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第十七話 夜は更けて

 洞窟の前で火を囲う僕とマスミ。僕らの間に会話はなく、周囲は不気味なほどの静寂に包まれている……つまり、平穏そのものだ。


「結局、何も襲ってこなかったな」


「俺様、期待して損しちゃった。洞窟で肉片を見つけた時には襲撃フラグかと思ったんだけどな~」


「まあ、命の危険はないに越したことがないだろ」


 無事四十本目の木の枝が燃え尽き見張り交代の時間となる。

 女神が僕らを裏切っているのかもしれないという疑惑、この戦いの不自然さについて触れた後はお互いあまり話さずに見張りを行っていた。もとから自分から話を振る方ではない僕はマスミ話すのに飽きて黙ってしまえば自分から話しかけづらい。

 何を話そうと考えるうちに気まずい時間は過ぎ去ってしまったのだ。うん。自分のことながら情けなくなるな。まだ、気になることはあったのだが聞くのはまたの機会にしよう。


 僕らは音をたてないように気を使いながら洞窟の奥へ行くとニイトに声をかける。


「ふにゃ? ふああ。もう交代の時間か」


「その様子だとしっかり眠れたようだな。ゆっくり休めたのか?」


「ああ。正直ここに来る前はフラフラだったからな。今は気分もだいぶましになった。後の見張りは俺に任せとけよ」


 小さな声であいさつを交わし、ニイトは洞窟の外へと向かう。



「じゃあ、俺様もう寝るから。おやすみ~」


「ああ。おやすみ」


 見張りを共にし、マスミとも少しは打ち解けられたのだろうか。マスミと言葉を交わした僕はそのまま横になる。草のごわごわした質感は普段であればとても眠る気にはならない質感だが今はこんなものでもないよりはましだ。

 

 天井を見上げ目をつむるが、一度寝たためだろうか。眠気はやってこない。体は疲れているはずだが、先ほどの会話で精神が高ぶっているのかもしれない。僕は目を開けると音をたてないように思考する。

 こうしてじっとしていると心中は不安で押しつぶされそうなのを自覚する。頼る当てもないこの異世界で僕らに力を与えた女神まで信じられないのだとしたら、僕らはこの先どう進んでいけばいいのだろうか。考えても仕方ないことだと先ほどの会話では結論付けたはずなのに、脳を黒い思考が覆っていく。

 ダメだ。こういう時はもう少し建設的なことを考えよう。マスミも言っていたが今は生き残ることを最優先に考えるべきだ。僕は一人頭を振る。


 考えるべき事柄としてはやはりスキルの事だろう。ライノーとの戦闘で僕らはレベルアップを果たしている。現在、マスミを除いた皆がスロットに空きがある状態だ。僕はどんなスキルを取得すべきか、今まで手に入れたメダルを思い返す。

 『鑑定』により今まで出会った魔物が持つ因子は判明している。その魔物が持つ因子のメダルがドロップするのか、あるいはその魔物の持たない因子のメダルでもドロップするのか。後者であれば範囲が広すぎるため前者の前提に立って考えるべきだろう。


 リビングウッドは【筋】、ライノーは【角】と【甲】、シープ・エイプは【脳】の因子を所持していた。

 【筋】【角】は攻撃スキル、【甲】は防御スキル、【脳】はサポートスキルの取得に向いている。良いスキル案が思い浮かべばその因子を持つ魔物を積極的に狩っていってもいいだろう。


 僕の『硬化』は皮膚組織の硬度を上げるスキルだ。移動速度が低下する代わりに大きく防御力が上昇する。また攻撃力も素手で殴る場合に比べれば高まるが、単純に武器を手にしたらそれを使った方が強いだろう。

 僕は戦闘風景を思い返す。リビンウグッド、ライノー戦では回避や防御は十分間に合っていたが相手の固い防御を突き崩すことができなかった。シープ・エイプに対しては遠距離攻撃手段がなく、ほとんどの個体を逃がしてしまった。高い攻撃力に、遠距離攻撃手段……どちらも『硬化』スキルとの組み合わせで相性がいい物ではないと思う。


 うーん。では、どういったスキルを取得するべきだろう。『硬化』と組み合わせるとすれば一番相性が良さそうなのは硬度を上げることができる【甲】の因子だ。

 【骨】に装填し骨の硬度を上げれば皮膚表面に現れる外骨格にも硬度の上昇が適応されるはずだ。

 攻撃面を上げたければ【角】もいいかもしれない。【骨】に装填することで展開する外骨格に小さな角を無数に生やし全身を棘で覆ったような形に出来るだろう。


 ただし【甲】も【角】も因子を持つのはライノーだ。手にするにはもう一度あの巨体とやりあわなければならないわけだが……今の僕たちで戦いになるのか? あの時は地形が僕らに味方していた。狭い洞窟の入口が間にあったからこそ僕らは一方的に攻撃を加えることができたわけだが、平原で出会えばマスミ、マオを除きライノーの攻撃を避けることはできず最悪全滅も覚悟しなければならない。今の戦力でライノーを狙うのは現実的ではないだろう。

