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【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
五章

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218 今後の方針を決めよう

前話のあらすじ:ひとまずあけた壁の穴を補修をすることにした。


一巻が大好評発売中です。コミカライズも決まりました。

「ひざに矢」3巻も発売されております。

 俺は作業の準備をしながらケーテとモルスに言う。


「ケーテとモルスは屋敷を見回ってくれないか?」

「わかったのである。侵入者がいないとも限らぬしな」

「了解です。ついでに簡易的に強化の魔法をかけておきましょうか?」


 簡易的ならば、強化の魔法は大した効果はない。

 だが、壁に魔法をかければ、ダークレイスが通り抜けにくくなる。

 応急処置としてはいいだろう。


 一応、俺は屋敷の主、ダントンに尋ねる。


「侵入者防止のために屋敷に強化の魔法をかけてもいいか? 一応壊れにくくはなるが……」

「ああ、頼む」


 それを聞いて、モルスがダントンに丁寧に頭を下げる。

「許可ありがとうございます。任されました」


 ケーテとモルスが屋敷の中の巡回に向かってから、俺たちは本格的に作業に入る。


「もともとの壁と素材が違うから、少し目立つが……、応急処置として我慢してくれ」

「応急処置といっても、耐久性も強度も、耐熱耐火とか、あらゆる面でもとより優れているでありますよ」

「とはいえ見ためがよくないからな」


 そんなことをシアと話していると、後ろで見ていたダントンが言う。


「ずっとこのままにしておいて欲しい。ロックが直した壁なら、子々孫々への自慢になる」

「自慢にはならないだろう」

「いや、自慢になる」


 ダントンが断言するので、壁は見た目つぎはぎのままにしておくことになった。


 壁の補修を終えた後、俺はダントンたちと皆のいる食堂に向かった。

 その途中で俺はダントンに尋ねる。


「族長たちは全員食堂にいるのか?」

「ああ、そのはずだ」


 それなら全員に同時に説明することができる。手間がかからなくて助かる。

 食堂に到着すると、族長たちのほかに子供たちや若い衆がいた。

 見回りを終えたケーテとモルスも先に食堂に到着していた。


「ケーテ、モルス、どうだった?」

「大丈夫である。ほかに侵入者はいなかったのだ」

「一応、壁と天井に強化の魔法をかけておきました」

「ありがとう。お疲れさま」

「いえ、大したことでは……。それに効果もあまり期待しないでください。長続きするものではありませんし、上位のダークレイスの透過を防げるものではないです。気休め程度だと思っていただければ」

「それでもないよりはずっとましだ」


 俺たちの会話に族長たちが反応する。


「ロックどの、ダークレイスだったのですか?」

「はい」


 俺は子供たちに目をやった。視線で子供たちの前で詳しい話をしていいか尋ねたのだ。

 それに気づいてモルスが言う。


「ロックさん、子供たちは、ここで私が見ておりますので……」

「助かる。では、詳しく話す前に場所を移しましょうか」


 俺は子供たちに気を使ってそういったのだが、ダントンが首を振った。


「いや、ここで構わない」

「だが……」

「我らは赤子のころから戦士だ」


 俺は子供たちの顔を見た。どの子も真剣な表情をしていた。

 小さくても覚悟が決まっているようだ。

 ニアやシアのように、狼の獣人族は小さいころに冒険者となることは知っていた。

 だが、ここまでとは思わなかった。


「すまない。少し侮っていたようだ」 

「気にするな」


 それから俺はダークレイスに侵入されたことを報告する。

 マイナーな魔物であるダークレイスについても、一応解説しておく。


「ガルヴはダークレイスを知覚できるようなのですが……みなさんは知覚できますか?」

「臭いも音もないのですよね? 無理です」

「非常に厄介ですね……」


 族長たちが深刻そうな表情になった。

 だが、ダントンが明るく言う。


「だが、情報漏洩の原因が分かったな」

 ダントンは空気が悪くならないよう、無理に明るく言っているのだろう。


「たしかにそうだな。となれば、屋敷にダークレイスを侵入させないようにした方がいいな」


 俺がそういうと、ケーテがうなずく。


「うむ。大急ぎで族長たちの屋敷に魔法をかけて回ったほうがいいのである、モルス。水竜の結界を応用してなんとかできぬか?」

「そうですね。水竜の集落クラスの結界を張るには材料が足りませんが……。ダークレイスの侵入を防ぐ程度ならば……」

「まあ、かなり難しいが……何とかするしかないか」


 俺がそういうと、モルスとケーテはうなずく。

 ダントンが驚いた表情になる。


「ロックでも難しいのか? いや、ロックにも難しいことがあるのか?」

「そりゃあるぞ。ケーテとモルスに協力してもらわないと不可能だし、協力してもらってもかなり難しい」


 不可能ではないだろう。だが、厄介なのは間違いない。


「ああ、難しいのである」

「そうですね。ですが、なんとかなるのではないでしょうか」


 ケーテとモルスは楽観的だ。二人に自信があるのならきっと大丈夫だろう。


「とりあえず、結界を優先する方向でやってみましょう」

「お願いします」


 結界の準備から急いで進めることになった。魔道具などは後回しだ。

 ダークレイスは厄介だが、戦闘能力自体はそれほど高くはない。


「魔法を放つ瞬間が見えるのなら、何とかなるだろう」

 族長たちはそんなことを言う。

 族長はシア以外、Aランク、つまり超一流の冒険者だ。それに魔法の武器も持っている。


 族長クラスならダークレイスも倒せるだろう

 族長クラス以外はダークレイスに遭遇したらひたすら逃げるということに決まった。

 大まかな方針が決まると、族長たちは自分の屋敷に戻っていった。

流石に自分の屋敷をあけ続けるわけにはいきません。

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