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第三十四話 対策会議 前編

「では、作戦を確認しておきましょう」


 円形に並んだギルドメンバーに向けナイトが言葉を発する。


 マオ、マスミ、ニイトの三人が魔法を手に入れ、僕らパーティのレベル上げはひと段落した。準備は整ったのだ。これからが本当の異世界攻略である。

 僕らは”次の標的”を再確認すべくギルドメンバー全員で集まっていた。


「僕らが目指すのはこの森の驚異の排除、そして来る異世界人との戦いへの備えです 。そしてそのどちらの目的にも欠かすことのできないファクター、それが“黒子鰐クロコ・ダイル”の討伐です。僕らの直近の課題はこのクロコダイルと戦い、勝利することにあります」


 ナイトの力強い言葉にその場の全員が頷く。クロコダイル討伐のためにこの三日間、僕らはそれぞれに準備を進めてきたのだ。

 言葉を切ったナイトは視線を洞窟の奥へと向ける。その視線の先には五人のギルドメンバーの姿があった。


「僕らはクロコ・ダイルの討伐のために班を分けて準備を進めてきました。僕、スミス、メイジ、シーフとサイチさん達新く加入してくださったパーティの五人を合わせた”戦闘班”の九人。そして、ヒーラ、ブレイン、バースデイ、エコー、コールオンの補助スキルを有する”待機班”の五人です。僕ら戦闘班は主にサイチさん達パーティのレベルを上げて戦力の増強を図ってきました。そして、待機班にはこの周辺の調査を依頼してありました。ブレインさん、その成果を発表していただいてよろしいでしょうか」


「アア。了解シタ」


 ナイトに指名されたのはアフロヘア―が特徴的な白衣の男、ブレインだ。ブレインはガタガタとまるで機械が動くかのような硬い動きで立ち上がると抑揚のない片言の日本語で返事をする。

 僕らの前で立ち上ったブレインは拠点の奥へと移動する。ブレインは190㎝を超えるであろう長身なのだが、やせ型の体系でありあまり威圧感は覚えない。


「私ラ待機班ハ周囲ノ探索ヲ担当シタ。ソノ成果ハフタツダ。ヒトツハ周囲ノ魔物ノ種類、ソシテソノ分布ヲ記シタ地図ヲ作成シタ。皆ニモ今カラ見テモラウ」


 ブレインが皆に示したのは樹脂で作った紙に書かれた地図であった。そこにはこの周囲の詳細な地形と、そこに生息する魔物の行動範囲。さらにはそれぞれの魔物の詳細や、わかる範囲でのスキル構成まで示されている。

 ちなみに樹脂製の紙と、地図を示した黒鉛はスミスが『精製』で用意したものである。


 僕らが地図を囲むように移動するとブレインはぎこちない動きである一点を指さした。


「ソシテコレガモウ一点。コノ円ノ範囲ガ憎キクロコダイルノ行動範囲ダ。奴ハコノ拠点ヨリ西ニ三キロノ地点ヲ活動拠点ニシテイルヨウダ」


 地図上に一際濃く書かれた線。それは待機班が探り出したクロコダイルの生息域だった。それを見たエイムは驚きの声を上げる。


「すごいですね。五十近くにも及ぶ魔物の生態をこんなに広範囲に。待機班の五人でいったいどうやって調べたんですか?」


「当然スキルヲ利用シタ。説明スルニハ私ラノスキル構成ヲ話サナケレバナラナイガ」


「是非、お願いします!」


 スキルと聞いてエイムの目に輝きが増す。そういえば、待機組メンバーの中で面識があるのはヒーラとエコーだけ。他のメンバーとは僕らが加入してからのごたごたのせいでほとんど顔を合わせていなかった。