 幸いあれだけの巨体だ。森の中を音を立てずに移動することは不可能であろうし、待ち伏せをされたところで隠れられる場所があるとも思えない。『探知』を続けていれば戦いを避けることはできるはずだ。


「? サイチさん。まだ起きてるんですか」


 掛けられた声に視線を向けると上体を起こしたエイムと目が合う。

 

「なんだ。起こしちゃったか?」


「いえ。緊張で眠りが浅くなってるのかもしれませんね。サイチさんも眠れませんか」


 エイムに合わせ僕も体を起こす。眠気が無いとは言えないが、今横になってもやはり眠れそうにない。


「ああ。スキルの事を考えていたんだよ。僕らは今、スロットに一つずつ空きがあるだろ? どんなスキルを取得すべきか考えていたんだ」


「サイチさんのスキルは『硬化』ですもんね。どんなスキルを取得するのか決めたんですか」


「今日までに魔物に見つけた因子は【甲】、【角】、【脳】、【筋】の四つだろ? その中なら【甲】か【角】がいいんじゃないかと思ってるんだけど」


「【甲】と【角】ですか」


 エイムの言葉に僕は首肯する。


「ああ。『硬化』スキルは皮膚表面を骨で覆うスキルだろ。だから【骨】のスロットに因子を装填すれば相性がいいと思うんだ。【甲】なら更に硬くなれるし、【角】なら表面に棘を生やして触れた敵に逆にダメージを与えられるようになるんじゃないか」


 正直こういう考察に自信は無いが、自身で考えたにしてはいい線を行っているんじゃないだろうか。自身の考えを口にし、僕は少しだけ期待を込めてエイムからの返答を待つ。


「うーん。ちょっとそれはどうでしょうか」


「えっ? なんかダメだったか?」


 否定的な言葉を発するエイム。いったい何がダメなんだ?


「【骨】に【甲】を装填するのは悪くないアイデアだと思います。ただ、それだと【肌】に直接【甲】を装填するのと効果が変わらないと思うんです。確かに骨が強化されますから骨折はしづらくなるとは思うんですが、それでスキル枠を一つ使ってしまうのは正直微妙かと」


「確かに、そうかもな」


「そして! 【骨】に【角】の装填。これは絶対やっちゃだめですよ!」


「うおっ! いきなり驚かすなよ。でも、なんでダメなんだ? こっちのスキルはちゃんと効果があると思うけど」


 突然上げたエイムの声に僕はビクついた。


「ニイトさんの件を忘れたんですか? スキルは所持者自身にも悪影響を及ぼす可能性があるんですよ。骨から棘を生やす。そんなことをしたら体内の骨からも棘が飛び出て、下手をすれば内臓を傷つけて即死亡ですよ」


「なっ……」


 僕はエイムの言葉に絶句する。確かに体内にも骨があるのだ。表面に展開した骨だけから棘を生やすことができればよいが範囲を指定できる保証はない。


「確かにスキルは所持者の思考がある程度反映されるようですから範囲をコントロールすることは可能かもしれません。ですがスキルは取得した段階から発動するようですから仮にうまく範囲を限定できなかった場合のリスクが高すぎます」


「うう。確かに考えが足らなかったな」


 体の重要器官を棘で貫かれれば一瞬で死亡だ。僕は怖気を感じ、身震いする。


「じゃあ、どんなスキルを取得すればいい?」


「それは……手に入るメダル次第でしょうね。これだけ広い森です。魔物も種類がいるでしょう。他の仲間との相性もあります。まずはメダルを手に入れてから考えるのが良いでしょうね」


「……そうか」


 僕は静かにうなだれる。所詮、素人の浅知恵だったわけだ。


「何も落ち込むことはないじゃないですか。即時の判断力ではサイチさんの方が上でしょう? 現にニイトさんの時や、ライノー戦ではサイチさんがいなければ仲間が犠牲になっていたはずです」


「ハハハ。ありがとう。スキルの事はまた相談するな」


 エイムからの励ましに僕は笑みを返す。そうだ。何も一人で抱え込むことはないのだ。そのために仲間がいるのだから。僕は息をつくと、ゆっくり体を横たえた。


 また明日。絶対に生き残ってやるんだ。僕は無理やりにでも心を奮い立たせた。


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