこそ、血もしたたるような……うぅ、想像はやめよう。


 でも、血を怖がってばかりもいられない。近く、私は獲物をさばけるようにもならないといけないのだ。じゃないと食用のお肉が手に入らない。解体方法は本に頼るとして、度胸の方は……


 ウィルはもきゅもきゅ幸せそうにお肉を次々口に運ぶ。


 ウィルを大きくするために、姉さま、頑張るからね!!!



 夜、天蓋のレースを取り除けば、満天の星を眺めながら眠ることができる。


 私とウィルはハティを枕にして、満天の星を見上げた。星座図鑑を開いて、ランプで照らしながら星座を探していく。


 屋敷を出てからというもの、ウィルは目に見えて元気になった。おどおどした態度はすっかり消え失せて、生き生きしてる。


 それでも、こんな無謀な旅に連れてきて良かったのかなぁ、と時々不安になる。

  

 ウィルがいなければ、この潜伏生活はきっと味気ないものになっていた。結局、私は一人で逃げ出すのが不安で寂しかったからウィルを連れてきたんだ。すべては私のわがままゆえ。


「ウィル……家族と離れて寂しくない?」


「ぜんぜんさびしくないよ」


 ぎゅーっと、ウィルは私の胸に抱きつく。


「それにね、ぼくのかぞくは姉さまだけだから」


 ほんのり赤らめた頬が可愛すぎます。天使ですか。


 ふわふわの金髪に手櫛を通すと、しっとり冷たくて気持ちいい。


「私もウィルがいてくれるから、ぜんぜん寂しくない。すっごく幸せ」


「よかった。ずーっといっしょにいようね」


「うん」


 ウィルにはちゃんとした教育を受けさせて、いい職業につかせてあげたい。可愛いお嫁さんをもらって私の元を離れていくその日まで、私がウィルを守るよ。

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