172 精神抵抗向上計画
前話のあらすじ:セルリスは狼獣人族と行動を共にしたいようだ。
『最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる』の2巻が発売中です。
俺の懸念をよそに、シアは優しい笑顔を浮かべた。
「セルリスが手伝ってくれるなら、心強いでありますよ!」
「セルリスさん。お願いしますね」
ニアも笑顔だ。
セルリスは剣の腕は素晴らしい。
剣自体も俺がヴァンパイアハイロードから奪った剣を使っている。
申し分のない戦力だ。
だが、忘れてはいけない。
ヴァンパイアには魅了がある。
狼の獣人族は魅了が効かないから、ヴァンパイア狩りを生業としているのだ。
セルリスの剣の力量が高くとも、魅了にかかればひとたまりもない。
「セルリス。待ちなさい」
「ロックさん。反対なの?」
「ヴァンパイアは魅了が恐ろしいからな」
「……」
「だから、魔道具を手に入れてからにしよう。出発はそれからにしてくれ」
「魔道具?」
セルリスがきょとんとする。よくわかっていなさそうだ。
「精神抵抗を高めるアクセサリー的な、そういうものだ」
「そんなの……売っているのかしら?」
「珍しいが、探せばあるだろう」
かなり高価なはずだが、お金は何とでもなるだろう。
問題は、品自体があるかだ。
見つかればよし。見つからなくとも、セルリスを足止めできる。
そんな、汚い考えだ。誠実ではないと思う。
それでも、セルリスが死ぬよりはいい。
セルリスが心配そうな表情になった。
「でも、高いのでしょう?」
「セルリス。冒険者にとって大切なことを教えておこう」
「なにかしら?」
「金で解決できることは、そうすべきだ」
「……なるほど」
セルリスは納得してくれたようだ。
生存率を高めるために、お金を惜しんではならない。
それが冒険者の鉄則だ。
「フィリー、錬金術で、そういうアイテムって作れないでありますか?」
「ううむ! シアは難しいことを尋ねるものだ!」
シアの問いに、フィリーは真面目な表情で考え込む。
確かにそういうアイテムは錬金術の範疇の気がしなくもない。
「素材は作れるし、いいところまで行けると思うのだが……魔法も組み合わせないと厳しいと思うのだ」
「そういうものなのでありますね」
「じゃあ、先生の錬金術と、ロックさんの魔法で作ればいいんじゃないのかい?」
「ほむ?」
ミルカの言葉をうけて、フィリーが俺の顔を見る。
「がう?」
「わふ?」
「ここ?」
ガルヴとタマ、ゲルベルガさままでこっちを見ていた。
期待のこもった目だ。
「魔道具はあまり作ったことがないからな……」
「ロックさんにも苦手な魔法があったでありますね」
別に苦手ではない。知らないだけだ。
作り方さえわかれば、並みの魔道具職人よりうまく作る自信はある。
とはいえ、作り方を知らなければ始まらない。
「王宮の図書室辺りで、魔導書を閲覧させてもらおうかな」
おそらく昔の魔導士が書物に残しているだろう。
禁忌だったり、秘術だったりしなければ、大概魔導書が残っているものだ。
精神抵抗を上げる魔道具は別に、禁忌でも秘術でもない。
基礎理論さえわかればいい。応用で効果を高めるのは俺は得意だ。
「早速、王宮に行ってくる。くれぐれも勝手にヴァンパイア狩りに出かけたりするなよ?」
「わかっているわ。……あの」
「どうした?」
「ロックさん、ありがとう」
「気にするな」
俺は水竜の集落の防衛に向かうのが遅くなるとモーリスに腕輪で告げる。
それから一人で地下の秘密通路に向かうことにした。
図書室に向かうので、ガルヴはお留守番だ。
「エリックには連絡しといたほうがいいな」
通話の腕輪を使うことにした。
いつもの集団通話モードではなく、個別モードで連絡する。
「む? 図書室とな?」
「そうだ。精神抵抗を高める魔道具の作り方を調べたいんだ」
「そのようなものあっただろうか……、とりあえず、司書に言っておこう」
「ありがとう、手間を掛ける」
「いや、いい。それよりもガルヴとゲルベルガさまを連れてきてくれ」
「む? 何か用か?」
「いや、娘と妻がな……」
「なるほど。あ、そうだ。それなら、タマも連れていこうか?」
「いいのか?」
「フィリーに頼まないといけないがな。図書室の閲覧、フィリーも一緒でいいだろう?」
「もちろんだ」
フィリーも一緒に調べてくれれば助かる。
魔道具の素材は、錬金術の領分だからだ。
俺は獣たちとフィリーを連れて、王宮に向かう。
フィリーは、念のために一応覆面をつけている。
フィリーがどこにいるかは、機密なのだ。
秘密通路を通りぬけると、エリックが待っていてくれた。
そして、エリックの妻レフィ、娘のシャルロット、マリーに獣たちを引き渡す。
レフィたちは大喜びで撫でている。
「がうー」
「こっこ!」
「わふ」
ガルヴたちも嬉しそうなので、何よりである。
そして、俺とフィリーは図書室に向かった。
国王であるエリックから特別許可を得ているので、閲覧禁止の図書も読める。
「おお、これは……興味深いのだ」
フィリーは関係ない図書にひかれているようだ。
「気持ちはわかるが、今は目的を優先してくれ」
「わかっているのだ」
「今度、エリックに言ってまた入れてもらおう」
「よいのか?」
「ああ、エリックも嫌とは言うまいよ」
そして、俺とフィリーは図書室で資料探しに集中した。
王宮の図書室はかなり蔵書数が多いようです。