281 眷属と人間
歩きながら、俺は魔法で探索を丁寧にしていく。
俺にとっての魔法での探索とは魔力探知と魔力探査の両方を同時に発動することだ。
範囲魔法である魔力探知で周囲全体の魔力を帯びたものを発見し、魔力探査をかけてそれがどういう種類のものかを調べるのだ。
魔力を帯びたものには、魔道具や魔石だけでなく、人や魔獣、昏き者も含まれる。
大使館周辺に魔力探知をかけた瞬間、数百を優に超える魔力を帯びたものを発見した。
その全て一つ一つに、魔力探査をかけていく。
『ヴァンパイアがいるな。少なくともロードが十匹』
軽い魔法による探索でわかっただけで十匹。
『魅了や眷属などはいるでありますか?』
『いるな。かなりの数だ』
今、大使館の中にいる職員のほとんどが魅了されているか眷属だ。
シアは眷属ならば見ればわかる。だが魅了されている者はわからない。
セルリスはどちらもわからない。
だが、俺ならば魔力探査を個別にかけることで魅了された者を判別できる。
『そうだな。雑魚は俺に任せろ。ロードが出てきたら対応してくれ』
『わかったわ』
『了解であります』
『邪神の加護には注意してくれ。とはいえ、どうやって注意するかもわからんが』
『あれは厄介でありますからね』
『最近ヴァンパイアどもは身体の中に、邪神の加護のコアを埋め込む技術を編み出したらしいからな』
『本当に厄介ね』
『ガルヴはもし神の加護に穴を空けている装置の気配を感じたら教えてくれ』
「がう!」
ガルヴも力強く鳴いている。心強い限りだ。
以前、王宮に侵入したヴァンパイアは神の加護の効果を弱める魔道具を持っていた。
恐らくはそれを進化させ、強化させたものが大使館にあるはずだ。
俺を先頭にして建物に向かう。すると、門の方向から人が走ってくる。
合計で十五。大使館の門番にしては多すぎる。
『やはり門から入ってくる想定で準備していたみたいだな』
『奴等もまさか壁をくりぬくとは思ってなかったのでありますよ』
『ロックさん。人? 眷属?』
セルリスのいう人とは魅了されただけの、元に戻れる人と言う意味だ。
『眷属も人も両方いる。しかも眷属でも魅了されている訳でもない奴もいるぞ』
金で雇われたのか。何か事情があるのか。
人でありながら邪神の狂信者なのかはわからない。
どちらにしても殺すわけにはいかない。後で枢密院に引き渡して情報を引き出したいところだ。
恐らく情報はあればあるほど、エリックやマルグリットの後の仕事が楽になる。
『とりあえず、俺に任せてくれ』
『わかったわ!』
『了解であります』
眷属はもう戻れない。かわいそうだが息の根を止めるしかない。それが救いだ。
問題は回復する魅了された者と、ただの人間である。
死なないように、大きな怪我を負わせないようにして無力化させなければならない。
俺たちに向かってきている十五の内訳は眷属五体、魅了された者六人、人間四人。
「降伏すれば手荒には扱わないつもりだが」
俺はただの人間に向かって呼びかける。
話しかけたことで、ただの人間四人は足を止めた。
「はあ? 大使館に押し入って、ただで済むと思ってんのか!」
リーダー格っぽい男が声を荒げた。
全くもってその通りである。こんな状況でなければだが。
俺とリーダー格が会話している間も、眷属や魅了されたものたちが飛びかかってくる。
それをいなしながら、人間に尋ねる。
「お前らはわかってここにいるのか?」
「何をやらかしているのか、わかっていないのはそっちだろう」
リーダー格は反論するが、
「何のことだ?」
戦士らしき一人が俺に尋ねてきた。
「ここはヴァンパイアどもの巣だ。知らずに雇われたのか? それとも知った上でここにいるのか?」
眷属も魅了された者も、指示次第ではただの人間の振りをすることは出来る。
普通の人間はその振りに気付くことはあるまい。ごまかすことは可能なのだ。
「なにを適当なことを! 神の加護の庇護下にある王都にヴァンパイアが――」
戦士の言葉の途中で、俺は眷属五体に向けて魔法の槍を放つ。
眷属はレッサーヴァンパイアよりも格下の存在。
一体につき一本。ほとんどの場合、それで十分だ。
だが、五体とも見事によけた。その動きは超一流の戦士のような動きだった。
「やるじゃないか。生前はよほど優秀な戦士だったんだな」
眷属になると、戦闘力が上がる。
人間だった頃の戦闘力が高ければ高いほど、強力な眷属となるのだ。
「その五体だけが眷属なのね!」
「まあそうだ」
「なら、私たちも戦えるわ」
「加勢するでありますよ!」
そう言って、セルリスとシアが眷属相手に攻撃を開始した。




