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いつの間にか大きな扉の前にいた
「へっ…」
後ろを確認しようと思った時に音もたてずに扉が開き始め眩しいほどの光が溢れ出した
心地良い風に髪が流され閉じていた瞼を薄く開くと目の前には大きな木とその下にある白いテーブル 果てが見えない程の草原が広がっている
「…えっ」
「フフフッ
こちらにどうぞ 座ってちょうだい」
移動した覚えはないのだが…テーブルの側に立ち木を見上げていた
声に驚き振り向くと漆黒の髪に深い緑の目が…魅了されたように見つめ続け声も出ない
「どうかした?」
気づけば白い椅子に座りテーブルには珈琲とクッキーがセットされていた
「ここは…なぜ…」
珈琲の香りに少しずつ落ち着いてきたが、考えもまとまらずに言葉は続かない
「あら…ひょっとして…」
漆黒と緑の瞳に吸い込まれそうになりながら懸命に言葉をさがす
「…」
トトッン
サワサワと木の葉が揺れる音
草原の何処かに隠れる生命
濃い緑の匂い
様々な情報が一斉に入ってくる ビクリッ
身体をふるわせやっと現実味が感じられる
「話せそうかしら 先ずは珈琲をどうぞ」
柔らかな大人の女性の声がする
「いただきます」
珈琲の苦味を感じる匂いを吸い込みながら口をつけるとちょうど好い甘さとコクのある懐かしい味 私の好きな炭火珈琲だ
こわばっていたのかほっとしたのかゆるやかに体の力がぬけた
「あなたにお願いがあるの
私の世界を救ってほしいの」
「は?」
「世界は滅びに向かっているの
人族以外の他種族は減少 バランスも崩れて争いも増え続けています…」
急に始まった話についてゆけず急いで話をさえぎる「ちょっと待って!」
「はい?」
「ここは何処?私は何故ここに?」
「ここは管理者の空間 死を迎えた中で様々な条件に合致した者をここに招きました」
「イヤイヤ…死んだ?…は?」
淡々と自分の死を告げ先を続ける女性
「あなたにしてほしいのは、獣人への進化の助けや減少した種族の保護 なんの罪もない人族を選別してそちらも保護…」
「待ってお願い!」
瞬きした緑の目が不思議そうに私を見つめる
「私は死んだのですか?」
「はい
生き返ることもできないのに死因等必要ですか?これから先の話の方が重要だと思うのですが」
「これからって 救う話は決定ですか?」
「はい あなたの身体をつくり私の世界で生きてもらいます」
断られる事も考えていないのか 突然死んだと聞かされたこちらの気持ちも理解していないようだ
「…死んだ事を覚えていないのは防衛本能によるもので、考えすぎると暗い感情に引きづられ良い事はありません
人の感情は良くも悪くも影響があります
怒り嫉妬欲望 様々な負の感情が拡散し続け増殖し伝染病のように広がって行きます
今の私の世界で広がっているように…」
なんとなく悲しげに見える女性…名前知らないや
「名前 教えて下さい
話を聞きます。」
パチパチ瞬きをすると微笑んだ女性
「&%$&@*##$&」
「え?」
「フフフ…そうね 空間と時を司り管理者の代表をしているフレイルですわ 正式な名前はあなたでは使えないの」
「代表のフレイル様?」
「ええ 」