52 自宅への帰還
前話のあらすじ:王妃様が裸にちかかった。
俺はひとまず王宮に通じる壁に硬化の魔法をかけた。
その後、状態固定の魔法をかける。
これで、容易には入れまい。
本格的な工事を行う予定の明日の昼までは余裕で保つだろう。
それから俺たちは秘密通路を引き返す。一度通った道なので、早歩きだ。
すぐに、壁が壊れて下水道に通じている場所までやってきた。
「さて、穴をふさごう」
「ふさぐと言っても、どうするんですか?」
俺はゲルベルガをルッチラに手渡した。
「とりあえず、石を積み上げて、物理的にふさぐ。それから魔法で補強だな」
「なるほど」
「ここにある石でいいのかい? 砕けてるのもあるけど……」
ミルカが心配そうに尋ねてくる。
「あまりよくない。だが、本格的に直すのは明日にして、今は仮の修復だ」
「これ以上、誰かが入ってこないようにですね」
「そういうことだ」
俺の屋敷に侵入されるならまだしも、王宮に侵入されたらとても困る。
「石を積むのは、おれに任せておくれ!」
「おお、ありがとう」
「ぼくも手伝いますよ」
ミルカが石を積み上げていく。俺も作業に参加する。
ルッチラもゲルベルガを地面に置いて作業に参加した。
ゲルベルガは俺のすぐ近くをうろちょろしていた。
しばらく作業して、やっと穴をふさいだ。
「ちょっと隙間あいちゃってますね」
「そうだな。石が崩れた際に、欠けたりもしているからどうしてもな」
俺は隙間に土を詰め込んでおいた。それから硬化と状態固定の魔法をかけておく。
通路全体にも硬化と状態固定はかけておきたい。
だが、明日でいいだろう。今は夜中なのだ。
「さて、帰るか」
「はい」「コッコケ!」
俺たちは地下室まで帰還した。
地下室に戻ると、ミルカが言う。
「じゃあ、また、明日だな。仕事があったら言っておくれ」
「ミルカ、何を言ってるんだ?」
どうやら、ミルカは地下室で眠るつもりらしい。
そもそもミルカは眠るために地下室に忍び込んだのだ。だからそう勘違いしたのだろう。
「だ、だめだったか? 外で寝ないとだめか?」
「いや、ここは布団とかないから、ちゃんとした部屋で寝ろ」
「いいのかい?」
「そりゃいいだろ。徒弟になったんだからな」
「ありがとう!」
俺たちはミルカと一緒に、一階へと移動する。
トイレの場所を教えてから、二階に向かう。
「本当は空き部屋の中から、好きな部屋を選ばせたいんだがな。今は夜だし、お客さんが泊まっているから我慢してくれ」
「とんでもない。どんな部屋でもかまわねーさ」
ミルカは屋敷の中に入ってから、ずっと緊張気味だ。
「とりあえずはこの部屋で眠ってくれ。詳しい話はまた明日な」
「こ、こんないい部屋を……。ロックさん、ありがとうな!」
「気にするな」
それから俺はルッチラとゲルベルガと別れて、自室へと戻る。
自室の扉を開くと、扉のすぐ向こうに狼のガルヴがいた。
熟睡していたので置いて行ったのに、目を覚ましたようだ。
「くぅーん、くぅーん」
「ガルヴどうした?」
めちゃくちゃ体をこすりつけてくる。
夜中に目を覚まして、俺がいなかったので不安になったのかもしれない。
捨てられたと思ったのだろうか。とりあえず、モフモフしておいた。
ベッドの中に入っても、ガルヴは甘えてくる。
ぺろぺろ顔を舐めてくるので、落ち着かせた。
そうしておいて、小さな声で事情を説明する。
「おかしな音がするってルッチラが報告に来てな。それで調べに行っていたんだぞ」
「がぅ」
ガルヴはとても小さな声で鳴く。夜だから気を使っているのだろう。
自分も連れて行って欲しいと言っているかのかもしれない。
「ルッチラとゲルベルガさまが来たのに、ガルヴ起きなかったし」
「……がう」
ひと声鳴くと、ころんと転がり、お腹を見せた。反省しているのだろう。
俺はガルヴのお腹を撫でまくる。
「眠かったんだろ。仕方ないぞ」
「がぅがう」
ガルヴは耳と尻尾をピンと立てた。
これからはこのような失態はおかさないという強い決意を感じる。
言葉が通じないので、気のせいかもしれない。
とりあえず、考えても仕方ないので、俺は眠った。
早朝。
「ガウガウガウッ!」
俺はガルヴの吠え声で目を覚ました。
ゲルベルガへの襲撃かもしれない。
俺は素早く部屋を出て、吠え声の方へと走った。
「や、やめろ! 離すんだ、この!」
「ガウガウ!」
駆けつけてみると、うつ伏せに倒れたミルカの上にガルヴが乗っていた。
ガルヴはとても大きい。当然、ミルカは動けない。
俺に気づいて、ガルヴは尻尾をぶんぶんと振った。
「がう」
心なしかどや顔に見える。
そういえば、ガルヴはミルカのことを知らないのだ。
侵入者だと思って確保したのだろう。
ミルカも俺に気づいた。
「ロックさん助けてー」
「ガルヴ。放してあげなさい」
「がう」
ガルヴは悪くない。ミルカのことを知らなかったのだ。
番犬、いや番狼として確保するのは当然の職務と言える。
俺はガルヴを撫でてやる。
「ガルヴ。こいつはミルカっていって、今日からここに住むんだ」
「がう?」
「ひどい目にあったぜ!」
「ミルカも早起きだな」
「家の掃除が仕事って聞いたからな、どういう風に掃除しようか見回ってたら襲ってきたんだ!」
ミルカにもガルヴのことを紹介しておく。
「そうか、ばんおおかみ? っていうのかい。金持ちの家はすげーな。よろしくなガルヴ」
ミルカの差し出した右手を、ガルヴはふんと鼻を鳴らして無視をした。
ガルヴ的には後輩ということで、下の序列だと判断したに違いない。
いや、序列争いの真っ最中なのかもしれない。犬科はそういうところがある。
そんなガルヴの態度を気にすることなく、ミルカはガルヴの頭を撫でていた。
ガルヴは寝過ごしたので挽回のチャンスをうかがっていたようです。