第十二話 VS犀皇《ライノー》2
「僕に作戦がある。みんな、力を貸してくれないか」
洞窟の中を断続的に衝突音が響く。入口で壁面に頭突きを続けるライノーに視線をやると僕は音に負けないように声を大にして皆に呼び掛けた。
「サイチさん、作戦があるって本当ですか」
「ひゃはは、サイチ。ようやく戦う覚悟ができたみたいだね! それで俺様は何をすればいいのさ」
エイムが、そしてマスミも協力を申し出てくれる。
「マオさん。この作戦にはあなたの協力も必要です」
「私!? うん。こんな状況だもんね。力を合わせなきゃ。私でできることなら頑張るよ!」
力強い返事を返すマオ。僕は皆に目配せをし、皆が僕の周りに集まってくる。
ライノーを倒すのだ。僕は皆に作戦を説明する。
「まずはマスミさん。あなたの持つメダルを僕に貸してください」
「はあ? 嫌だよ。なんでそんなことをしなければならないのさ」
マスミから返ってきたのは拒絶の言葉。まあ、理由も言わずに頼んだんだから当然だ。だが、マスミの持つ【目】のメダルはこの作戦の肝だ。僕は説明を続ける。
「当然、作戦に必要だからです。このメダルを使ってライノーに攻撃を通します」
「はあ? 【目】で手に入るスキルでどうやってライノーを倒すって言うのさ?」
「サイチさん、私は最初の空間で手にしたスキルを他の人からいろいろ聞いて回りましたが、【目】を使ったスキルでライノーにダメージを与えられるようなものなんて知りません。サイチさんが思いついたスキルはいったいどんなスキルなんですか?」
二人からの質問に僕は静かに首を振る。メダルは確かにスロットに装填し対応したスキルを得るためのものだ。だけど、僕は女神に最初に連れてこられた空間でそれ以外の使い方をする場面を体験しているんだ。
「マスミさんは知らないかもしれないけど、メダルは他人のスロットにも装填できるんだ」
「あっ! それって、うっちーの『酸生成』スキルを解除した時のことだね!」
「? それがどうしたのさ。他の人からメダルを装填してもらったって手に入るスキルは一緒でしょ?」
「確かに手に入れられるスキルは同じだ。だが、例えば他のメダルが入っているスロットに無理やり別のメダルを装填してしまえばどうだ」
僕の言葉を受け全員の目の色が変わる。
「マスミのメダルを使ってライノーの【甲】の因子を【目】に置き換える。目はライノーの弱点だ。マスミの攻撃でダメージが通ることが分かっているから『装甲』を無くしたライノーに、マスミの『操身術』とマオの『身体強化』で一気に攻撃を食らわせる」
「確かに、スキルを置き換えてしまえば攻撃は通りますね! ライノーを倒せないまでも退けることはできるかもしれません! ……ですが、それにはライノーに一定時間触れなければなりませんよね」
「うん。うっちーの時もメダルの装填には時間がかかっていたよ。そんな隙、ライノーにあるのかな」
「メダルをライノーに装填する役目、それは僕がやるよ」
僕は決意を口にする。
「おい! サイチ。てめえ、さっき誰も犠牲にしないって言ったばかりじゃねえか。メダルの装填なんてそれこそライノーに張り付かなきゃ出来ねえ。そんなもん自殺行為だろうが!」
ニイトから出る反論の言葉。僕はそれを静かに受け止め、けれども首を横に振る。
「僕には『硬化』がある。スキルを発動すればある程度ライノーの攻撃には耐えられるし、関節を硬化させれば握力に関係なくライノーにしがみついていられる。ニイトの時、メダルの装填にかかったのは十秒ほどだった。そのくらい耐えきって見せる」
「だがよ……」
「大丈夫。これは犠牲なんかじゃない。みんなで生き残るために必要な工程なんだ。僕らはライノーを退け必ず生き残る。そのためにみんな協力してほしい」
この作戦には全員の協力が必要だ。僕は頭を下げ、頼み込む。
「サイチさん……分かりました。私はこの作戦、協力させていただきます」
「俺様はもとより賛成だね! 逃走よりも闘争さ! あれだけ大きな魔物なんだからさ、ドロップも期待できるよね。ひゃはは」
「私も! みんなで生き残るためだもん。それなら私だって体を張るよ」
「……ちっ。分かったよ。俺だって死にたくはねえ。生き残れる道があるなら足掻いてやるさ」
「みんな。ありがとう」
帰ってきたのは皆の笑顔だ。ライノーという強大な敵を前に初めて僕らは一つになれた気がする。だから僕はその思いを実現させるべく困難へと向き合う。作戦の詳細を皆と詰めていった。