「アナタ達トハ碌ニ自己紹介モ出来テイナイ。コノ機会ダ。軽ク私ラノ事ヲ紹介シテオコウ。皆、来テクレ」


「は~い」


 洞窟の奥から上がる元気な声。


「イヤ、ヒーラハ既サイチ達ト面識がアルダロウ」


「うん。だからウチが皆の事をサイチさん達に紹介しようかなと思って~。サイチさん達、いいでしょ~?」


 ヒーラはそう言って僕達に向け首を傾げる。なぜヒーラが名乗り出てきたのかは謎だが、おそらく親切で言ってくれているのだろう。


「じゃあ、頼もうかな」


「了解なの~」


 僕らの了承を受け、ヒーラは満面の笑みを浮かべる。

 すぐに駆け出したヒーラは待機組のメンバーの内、赤と白のストライプ柄のシャツを着た大柄な男の下へと駆け寄っていった。


「じゃあ、まずは彼から紹介するの~。彼はコールオン君、ギルドの連絡係なの~。スキル『念話』を持っていていつでもだれにでも連絡が取れるの~。女神様みたいに頭の中に直接語り掛けるからソワっとして楽しいの~。ただコールオン君は無口だから頼んでもあんまりスキルを使ってくれないの~」


『皆さん。ただいま紹介にあずかりましたギルドの通信手、コールオンです! よろしく願いします!』


 突如頭の中に響く音声。この感覚は女神から送られてくる神託に似ているが声の主は明らかに男性のものであった。


「これが『念話』スキルですか?」


「そうなの~。コールオン君は一キロ以内の相手であればだれとでもメッセージの送受信ができるの~」


『はい! ただし無制限にというわけにはいきません。通信できる相手は私の身体の一部が触れている者だけです』


「? だけど僕の身体には今、触れてないだろ。なぜ『念話』が発動しているんだ?」


 頭の中に聞こえてくる声の矛盾に僕は首を傾げる。


『はい! 皆さん、”ギルドメンバーカード”はお持ちですよね? それはスミスさんが『精製』した鉄でできたものですが、そこに僕の髪の毛が含まれています。どうやら抜いた後の髪の毛でも体の一部と認識されるようで、それを持っている限り私の『念話』の対象とすることができます』


 コールオンに言われ僕はポケットから一枚のカードを取り出す。それはナイトからギルド入団時にもらった鉄製のカードであった。大事なものだから肌身離さずに持っていてほしいと言っていたが、どうやら念話スキルを使うために必要なものだったらしい。


「それにしてもちょっと声が大きくないか? うるさくて頭が痛くなってきそうだ。もう少しボリューム落としてくれないかな」


『はい! 了解です! 善処いたします!』


「ははは……わざとやってないよね?」


 『念話』の声はまるで耳元、いや、耳の中で話しかけられているようなほどの感覚がする。実際に耳元で話しかけられているわけではないので耳が痛くなるようなこともないのだろうが、もう少し声を落としてくれないだろうか。錯覚ではあってもなんだか頭が痛くなるような気がしてくる。



「じゃあ、次はバースデイさんを紹介するの~」


「ヒッ、ヒヒヒ。皆さん……よろしく」


 次にヒーラが示したのはブレイン同様白衣を着た長い黒髪の女性だった。体格的には150㎝ぐらいだろうか。髪は長いといっても腰にかかるぐらいであり女性ではそれほど珍しいとまでは言えないだろう……ただし、なぜかその髪を顔の前に垂らしているのだ。絶対に前が見にくいと思うのだがなんとも前衛的なファッションである。話し方や雰囲気もどことなくほの暗いのだ。彼女が来ているのはただの白衣のはずだが、雰囲気と相まって白装束に見えてくるから余計に不気味さが引き立っている。


「バースデイさんは広い範囲を継続的に調べるのに向いたスキルを持っているの~。そのスキルがすっごいんだよ~。なんと、自分のいうことを聞く魔物を生み出せちゃうの~!」


