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【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
一章

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前話のあらすじ:ゴランの娘は反抗期


もう一つの拙作、「最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる」が7/13頃にGAノベルより発売となります。そちらもよろしくお願いいたします。

 俺は自室に戻って眠りについた。

 朝になり、執事に起こされて、食堂へと向かう。

 ゴランはいなかった。


「ゴランはどうしました?」

「ゴランさまは日の出前に出勤なさいました」

「そうでしたか」


 ヴァンパイアロードの件について、動き出してくれたのだろう。

 仕事が早くて助かる。


 執事が出してくれた朝食を美味しく食べていると、セルリスがやってきた。


 冒険者になりたいらしい、ゴランの娘は今日も不機嫌そうだ。

 俺の顔を睨みつけていた。怖い。


 そんなセルリスに執事が声をかける。


「セルリスさま。パンはどれほど……」

「3つ、お願いします」

「かしこまりました」


 朝から結構食べるようだ。育ち盛りなのだろう。

 それはいいのだが、セルリスはじっと射貫くような視線を俺に向けつづけている。


「あの、俺の顔になにか?」

「あなた、パパとどんな関係なの?」


 セルリスはゴランのことをパパと呼んでいるらしい。

 意外と可愛らしい一面がある。


「そうだな。古い仲間と言ったところか」


 俺の答えはセルリスを納得させるものではなかったらしい。

 さらに眼光が鋭くなった。


「……あなた」

「なんだ?」

「本当はパパの子供なんでしょう?」

「ぶほっ!」


 思わず飲んでいたミルクを吹き出してしまった。

 とんでもない誤解である。

 いくら謎の効果で、若くみえるとはいえ、ゴランの子供には見えないはずだ。


 俺もゴランも40歳だ。

 だが、俺は次元の狭間にいた10年歳をとらず、さらに若返っているらしい。

 もしかしたら、25歳ほどに見えるのかもしれない。

 25歳なら、ゴランが15歳の時の子供になる。あり得ない。

 いや、15歳なら子供がいることも、あるかもしれない。


 俺はテーブルにこぼれたミルクを拭きながら冷静に告げる。


「いや、まったくもって違うぞ」

「嘘ね」

「嘘じゃないって」

「あなたを連れてきたときの、パパの喜びようと言ったらなかったわ」

「そうだったのか」


 俺はこの屋敷に来てから1週間ほど寝ていた。

 その間の出来事に違いない。


「パパは、ものすごくあなたのこと心配しているし」

「久しぶりに帰ってきたから、心配していただけでは?」


 セルリスは首を振る。


「娘の私が無断で一週間家を空けても特に何も言わないのに……。異常だわ」


 そういわれたら、返す言葉もない。

 俺もゴランのことを「お前は俺のおかあさんか!」と突っ込みたくなったのだ。

 娘の立場から見たら怪しいと思うのかもしれない。


 だが、ゴランの名誉を守るためにも、はっきりと真実を伝えなければならないだろう。


「10年ほど、遠くで戦っていたからな。心配なんだろう」

「訳が分からないわ」

「……そう、だよね」


 改めて客観的に考えてみたら、確かに訳が分からないかもしれない。


 そのとき、執事がセルリスの朝食を運んできた。


「ありがとう」


 セルリスはお礼を言えるいい子のようだ。

 朝ごはんをばくばく食べながらセルリスは言う。


「ママが出張しているのを、これ幸いと家に連れ込んだんだわ」

「それは誤解だぞ」

「パパのこと、そんなことしないって信じてたのに」


 バクバク食べながら、目に涙を浮かべていた。

 ゴランは娘がしばらく口をきいてくれないと嘆いていた。

 きっと、その理由は、ここにあったのかもしれない。

 冒険者になるのを反対されたからではなかったのだ。


 セルリスは、母親が外国に長期出張に出て寂しかったのだろう。

 そこに、父親がわけのわからない奴を屋敷に連れ込んだ。

 異常に喜んだり、心配している姿を見て、隠し子を連れ込んだと思い込んだに違いない。


 そんなセルリスに、執事が落ち着いた口調で言う。


「セルリスさま。ゴランさまはそのようなことをなさる方ではございません」

「あなたに嘘をつかせるなんて、パパは反省しなくてはいけないわ」

