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【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
一章

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前話のあらすじ:幻術つかいは魔族だった。


 少年をみてセルリスは身構える。

 魔族は魔力の高い種族だ。この辺りでは非常に珍しい。

 平均的に人族よりも戦闘力が高いものが多い。

 セルリスが小さい声で尋ねてくる。


「ま、魔族よね?」

「そうだな」


 俺は少年に笑顔で呼びかける。


「見事な幻術だったぞ」

「……あ、ありがとうございます」

「俺はロック。こっちはセルリスだ」

「……ぼくはルッチラです」


 そういって、ルッチラはぺこりと頭を下げた。

礼儀正しい少年らしい。


「それでルッチラは、なにを守っていたんだ?」

「……ええと」


 ルッチラは少し考える。

 話していいものか、悩んでいるのだろう。


「まあ、どうしても話したくないならそれでもいいぞ」

「えっ、いいんですか?」

「いいの?」


 ルッチラとセルリスがほぼ同時に声を上げた。

 性格が似ているのかもしれない。


「ギルドから受注したクエストクリア条件には、それは入ってないからな」

「そうかもしれないけどー」


 セルリスはやや不満げではある。

 セルリスの気持ちもわからなくもない。俺も正直知りたい。

 それでも、他人が絶対に隠したいものを無理やり聞き出すのは悪趣味だ。

 どうしようもない理由がない限りは、避けたい。


 俺はルッチラに優しく話しかける。


「ただ、村の人間たちは怖がっている。恐ろしい魔獣がいるってな。原因はわかるよな」

「はい、わかります」

「それは何とかならないか?」


 ルッチラの幻術のせいで、村人は怯えているのだ。

 ルッチラが幻術をやめてくれれば、村人の恐怖の原因を解消したことになる。

 それで、クエストはクリアだ。


「……難しいです」

「難しいか」


 それを聞いてセルリスがささやいてくる。


「難しいらしいわよ。どうしたらいいの?」


 俺はセルリスを無視してルッチラに語り掛ける。


「幻術で守っている何かがあるっていうのはわかるんだ。それは移動できないのか?」

「……移動ですか」

「移動の手助けぐらいならするぞ。場所が必要なら、探してもいい」


 金が必要でも、何とかなる。

 死亡扱いで国庫に入った俺の財産を返してもらえば、かなりの額だ。

 エリックにいえば、すぐ返してもらえるだろう。


「俺たちは別に無理やり暴こうとはしない。だが、このままだとクエストは失敗になる。それはわかるな?」

「はい。わかります」

「それはまあ、かまわないんだが……」

「かまわないの!?」


 なにやらセルリスがびっくりしていた。

 俺の袖を後ろから引っ張ってくる。


「ちょ、ちょっと、ロックさん、私は失敗したら困るんですけども」

「ちょっとぐらいの失敗なんて気にするなよ」

「気にするわよ……。初任務で失敗なんて……パパになんていわれるか」

「ゴランは気にしないぞ。それにFランクには降格がないからな」


 当たり前だが、ゴランは冒険についてとても詳しい。

 一度や二度の失敗でとやかく言うわけがないのだ。


 Eランク以上なら、成功率3割を切ると、ランクが下がる可能性が出てくる。

 だが、Fランクには降格がないので、失敗しても問題ない。


「なんてこというの? ……困るわ。私はパパに追いつくために早くランクを上げたいのだけど」


 ランクを上げるためには失敗は少ない方がいいのは確かである。


「セルリス、ちょっと黙っててくれ」

「……はい」


 セルリスは意外と素直に静かになった。

 俺は改めてルッチラに語り掛ける。


「クエスト失敗自体はどうでもいい」

「ッ」

 セルリスがびくりとしたが、無視をする。


「ただ、俺たちが失敗したとなると、別の冒険者が派遣されることになる。それはわかるな?」

「はい。わかります」

「次の冒険者は無理やり暴くタイプかもしれない。ルッチラごと討伐しようとするかもしれない」

「はい」

「それは、誰も幸せにならない。だからなるべく避けたい」


 ルッチラは真剣な顔で考え込む。

 俺は黙って待った。セルリスが後ろから袖を引っ張ってくるが無視をする。


 しばらくして、ルッチラが、意を決したように口を開いた。


「わかりました。ロックさんにはお見せしましょう」

「いいのか?」

「はい。捨てられた剣も拾っていただいて構いません」

「すまないな。あれは大事な剣なんだ」


 俺が剣を拾うと、ルッチラが言う。


「それではロックさん、セルリスさん。ついてきてください」


 ルッチラは深い森の中へ入って行く。山の方へ向かっているようだ。

 歩きながらルッチラに尋ねる。


「どうして、見せてくれる気になったんだ?」

「ロックさんには、ぼくの幻術が通用していないと思いました」

「いや、通用していないことはないぞ。ドラゴンは見えてたし」

「いえ、通用していません。本当のドラゴンに対するように戦っていなかったですよね」

「まあ、幻術だとわかっていたしな」


 ドラゴンに対するように戦うとは、セルリスのような戦い方を言う。

 爪や尻尾をかわしつつ、剣で切り裂く。そういう戦い方だ。


 俺は幻術だと知っていたので、魔力の塊を除去しようとした。

 そのことを言っているのかもしれない。


「ロックさんは、ぼくよりずっと強いと思いました。ぼくを説得するより、力()くで無理やり調べようとしたほうが簡単だったのではないですか?」

「まあ、それはそうだな」

「だから、信用することにしました」

「そうか、ありがとう」


 誠意が通じたのだ。かなりうれしい。

 だが、セルリスが後ろから袖を引っ張る。


「つまり、どういうことなのかしら?」

「えっと……またあとで教えてやる」


 セルリスはわかっていないようだ。だが解説するのはとても恥ずかしい。

 力()くでやった方が簡単なのに、説得しようとした。

 だから秘密を見せても力()くでどうにかしようとはするまい。そうルッチラは判断した。

 そんなところだろう。


 しばらく山道を歩いて、ルッチラが足を止める。


「到着しました」


 小さな祠があって、その中には立派で神々しい……、ニワトリがいた。

ニワトリでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] こけ~っこっこっこっ コケッ(//∇//)
[気になる点] >Fランクには降格がないので、失敗しても問題ない 錬金術士が主人公の話では、 Fランクで失敗し続けると除名扱いになるので、 Eランク以上が失敗するより厳しかったんだけど、 作品によっ…
[良い点] ニワトリではありません [気になる点] 神鶏ゲ○ベ○ガ様は、対ヴァンピール戦においてニッチで最凶な存在です [一言] ここぅ・・
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