「ヒッ……ヒーラちゃん、そんなに褒めないで。私のスキルなんて、醜悪で愚鈍な魔物を生み出すだけのスキルなの。ゴミのような私にはお似合いのスキルだけど、褒められるような謂れはないのよ」


「そんなことないの~。バースデイさんのスキルは他の誰にも使えないんだから誇ってもいいの~」


「ヒッ……ヒーラちゃん。言いすぎだって。私なんか何のとりえもないダメ人間なんだから」


 よくわからない会話を繰り広げるヒーラとバースデイ。二人の様子を見かねたナイトが補足で説明を挟んでくれる。


 なんでもバースデイは自身の命令に従う鳥型のデコイを生み出す『胎孕』スキルを持つようでそれにより広範囲の索敵が可能なのだそうだ。デコイは戦闘能力を持たない代わりに一定以上体が破壊されるまで行動を続けられる性能を持つため長期間の索敵には非常に相性がいいのだそうだ。

 ちなみに、『胎孕』という字が示すようにデコイは子宮で生産し、産道を通って生み出すらしい。当然、生産には激痛が伴うらしいのだが……すでにデコイは十体以上生み出しているそうだ。なぜそんなスキルにしたのか疑問に思ったが、髪を振り乱しながら自虐的な発言を繰り返すバースデイを見ていると聞くのが怖くなり、僕らは口をつぐんだ。

 とはいえ、今回の地図作製は彼女のスキルが要となったらしい。『胎孕』が有用なスキルであることは間違いないようだ。




「デハ、私モ自己紹介シテオコウカ」


 最後にアフロヘア―に白衣という異質な格好の男が前に進み出る。


「あ~。ウチが紹介するよ~」


「……誰ガ話シテモ同ジダ。私の名ハ、ブレイン。スキル『高速処理』ヲ持チ、ギルドノ情報管理役ヲ担ッテイル」


 ヒーラの申し出を断ったブレインはそう言って恭しく頭を下げた。僕らもそれに合わせお辞儀をする。ちなみにヒーラはブレインの後ろで不服そうに頬を膨らませていた。


「エコーヤ、ヒーラノ事ハ既ニ知ッテイルナ?」


「はい。エコーさんにはレベル上げを付き合ってもらいましたからね」


「ナライイ。私ラ五人デ待機班ダ。バースデイハ『胎孕』デデコイノ生成。デコイニハ事前ニ行動ヲ指示シ、現在モコノ拠点ヲ中心ニ索敵ヲ行ッテモラッテイル。デコイガ得タ情報ヲコールオンガ『念話』デ受信。デコイハ人語ヲ話セナイタメエコーガ『言語スキル』デ通訳。ソレヲ『高速処理』デデータ化シ私ガ地図上ニ起ス」


「なるほど。皆さんのスキルを組み合わせてこれだけ大規模な調査を行っているのですね」


「あ~。ブレインさん、ウチの事説明し忘れてる~。ヒーラはね~。みんなが疲れたら『治癒魔法』で癒してあげるんだよ~」


「アア。モチロンヒーラモ私ラノ仲間サ。イツモアリガトウナ」


 ブレインはおもむろにヒーラの頭へと手を伸ばす。優し気な手つきで頭を撫でられるヒーラ。笑顔でそれを受けるヒーラの姿は年相応の少女のもので僕らも思わず微笑んでしまう。





「待機班のみんなの尽力で無事、クロコダイルの居場所は判明しました。後は奴を討伐するだけです。ただし奴の力は今まで対峙したどの魔物よりも強い。今からの戦いにはみんなの力が必要です。当然これ以上犠牲を出してはいけません。みんなで、生きてクロコダイルを討伐しましょう」


「ああ。必ずギルドの皆の仇は討ってやる」


「僕たちの戦いはこれからだ!」


 ナイトの掛け声に僕らは同調する。打倒クロコダイルに向け、僕たちの士気は高い。




最後、打ち切りっぽいせりふとなりましたがこのまま何事もなく次話に続きます。

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