「いえ、私は嘘をついておりません」


 執事がゴランをかばうが、セルリスは納得しない。

 本当にゴランが隠し子を連れ込んだ場合でも、執事はかばうのだ。

 執事がゴランをかばって嘘をついていると、セルリスが考えてもおかしくない。


 セルリスは浮かべていた涙をぬぐうと、俺を見る。


「あなたは、わたしのお兄さまなの?」

「違うぞ」

「そう、つまりは弟なのね」

「ぶほぉ」


 また飲んでいたミルクを吹いてしまった。

 ものすごい論理の飛躍である。驚かされる。


「お姉ちゃんって呼んでいいわよ」


 セルリスはそんなことを言う。あまりのことに困惑する。

 だが、冷静さを失ってはよくない。俺はテーブルを静かに拭きながら指摘する。


「それは、さすがに無理があるのでは?」

「そうかしら」


 いくら若く見えるとはいえ、四十歳のおっさんを捕まえて、弟扱いとはどんびきである。

 このままでは、とてもまずいと思う。


 信じてもらえないので、俺は冒険者カードを見せることにした。


「俺の冒険者カード見てみ」

「……Fランク冒険者、戦士のロック」

「そうだぞ、名字がモートンだったりしないだろ?」


 俺は冒険者カードの名字を隠ぺいしている。だが普通は名字を隠ぺいなどしない。

 冒険者カードに名字が書かれていなければ、名字がないと考えるのが普通なのだ。


「パパはあなたを認知していないってことね?」

「……いや、そういうことではないぞ?」

「悪いのはパパであって、あなたには罪はないものね。お姉ちゃんが認知するように言ってあげるわ」

「いやいやいや」

「ママが反対するって思っているのね? うーん。もしかしたら怒るかもしれないけど。お姉ちゃんに任せて。ママも説得して見せるから」

「そうじゃなくって」

「苦労してきたのでしょう。これからはお姉ちゃんに甘えていいのよ?」


 セルリスは正義感が強いようだ。

 褒めるべき美徳かもしれないが、この場合はとても迷惑である。


 そして、弟が欲しかったのかもしれない。お姉ちゃんになり切って暴走している。


「いやいやいやいや! 落ち着いて聞いてくれ。俺は本当にゴランの子供じゃないんだって」

「パパに迷惑をかけるかもって心配しているのね。でも、少しぐらい迷惑をかけたほうがいいわ」


 俺は説得することをあきらめた。冒険者カードの隠ぺいを解除する。

 隠ぺい魔法はかけるのも解除するのも、とても難しい魔法だ。

 だが、俺にとっては簡単である。


 俺はセルリスの目を見る。


「な、なによ」

「秘密を守れるか?」

「相談かしら? お姉ちゃんはしっかりと秘密を守るわ」


 完全に俺のことを弟だと思っている。本当にまずい。

 ここまで思い込みが激しいとは。ゴランもそういうところがあった気がする。

 親子だから似ているのだろう。


 このままでは、モートン家、崩壊の危機である。

 俺の身分は友の家庭を破壊してまで隠すようなものではない。


「じゃあ、これを見てくれ」


 冒険者カードを見せた。セルリスが固まる。

 今は隠ぺいを全解除してある。

 長くて恥ずかしい、例の職業も書いてある。

 大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士Sランクというやつだ。

 名前の欄にラック・ロック・フランゼン大公と書かれているのも見えている。


「ど、どういうことなの?」

「そういうことだぞ」

「どういうこと……?」

「そういうこと」


 セルリスは二度尋ねてきた。混乱しているのだろう。

 俺は混乱が収まるのを少し待つ。


「ということで、俺はゴランの子供ではないってことだ」

「……そうだったのね」


 やっとセルリスは納得してくれたようだった。

セルリスの誤解が解けたようです。親友の家庭のほうが、秘密より大切ですから仕方がないです。

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― 新着の感想 ―
[一言] パパの隠し子ww しかも、弟ww つまり、駆け出しの冒険者としておかしくない見た目ww そりゃあ、反抗期にも突入するってもんだww
[一言] 思い込みがすご過ぎるけど、いい子だね
[良い点] ストーリーが面白い 単に魔神王を倒した後日談ではなく、さらに強い敵がいることが解り適度な緊張感がある 戦闘がテンポよく進むので、飽きない [気になる点] 会話パートで、ラックの相槌を読むと…
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