206 幻術を使った稽古その2
前話のあらすじ:幻術を使った稽古の第二段階開始です。
一巻がついに発売開始です。コミカライズも決まりました。
「ひざに矢」3巻も同日発売です。
俺が作り出したヴァンパイアロードの幻は第六位階のものだ。
王宮に手の者を沢山忍び込ませていたロードだ。
俺が一人で討滅したので、セルリスもシアもあったことがない。
だから最適だと思ったのだ。
「このっ!」
「こいつ素早いであります!」
シアとセルリスは見事に戦っていた。
ちなみにシアが今使っている剣は、この第六位階からの戦利品だ。
俺の横にダントンが来た。
「我が娘ながら、いい動きだな」
「ああ、見事なものだ。俺が初めてシアにあったときに比べても格段に成長している」
「本当か?」
「うむ。見ていればわかると思うが、今出している幻の精度はかなり高い」
「それはわかる」
ダントンはうなずく。
ダントンは経験豊富なヴァンパイア狩りの戦士。ロードの強さは熟知している。
族長たちもロードの精度に気付いているのだろう。
見事に戦うシアとセルリスを見て、「ほう」と感心するような声を出している。
「見事なものだ」
俺は改めてつぶやく。
初めて会った時、シアはゴブリンロードに苦戦していた。
それが二人がかりとはいえ、ヴァンパイアロードと互角に戦っているのだ。
セルリスも初めて会った時に比べて格段に動きがよくなっている。
若者の成長はかなり早い。
そして、俺は近くにいる子供たちを見た。
ものすごく真剣な表情で戦いを見つめていた。見ているだけでも勉強になるだろう。
ダントンが幻とシアたちの戦いを見守りながら言う。
「俺としては、幻の精度の高さが恐ろしい」
「そうか?」
「再現度が高すぎる」
「今出している幻の元となったヴァンパイアロードとは直接戦ってとどめを刺したからな」
ダントンはゆるゆると首を振る。
「俺たちもソロでは難しくとも、力を合わせればロードは狩れる」
「ふむ?」
「だが、ここまで分析できない。ロックはロードを完全に見透かしている」
「まあ、戦いながら観察しているからな。観察は結構得意な方だ」
そんなことを話しながらも、俺は幻を調節していく。
シアとセルリスが幻に与えたダメージを計算するのだ。
そして、仮に本物だったらどう動きが変化するかを推定するのだ。
その計算はかなり大変だ。
「……相当な力量差がなければここまで見透かすことはできないぞ」
「そうか。そうかもしれない」
「ヴァンパイア狩りの専門家の俺たちより、ヴァンパイアに詳しいかも知れないな」
「それはないだろう」
「いや、ヴァンパイアの生態や風習ならともかく、戦闘に関しては完全にロックが上だろう」
ダントンに俺の幻を絶賛されてしまった。
自信のある幻なので、褒めてもらえてとても嬉しい。
「今度、俺にも稽古をつけてくれ」
「いいぞ。空き時間にいつでも言ってくれ」
「本当にいいのか?」
「ああ」
そんな会話を聞いていた他の族長もやってくる。
「ロックさん、是非我らにも」
「はい。時間さえあれば、構いませんよ」
「ありがたい!」
族長たちは凄く嬉しそうだった。
俺と族長たちが会話している間、シアとセルリスは稽古を続けている。
俺も語りながら、計算し幻の微調整を続けた。
「せい!」
「りゃああ」
激しい戦いの後、二人の連携が見事に決まり、ロードの幻の首が飛ぶ。
落ちた首にシアが素早くとどめを刺した。
その瞬間、一斉に拍手の音が鳴り響く。
「お見事!」
「おねえちゃんすごい!」
族長と子供たちから称賛されて、シアとセルリスは照れていた。
そして二人とも俺のもとへと走ってくる。
「「稽古、ありがとうございます」」
二人が声をあわせて、お礼を言う。
「思っていたより俺もいい訓練になった。ありがとう」
シアたちの動きは俺が思っていたより素早かった。
それに対応するために、俺の魔力操作もかなり鍛えられる気がする。
「あの、ロックさん、私たちの動きはどうでありましたか?」
「とても良かったぞ」
セルリスがゆっくりと首をふる。
「まだまだ、力量が不足しているのは自分たちもわかっているわ」
「そうであります」
「まあ、誰と比べるかで評価は変わるからな」
以前のシアたちに比べたら、相当強くなっている。
だが、エリックやゴランたちと比べたら不足しているのは間違いない。
シアもセルリスも目標が高いのだろう。向上心があるのは良いことだ。
だから、俺も本気で改善すべき点を教えていった。
シアもセルリスも真剣に俺の話を聞いていた。
ガルヴとゲルベルガさまも聞いていた。
シアとセルリスへの指導が終わった後、ニア、ルッチラと子供たちの指導に移る。
もっとこうしたほうがいいというのを教えると、ニアたちも真面目に聞いていた。
稽古が終わると、ガルヴが俺の周りをぐるぐる回りはじめた。
ものすごい勢いで尻尾を振っている。
「散歩したいのか?」
「がう! がう!」
どうやらガルヴは散歩をしたいらしい。ガルヴは大体いつも午前に散歩している。
だが、今日は稽古が始まったから待っていたのだろう。
「それじゃあ、散歩に行くか」
「がーう!」
嬉しそうにガルヴはぴょんぴょん跳びはねた。
犬(狼)を飼ったらお散歩は日課になります。