136 後片付け
前話のあらすじ:ケーテにロックの正体がラックだと話した。
『最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる』の2巻が発売中です。
ケーテの「なんと!」がどういう意味なのか分からない。
さすがに竜族には俺の名前は知られていないだろう。
貨幣単位と同じだということに気が付いたのかもしれない。
「なんと、ロックはあのラックだったのか!」
「あのラックってどのラックだよ」
「大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士のラック・フランゼン大公であろ?」
「なんで、正式な称号知っているんだよ……」
「常識であるぞ、常識」
尻尾をビタンビタンとさせている。
「やはり、竜族にもラックの名は轟いていたようだな」
「さすがラックだぜ!」
「偉大なる功績は自然とひろまってしまうものだからな」
エリックとゴランはどこか満足げだ。
「なに他人事みたいに言ってるんだよ。拡散させたのはお前たちだろうが」
俺がそういっても、うんうんと頷くばかりだ。
俺は二人をほっといてケーテに釘をさすことにした。
「一応、俺の正体がラックだっていうのは内緒だからな」
「わかったのである! 内緒だな!」
真面目な顔で何度もケーテは頷いた。
「あっ」
一声上げると、ケーテはドタドタと走っていった。
すぐに俺にとっては大きな、ケーテにとっては小さな板をもって戻ってくる。
「ラック、これにサインが欲しいのである」
「……それはまあいいけど」
「よし! ちゃんと、ケーテさんへって書いてほしいのであるぞ?」
ケーテは嬉しそうだ。複雑な気分になる。
俺はサインをしてケーテに渡す。
「ありがとうであるぞ! これはちゃんと飾っておくのである……」
ケーテは板を大事そうに、奥の部屋へと持って行った。
すぐに戻ってきて、ケーテは言う。
「道理でなー。道理でロックは強いと思ったのだ。我に勝ったぐらいだしな」
「そうか」
「うむ。大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士の大公爵ラック・フランゼンになら負けても仕方ないかもしれないのである」
ケーテは納得しているようだ。
そんなケーテに俺は言う。
「ちなみに、エリックは勇者王で、ゴランは例の最強の戦士だぞ」
「あー、ラックのお付きの勇者と戦士だったのであるな。なるほど、さすがの強さだったのだ」
エリックとゴランは俺のお付きではない。
正確には俺とゴランが、勇者エリックのお付きである。
「ちが……」
「お褒めいただき恐悦の至り」
「強大な竜に褒められると、照れ臭いな!」
俺が否定しようとしたのに、エリックとゴランは嬉しそうに照れていた。
「なんで嬉しそうなんだよ……。ケーテ、お付きというのはだな」
俺は丁寧に俺とゴランがエリックのお付きだと説明した。
「ふーん」
わかったのかわかってないのか、ケーテは気のない返事をする。
仕方がないので、俺は後片付けを始めることにした。
隅々まで調べて敵がいないことを確認したら、後片付けをしなければならない。
「てきぱきと、掃除するぞ」
「そうだな。冒険者の義務だ」
「俺は後片付け、嫌いじゃねーぞ」
三人で手分けして、掃除を開始する。
「小さな魔石がいくつかあるな」
「ゴブリンだろ。ケーテ、ゴブリンもいたんだろう?」
「うむ。おったのであるぞ」
最初に俺が放った火球で燃え尽きたのだろう。
ゴブリンの小さな魔石だけが残されているので、拾っていく。
魔石の数を数えれば、何匹のゴブリンがいたのかわかるのだ。
それによって、敵の構成がわかるというものだ。
「これはレッサーヴァンパイアの魔石じゃねーか?」
「ふむふむ。なるほどなのである」
「それにしては、光が強く見えるが……」
「ほうほう? そうなのであるな」
ゴランとエリックは魔石を拾いつつ、分析もしているようだ。
ケーテは何をしたらいいのかわからないようだ。
尻尾を両手で抱えて、俺たちの周りをうろちょろしている。
そして、何かを話始めると、横に来て相槌を打つのだ。
「魔装機械はどうする?」
「魔石もないしな」
「だが、放置するわけにもいかぬであろう?」
敵に利用されても困る。どのように利用されるかはわからないが五十機もあるのだ。
「一機はフィリーに見せたいから俺が預かりたい。いいよな?」
「ああ。残りは王宮に運んだほうがよいかもしれぬな……」
「ケーテは、魔装機械について、なにか希望はねーのか?」
ゴランに尋ねられて、ケーテは考え込む。
「我であるか? 我はーうーん」
「珍しい金属かもしれねーぞ」
「じゃあ、一機だけもらっておくのである」
そして、ケーテは魔装機械を見繕いはじめた。
「これが一番痛んでなくて、かっこいいのである」
「それはよかった」
それから昏竜の死骸はゴランが回収した。
冒険者ギルドの方で、色々分析したいのだという。
「俺の火球でも大した被害はでてなさそうだな」
「火事は怖いのである。竜も対策はしてあるのだ。だが、家具は焼けてしまったのである」
「そうなのか」
「我の火炎ブレスでは、焼けなかったのだが……ロックの火球には耐えられなかったようである」
「それは……すまなかった」
竜の耐火技術は大したものらしい。
室内の後片付けを終えた後、俺は玄関先に散らばる扉のかけらを見る。
「これは鋼鉄製か?」
「そうなのである」
「竜の宮殿という割には、オリハルコンとかではないんだな」
「ただの扉であるしなー」
「とにかく、これを修復しないと、また空き巣に狙われかねない」
「……それは大変なのである」
ケーテは困っているようだ。
「修復するしかあるまい」
「だが、この山の上まで金属の重い扉を運ぶのも大変なんじゃねーか?」
「確かにな。まあ、それも魔法の鞄に入れれば大丈夫だが……」
俺たちが考えていると、ケーテが地面に尻尾をたたきつけた。
「そうだ! 奥の方に同じような扉があった気がしたのである」
そういって、ケーテは奥に走ると、金属製の大きな扉を抱えて戻ってくる。
やはりケーテは力持ちだ。
「これをつければいいのである」
「そうだな。それにしても予備の扉なんてよくあったな」
「これは予備ではないのだ。トイレの扉であるぞ」
「……そうか」
今は非常事態。トイレの扉より玄関の扉の方が重要だ。
ケーテと力を合わせて、扉を設置し魔法を厳重にかけておいた。
「これで、ヴァンパイアだろうがそう簡単には入れまい」
「ロックありがとうである!」
ケーテはとても嬉しそうだった。
ケーテの家のトイレが開放的になりました。