232 ハイロードとの戦い
前回のおはなし:強いヴァンパイアがやってきた。
一巻が大好評発売中です。コミカライズも決まりました。
「ひざに矢」3巻も発売されております。
ヴァンパイアのクラスは、恐らくハイロードだろう。
動きがヴァンパイアロードのそれよりだいぶ速い。
ハイロードは一瞬で俺の眼前に来ると腕を振るう。わずかに後ろに飛んで腕をかわす。
かすりもしていないのに、俺の服の端がわずかに切れた。
ハイロードは武器を持ってすらいない。手をふるっただけである。
前回戦ったハイロードよりも、かなり強いと感じた。特殊なハイロードなのだろうか。
とはいえ、俺もハイロードとの交戦経験は何十回とあるわけではない。
個体差の範囲内である可能性もある。
「まあ、倒して魔石を見てみればわかるか」
「何を余裕をかましている。人の割には動きは速いとはいえ――」
ハイロードが不敵に笑い余裕を見せている。冷静にシアたちにターゲットが移されたら困る。
挑発しておくことにした。
「お前もレッサーヴァンパイアの割には、すごくいい動きじゃないか」
「貴様!! 言うに事欠いて、我のことをレッサーだと!」
相変わらず高位のヴァンパイアにはレッサーヴァンパイア呼ばわりは効果的だ。
そのうち、俺の挑発手口が周知されそうな気もしなくもない。そうなったら面倒だ。
それを防ぐためにも、生きて帰すわけにはいかない。
「もう少し頑張れば、アークヴァンパイアになることだって夢じゃないんじゃないか?」
「きさま!! 絶対に許さぬ!」
ハイロードは目をむいて、絶叫するように言った。
同時にものすごい勢いで間合いを詰めると腕を振るってきた。
俺がかわすと、追撃で火球の魔法を放ってくる。
俺は魔法障壁は使わず、横に飛んでかわす。
余裕がある限りは魔導士であることは隠しておきたい。
万が一逃げられた時、敵が俺を戦士と認識するか魔導士として認識するかは大きな違いだ。
「それにしても……」
ハイロードが火球を放つタイミングは完璧だ。
並みのAランク冒険者なら、腕の攻撃をかわすことはともかく、火球をかわすことは難しい。
「なんだよ、折角ほめてやったのに」
俺がわざと残念そうに言ってみたが、ハイロードの耳には届いていなさそうだ。
「貴様、何者だ?」
ハイロードも俺に火球が直撃することを確信していたのだろう。困惑している。
困惑することで怒りが収まっても困る。冷静になる暇を与えず畳みこんだ方がいい。
俺は魔神王の剣をふるう。
「ただのFランク戦士だよ」
「ふざけるな!」
魔神王の剣の腹をハイロードは爪でつかんで止めた。
やはり強い。楽しくなってきた。だが楽しむわけにはいかない。
シアたちが近くで激しく戦っているのだ。
ハイロードと戦闘していると、何かがあったときの対応が遅れてしまう。
俺の役割はハイロードを速やかに倒して、シアたちの援護に回ることだ。
「Fランク戦士の俺の剣を止めるとは、なかなかやるじゃないか!」
「我を愚弄したこと後悔させてやる! 簡単に死ねると思うな!」
「当然、そう簡単に死ぬつもりはねーよ」
ハイロードに掴まれたままの魔神王の剣を強引に振りぬく。
ハイロードは素早く後ろに飛んで、カウンター気味に右腕を振るう。
同時に左手から火球を撃ち込んでくる。素晴らしい連携だ。
俺は、ハイロードの右腕も火球も気にせず一気に間合いを詰める。
火球を左手の平で受ける。その瞬間、消え去った。ドレインタッチだ。
魔法の波長をものすごく正確に合わせれば放たれた魔法すら吸収できるのだ。
とても難度が高いが、ハイロードからの火球を何度も見ているので吸収できた。
ハイロードの目が大きく見開かれる。混乱と困惑の極みに陥っているのだ。
だが、勢いのついたハイロードの右腕はそのまま俺を貫こうと振りぬかれる。
申し分のない一撃だ。まともに食らって無事でいられるものはそうはいないだろう。
そして俺は体でまともに受ける。ハイロードの口角が一瞬上がる。
俺を倒せたと確信したのだろう。
だが、右腕の鋭い爪が当たった瞬間、バチリという大きな音が響く。
以前、シアと一緒に戦ったヴァンパイアハイロードからラーニングした攻勢防壁だ。
当然、精度も威力もハイロード如きが使用するより、はるかに上だ。
ハイロードの右腕が弾けるように破裂した。血肉が骨ごと粉砕され赤い霧のようになる。
「なん……だと……」
ハイロードの口角は勝利を確信したときのまま上がっている。
だが、目は驚愕に見開かれている。そのアンバランスな表情は滑稽ですらある。
俺はそのまま魔神王の剣を振りぬいて首を落とす。
ハイロードの首は、そのおかしな表情のまま地面を転がった。
首を落としても、完全に灰にするまで油断できない。敵はヴァンパイアハイロードなのだ。
血一滴、肉片一かけらですら、見逃すわけにはいかない。
魔力探知を発動させながら、ハイロードの体を魔神王の剣で切り刻んでいく。
そして、肉片にはドレインタッチをかけていった。
とりあえず、体を消滅させることにしました。





