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【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
六章

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271 竜たちの戦い

「ロック、どこだ! 教えてくれ」

 エリックは焦りを隠しきれていない。


「一つは王宮の中心、もう一つはあの建物だ。何かわかるか?」

 俺は穴を作り出している中心と思われる場所を指さした。

「……あれは厄介だな。道理で枢密院が手こずるわけだ」

 エリックは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。


「で、あれはなんなんだ?」

「リンゲイン王国の大使館だよ」

「なるほど、そういうことか」

 大使館はメンディリバル王国の内部にある外国だ。

 国王直属の枢密院としても、不可侵の領域である。

 何かを隠すにはうってつけだ。


「ロック。つまり大使館と王宮の二つに穴を発生させるなにかがあるってことか?」

「そうなるな。ゴランの言うとおりだ」

 ゴランは俺たちに尋ねてくる。

「どっちから潰す?」

「……まずは王宮だ。政府機能を取り戻してからのほうがいいだろう」


 王宮には政府機能があるだけでない。

 エリックの妻子とゴランの娘セルリスもいる。

 先に大使館に向かっても、エリックとゴランが王宮のことが気になって集中できないかも知れない。


「了解。俺もそれがいいと思うぜ。エリックはどうだ?」

「賛成だ。ありがとう。ロック」

 俺が家族に配慮したと思ったのか、エリックに礼を言われた。

「礼をいわれるようなことじゃない。じゃあ、王宮に突入で決まりだな」


 方針が決まったので、俺はケーテに呼びかける。

「このまま王宮上空に飛んでくれ。飛び降りる!」

「わかったのだ! そのあと、ケーテはどうしたらいい?」

 ケーテはどんどん王宮上空へと近づいていく。


 王宮周辺は深くて濃い霧に包まれていて、まるで白い丘に見えるほどだ。

 王都にある最も高い建物、五階建ての物見の塔の倍の高さまで白い霧で覆われている。


「魔法を使っても中が全くわからない。警戒して行くぞ」

「わかった」

「ロック、落下制御の魔法は全部任せたぞ」

「ああ、任せておけ」


 打ち合わせをしている間もケーテは王宮上空に迫る。

 巨大な竜が飛来したら大騒ぎになってしまうが、そんなことを気にしていられる状況ではない。


「俺たちが飛び降りた後、ケーテには――」


 ――GAAAAAAAA!!


 ケーテが王宮直上に、まさに到着しようとしたそのとき、さらに上空から竜の咆吼が聞こえた。

 飛び降りようとしてた俺たちの動きが止まる。


「な、なんであるか?」


 見上げると、遙か上空、雲と同じ高さに十頭の昏竜(イビルドラゴン)が旋回していた。

 ――GAAA、GAAAAA、GAA!

 ケーテの接近に気がついたのか、昏竜は互いに咆哮し、何かを話しあっているようにも見える。

 神の加護の無い状態で昏竜十頭に襲われたら、王都はただではすまないだろう。

 昏竜の攻撃を防ぎ、王都上空から追い出さねばならない。


「ケーテだけで十頭相手にするのはきついだろう。俺とケーテで昏竜の相手を――」

「いや、ロックは地上戦に必要なのだ。ケーテだけでやれるのである!」

「無茶を言うな」

 風竜王であるケーテでも昏竜十頭を相手にするのは難しい。


「魔法を使えないエリックもゴランも、ケーテの背から飛び降りれないのだ!」

「飛び降りる前に俺が魔法をかけるから大丈夫だ」

「ああ、それでいこう」

 そう言ってゴランは飛び降りる準備に入る。


 ――GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!


 そのとき、ひときわ大きな咆哮が鳴り響いた。その咆哮は下から聞こえた。


「ドルゴさんとモーリスさんか! ありがたい」


 エリックが嬉しそうに言う。

 下から急上昇してくるのはケーテの父、前風竜王のドルゴと、水竜の侍従長モーリスだ。

 エリックやゴランたちとの通話の腕輪はドルゴやモーリスの通話の腕輪とつながっている。

 俺がエリックたちに状況を知らせるために流した会話はドルゴたちにも流れていた。

 俺の屋敷に配備されている転移魔法陣を通って、大急ぎで駆けつけてくれたのだ。


「お待たせしました。状況は把握しております。上空のあやつ等は我らにお任せください」

 ドルゴが力強く言ってくれる。


「ありがとうございます。それではお願いします。俺たちは地面に向かいます」

「はい。ご武運を」

「ケーテも頼んだ」

「任せるのだ!」


 そして俺はゲルベルガさまとガルヴを抱えて、エリック、ゴランと一緒にケーテの背から跳躍した。

 右腕は魔法で動かしガルヴを抱える。ひどく痛むが気にしている場合ではない。

 目指すは、王宮を包む深い霧の中だ。


 一方、俺たちが降りると同時にケーテは風を切って急上昇する。

 俺たちを乗せての全力移動が、本当のケーテの全力移動ではなかったようだ。

 音の壁を越えて上昇していき、そのまま昏竜の一頭に身体をぶつける。


 ――KYUAAAAA


 ケーテに体当たりされた昏竜の鱗と肉がはじける。骨も砕け羽が破れ、悲鳴を上げながら落下していく。

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