247 真祖の話
前回のあらすじ:強そうなヴァンパイアは真祖だった。
ついに2巻が5月14日前後に発売になります!
初速次第で何巻出せるか決まってしまうので、どうかよろしくお願いします。
コミカライズも決まりました。
「ひざに矢」3巻も発売中です。
頭だけでも誇り高くにこりと笑う真祖を前にして、竜形態のケーテが顎に手をやる。
「ほむ? しんそ? とはなんぞや?」
「愚かで、無知なトカゲが! 恥を知るがよい」
真祖はケーテをにらみつけた。
俺はケーテに向けて説明する。理解していることを真祖にアピールする意味もある。
「真祖ってのは、ヴァンパイアどものトップだ」
「王みたいなものか? それならロードと変わらないであろう?」
「そのトップってのは組織的な者じゃない。出自、なり方が違う」
「なり方とな?」
「真祖ってのは、邪神の手により直接ヴァンパイアにされた者を指す」
基本ヴァンパイアは吸血の後に血を与えることで眷属を増やしていく。
その眷属が成長し、ただの眷属からレッサー、アークと進化していくのだ。
それはロードもハイロードも同じである。
真祖以外はヴァンパイアによってヴァンパイア化された者たちだ。
「ほう? 大元なのか。ならばこいつを殺せば多くのヴァンパイアが灰になるのだな?」
眷属は眷属を作ったものを殺せば灰になる。そのことを言っているのだろう。
「いや、レッサーまで進化すれば、親にあたるやつを殺しても灰にはならない」
「そうであったか」
ケーテは納得してくれたようだった。
真祖の方も満足げにうなずいている。
「貴様、人間のくせによくわかっているではないか」
「冒険者なら当然だ」
そんな真祖にエリックが言う。
「お前、随分と機嫌がいいじゃないか。観念したのか?」
「観念したなら、最期に俺らとお話ししようじゃないか?」
俺も笑顔を使ってそう呼びかける。最後に会話していいと思うよう機嫌を取っておいたのだ。
生の最後に何か話したいと思うのは知能のあるものの宿命みたいなものだ。
だが、話す相手は誰でもいいというわけでもない。好感度は少しでも高い方がいい。
俺のその狙いを理解しているのかいないのか、首だけの真祖はにやりと笑った。
「下等生物の身でありながら我に勝った貴様たちとなら話してもいい。褒美だ」
「それはどうも」
「ここはどこだ?」
国王らしいエリックの問いだ。ここが自国か他国か、他国なら友好国かで対応が変わる。
「リンゲイン王国その南東の端の山の中だ」
それを聞いて、エリックは少しほっとしたように見えた。
リンゲイン王国は、エリックの治めるメンディリバル王国の北西にある国だ。
かなりの大国であり、友好国でもある。
メンディリバル王国から遥か遠くの国や、敵対している国でなくてよかった。
いざとなれば外に出てケーテの背に乗れば、それほどかからず自国に戻ることができるだろう。
俺は真祖の頭に尋ねる。
「あの作戦を思いついたのは誰なんだ? 肝を冷やされたぞ」
「あの作戦?」
「爆弾からの転移の作戦だ」
「ああ、あれか。失敗するとは思わなかった。残念だ」
残念だという言葉と裏腹に、真祖は笑っていた。
随分と余裕だ。その態度に少し違和感を覚える。
「余裕ではないか? どうしたのだ? あきらめたのであるか?」
なんて問いただそうか、言葉を選んでいたら、ケーテが直球で聞く。
「ふ。どう考えようがお前たちの好きにすればいい」
「お前は邪神を呼び出そうとはしなかったのか?」
「もちろん呼び出すつもりだ」
「これから呼び出す予定だったということか?」
「…………」
いままで躊躇いなく返答してきた真祖が初めて口を閉じた。
今後の作戦に影響するということだろうか。
ここが一番知らなければいけない情報かもしれない。
「なるほどな。まだ継続中ということか」
「……下等生物なりに、愚かな頭脳を働かせて好きに考えればいい」
「ふむ。とはいえ、一連の作戦は真祖が指揮し、ハイロードが実行部隊を指揮していたよな」
「だからどうした?」
真祖は眉をひそめた。
「邪神は完全体で召喚しないと魔法陣の上から動けないんだったな?」
邪神の頭部を破壊したとき、ハイロードから聞き出した情報だ。
「……」
「完全体を召喚するには大量の生贄が必要だ。となると……」
「…………」
「まず王都において頭部だけ呼び出して王都の民を丸ごと生贄にするつもりだったのか?」
「………………」
真祖は沈黙を保っているが、ケーテは驚いた表情でこっちを見る。
エリックも驚いているようだが、表情は変えていない。
「なんだと、えげつないことを考えるものであるな!」
「王都での召還を阻止されたとしても、狼の獣人族を生贄にするつもりだったか?」
「………………お前たちは想像力が実に豊からしい」
真祖は俺の推測が外れていると言いたいようだ。
だが、真祖の反応的に、俺は当たりだと判断する。本当に阻止出来て良かった。
成功していたら、メンディリバル王国が昏き者どもに制圧されてしまったことだろう。
そうなればメンディリバル王国を橋頭堡として、昏き者どもに世界中が席巻されたに違いない。
「さて、お前はまだ色々と聞きたいことがあるんだ。付き合ってもらえないか?」
「ふふ、何を調子に乗っているんだ?」
そう真祖が言うと同時に、頭が霧へと変わりはじめた。





