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【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
六章

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299/303

299 真の真祖

6巻が1/14発売です。

「変な竜と元勇者パーティー雑用係、新大陸でのんびりスローライフ」も同日発売です。

 今となっては真祖は俺の魔法攻撃をまともに受け続けていた。

 回避するのは魔神王の剣による攻撃だけだ。


「お前の攻撃は通じない。そう言ったはずだな。諦めたらどうだ?」

「俺は諦めの悪さに定評があるんだ」


 真祖には見せていない魔法。

 そして、俺が使えるとは真祖が思っていない魔法でなければ通じないのかも知れない。

 ならば試す魔法は限られてくる。


 俺は一瞬だけ隙を作った。

 すかさず真祖が爪で俺の心臓を抉ろうと右手を繰り出した。

 真祖の右手が俺に触れた瞬間、はじけ飛んだ。


「な、なに!」


 慌てる真祖の声が心地よい。

 シアと一緒に初めて倒したハイロードからラーニングした攻性防壁だ。


 その威力を極限まで高めている。

 まさか俺が昏き者の魔法を使ってくるとは、真祖は思っていなかったのだろう。


「ついでにこれもやろう」


 俺は邪神の頭部からラーニングした暗黒光線(ダーク・レイ)を真祖にぶち込む。

 まっすぐ伸びる光が真祖の身体を貫き後方へとそのまま貫通していく。


「お前! その神の御業を……」


 真祖は怒りと驚きの混じった声を上げる。

 頭部だけとはいえ、邪神からラーニングした魔法だ。

 昏き者どもにとっては特別の意味を持つのだろう。


 一撃を入れただけでは俺は止まらない。

 間合いを一気につめると、暗黒光線で真祖にあけた穴に右手を突っ込む。


「これを食らえ!」

「だからドレインタッチは我には――」


 真祖は俺が得意とするドレインタッチを繰り出すと思ったようだ。

 だが、発動させたのはドレインタッチではなく、ダークレイスからラーニングした闇の炎(ダーク・フレイム)だ。

 真っ黒な炎が真祖の体内で燃える。


「身体の芯から温まるだろう?」

「赦さぬ!」

 怒り狂った真祖は、俺の首を切り裂こうと左手を伸ばす。


「馬鹿なのか?」


 真祖の左手は攻性防壁によって、派手に弾けた。

 動転し冷静さを失えば、真祖も与しやすい相手に成り下がる。


 俺は暗黒光線を真祖の顔面にめがけて放つ。

 真祖がそれをかわし、仰け反ったところに、魔神王の剣を振り下ろす。


「うぎゃっ」


 変な声を上げて、真祖の胴体が真っ二つになる。

 さらに俺は魔神王の剣で首をはね、頭を割った。


「これぐらいじゃ死なないよな。お前は」

「……当たり前だ」

「だろうな」


 俺は真祖の心臓あたりに手を触れて、改めてドレインタッチを発動させる。


「ぐがああああ」


 きちんと魔力を吸うことが出来た。

 ドレインタッチが効かなかったのは、特殊な障壁を身体に纏っていたからだろう。


 俺のドレインタッチの魔力の流れなどを分析して対応した障壁なのだ。

 加えて、俺の使いそうな魔法すら防ぎきる障壁だ。


 優れた魔法理論に基づいて、恐ろしいほどの魔法制御の精度が必要だろう。

 だから胴体を切断し、首をはね、頭を割ったことで、特殊な障壁を維持できなくなったのだ。


 俺はドレインタッチで真祖の魔力を吸い上げていく。

 俺が触れている真祖の身体は、ゆっくりと灰へと変わっていった。

 真祖はもう動かない。動けないのだ。


「……化け物が」


 ドレインタッチで真祖から魔力を吸いながら、俺は思わず呟いた。

 いくら吸っても真祖の魔力が一向になくならない。


 触れている胴体上部は灰へとゆっくり変わっていくが、切り落した頭は灰へと変わらない。

 首をはねた上で、二つにわった頭は、再生していない。

 土気色になって、ピクリとも動かないし、魔力の流れも感じない。


 だが、灰にはならなかった。俺のドレインタッチでは、魔力を吸い切れていないのだ。

 次元の狭間を膨張させるほどの魔力だ。大量なのは当たり前なのかも知れない。

 諦めずに吸いあげ続けていると、


「終わったのか?」


 後ろからエリックに声をかけられた。

 見てみると、エリック、ゴラン、セルリス、シアに、ケーテがいた。

 ゴランは、これまで持っていた魔法の剣に加えて、魔神王の持っていた剣も持っていた。


「いま仕上げをしているところだ。そっちも随分と速かったな」

「魔神王とはいえ、こっちは五人がかり。終わらせるのは難しくねーさ」


 エリックたちは、魔神王を討伐し追いかけてきてくれたのだ。


「すぐに行くって言っただろう? とはいえ、ラックの方が速かったな」

「まだ終わってない。魔力を吸っても吸ってもなくならないんだ」


 今となっては俺の魔力は全快しているので、吸い取った魔力をそのまま周囲に魔素として垂れ流していた。


「……それは恐ろしい話しだな」

「おかげで俺の魔力は全快し、負った全ての傷も癒えた。もう一回戦えそうだ――」

「ガウ!」


 俺が軽口を叩こうとした瞬間、ガルヴが大きな声で吠えた。


「どうした?」

 二つに切断した真祖の頭が、ゆっくりドロドロと溶け始めた。


「やっと死んだのかしら」

「違うのである。灰になってないのだ。何かするつもりなのである!」

 セルリスの問いにケーテがそう答えると、ガルヴがどろどろに溶けかけた頭に爪を突き立て牙で噛みついた。

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