183 本拠地急襲
前話のあらすじ:敵の本拠地を襲いに行くことにした。
GAノベルから2月発売決定です。コミカライズも決まりました。
水竜の宮殿から外に向かって歩きながら、俺は小声で言った。
セルリスに聞こえないように気を付ける。
「ゴラン、よくセルリスの同行を許可したな」
「……迷惑だったか?」
「そんなことはない。セルリスの剣の腕は評価している。だが、親としては心配じゃないか?」
「もちろん心配だ。だが、熟練冒険者になってから冒険に出るってのは不可能だ」
「まあ、それはそうだな」
ゴブリン退治や魔鼠退治で経験を積むというのもある。
だがゴブリン退治とヴァンパイア狩りは全く違う。
いくらゴブリンや魔鼠を退治しようが、ヴァンパイア狩りにはあまり役に立たない。
「なるべく、気にかけてやってくれないか。……迷惑をかける」
「出来る限りのことはするさ」
「ありがたい」
それから俺はシアに声をかけた。
「シア、狼の獣人族同士で連絡をとれる通話の腕輪があるんだな」
以前は持ってなかったはずだ。
狼の獣人族とハイロードを討伐したときは、族長の一人が伝令として走ってきた。
「陛下に配っていただいたのであります」
「ああ、必要なことだからな、二十ほど配った」
エリックも色々対策しているらしい。
水竜の宮殿を出て、集落の結界、その門へと向かう。
ドルゴが巨大な竜の姿になって待っていてくれた。
俺に同行するのは、ドルゴの他に、エリック、ゴラン、シア、セルリス、ガルヴだ。
ドルゴの背に乗った俺たちを、ニアたちが見送ってくれる。
「がんばってください!」
「気を付けて欲しいの」
「こっちは我に任せるのである」
リーアとケーテは竜の姿になっていた。
臨戦態勢ということだろう。
「では行きますよ」
「お願いします」
俺たちを乗せて、門からドルゴは飛び立った。ものすごく速い。
シアやセルリスは顔を引きつらせていた。ガルヴは俺にしっかりと体を寄せている。
あっという間に狼の獣人族が本拠地があると推定した場所の近くまで来た。
上空から眺めながら、ドルゴが言う。
「確かに、魔法の気配を感じますね」
「隠蔽の魔法でしょうね。狼の獣人族からの報告の通りです」
「ブレスでもかましたいところですが……」
「うーん。隠蔽だけでなく、魔法防御を重視した結界も張られているようです。ドルゴさんのブレスであっても大したダメージにはならないかもしれません」
「ならば、下に降りて物理で破壊したほうがいいんじゃねーか?」
ゴランがそんなことを言う。
確かにそれが確実だ。だが、それでは時間がかかって、奇襲の利点が薄れてしまう。
それに敵は地上からの物理攻撃に対する備えもしているだろう。
「俺に任せてくれ」
「ロックがそういうなら、任せよう」
「ありがとう、エリック。シア、近くに狼の獣人族はいるのか?」
「確認するであります」
「もし近くに張っているなら急いで離れるように言ってくれ。大き目の魔法を使う」
「わかったであります」
シアは通話の腕輪で族長たちと連絡を取ってくれた。
「大丈夫であります。いまはかなり遠巻きに見張っている状態とのことでありますよ」
「それは助かる」
セルリスが不思議そうに言う。
「強力な魔法防御が施されているのでしょう? いくらロックさんでも……」
「確かに魔法攻撃を素直にぶつけても、威力はかなり削がれてしまうだろうな」
俺はドルゴに話しかける。
「周囲を大きく旋回していただけませんか?」
「了解いたしました」
上空をゆっくりと旋回してくれる。
俺は巨大な結界、その要となる場所がどこかを探った。
巧妙に隠されていたが、大体の場所を把握する。
「結界の核は全部で十二か所ですね。短時間に全部壊さないと修復する厄介なタイプです」
結界は広い。外周は徒歩で回れば、それだけで一時間はかかるだろう。
ドルゴの飛行なら一瞬で回れる。だが壊して回るとなると時間がかかる。
それを説明すると、ドルゴが困ったように言う。
「どうしましょうか。結界全体の破壊は諦めて、地上からこじ開けて侵入するしかないでしょうかね?」
「いや、ロックに任せましょう。ロック頼んだ」
「周囲には人里もない。ロック。ガツンといっちゃってくれ」
エリックとゴランは、俺が結界を破壊できると、少しも疑っていないようだ。
「簡単に言うなよ」
「無理なのか?」
「無理ではないが」
「そうか。そうだろう」
エリックはなぜか嬉しそうだ。
期待されているのならば、応えなければなるまい。
「さて……」
俺は隕石召喚の魔法を放つ。
同時に十二発。結界の核、そのコアの上空に巨大な魔法陣を出現させる。
そして隕石を呼び出す。出現した時点で隕石はすでに超高速だ。
隕石の下面では空気が圧縮されて、赤熱している。
結界の核は外周に等間隔にある。
だからかなり離れた場所にも同時に隕石召喚の魔法を発動しなければならない。
かなり難しいが何とか頑張った。
「なんとっ!」
ドルゴの驚く声が聞こえた。
俺の召喚した隕石は、言ってみれば、単なる灼熱しているだけの巨大な岩だ。
だが、単純な質量攻撃は防ぎにくい。魔法防御重視の結界では防ぐのは無理だ。
俺はさらに隕石に重力魔法をかけて、加速させる。
――ゴガガガガガァアアア
隕石はそのまま地面へと衝突し、衝撃波が発生する。
上空にいる俺たちにまで衝撃波が届いた。
「結界を破壊できました」
「……す、すさまじいですね」
ドルゴが息をのんでいた。
魔法を使ったとしても質量攻撃すれば、魔法防御は破れるようです。