135 ケーテの家の中
前話のあらすじ:ケーテが吹き飛んだ。
『最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる』の2巻が発売中です。
しょんぼりしているケーテをこれ以上責めても仕方がない。
俺は灰になったハイロード一体とロード五体のメダルと魔石を回収する。
一応、ヴァンパイアハイロードたちが使っていた武器もチェックした。
「うーん。悪くはないが……」
「店で買えば百万ぐらいってところだな」
俺が剣をチェックしていると、ゴランが横からやってきた。
そして、剣を持って軽く振る。
「六振りで六百万か。悪くない」
そういって、エリックは笑った。
「ケーテ、例のゴミ箱というのを見せてくれ」
「わかったのである」
ケーテはどしどし歩いていく。
俺はいつでも助けられるよう、ケーテのすぐ後ろを歩いていく。
今回、しんがりはエリックに任せた。
ケーテは強い。
だが、戦闘経験という意味では、セルリス以下だ。
初心者ならば、補佐しなければならない。
「この中に置いてあったのだ」
そう言って、ケーテは扉に手をかける。
「少し待て」
「む? わかったのだ」
扉の表面はこげている。俺の火球のせいだろう。
だが、わずかな変形も見受けられない。
「やはり、ケーテの宮殿は火には強いらしいな」
「火事は怖いから対策はしてあるのだ」
「昏竜の暴風ブレスを食らっても、変形もしないんだな」
昏竜の暴風ブレスは、相当な威力だった。余程頑丈らしい。
「この扉は特に頑丈だったのに違いないのである」
ケーテの言う通り、他の部屋の扉はひしゃげていた。
「この宮殿を作ったものが、この部屋を特別視していたってことだな」
「なるほどー」
感心したように、ケーテは頷いた。
「扉が頑丈ってことは、中は無事ってことだ」
「ふむ」
「つまり、中に敵がいる可能性がある」
「そ、そうか!」
俺は聞き耳をたてる。分厚い扉だ。中の音は全く聞こえない。
魔力探知をかける。
中で何かが動いていた。大きさと魔力の量で判断する。
「罠はない。だが扉には施錠の魔法がかかっている。それに、中にまだ動いている奴がいるな」
「ヴァンパイアか?」
そういいながら、エリックが聖剣の柄に手を乗せる。
俺はうなずいた。
「二体いる。恐らくロードだ。それと魔装機械が二機いるな」
「なるほど。それは楽しみだ」
ゴランがにやりとわらった。
「あわわ」
ケーテは両手を口に当てていた。強いくせに臆病らしい。
「では、行くぞ」
「「おう」」
俺は解錠すると、扉を勢い良く開けた。
同時に、エリックとゴランが部屋に突っ込む。
「「PIPIPIPIPIPIPI」」
魔装機械が一斉に警告音を発した。
ヴァンパイアロード二体が身構えようとする。
だが、その瞬間にはすでに、ロードの首と体は切り離されていた。
エリックとゴランの目にも止まらぬ移動からの斬撃だ。
二機の魔装機械が、それぞれエリックとゴランに向けて素早く方向を変えた。
金属の塊をぶつけるつもりだろう。
俺は魔力弾を二機の魔装機械にぶち込んだ。
同時に一発ずつ、計二発。それなりに強い魔力弾だ。
魔装機械の前面装甲が大きくひしゃげる。
ケーテの宮殿に来た直後に倒した魔装機械なら、これで倒れていたはずだ。
だが、この魔装機械は特別製だったらしい。
「「PIPIPIPI」」
まだ動く。
小さな金属の塊を目に留まらぬ速さでエリックとゴランに向けて放った。
とっさに二人を金属の塊からかばうために魔法の障壁を張った。
障壁に金属塊が激しくぶつかる。
それた金属塊が部屋中に散らばり、壁に当たって火花を散らす。
だが、障壁に金属塊が当たったときには、エリックもゴランもそこにはいない。
「らぁ!」
「どっせえええい」
エリックとゴランの剣が、魔装機械の正面装甲を斬り裂いた。
「pipi……」
それでもまだ動こうとする。
さらにもう一度、斬撃をうけて、魔装機械は完全に沈黙した。
「随分と耐久力が高いのだな」
「ああ、あの一撃で沈まねーとなると、厄介ってもんじゃない」
エリックとゴランは深刻そうにそんなことを言う。
俺はヴァンパイアの魔石とメダルを回収しつつ言った。
「金属塊の攻撃はどうだ? 避けられそうか?」
先程の動きを見る限り、避けられそうである。
だが、エリックもゴランも首を振る。
「一機からの攻撃なら、何とかってところだろう」
「うむ。二機は厳しいな」
「かわすだけならともかく、かわしながら斬りこまないといけないとなるとな」
「ああ。斬りこむには接近する必要があるし、どうしても動きが読まれやすくなる」
エリックとゴランにここまで言わせるとは。
魔装機械は非常に恐ろしい敵のようだ。
「で、どれが例の万能ごみ箱なんだ?」
「これであるぞ」
「これか」
俺はごみ箱を調べ始める。さっぱりわからない。
「フィリーに来てもらう必要があるな」
「それより装置を運んだ方がいいのではないか?」
「そうだな。ケーテ構わないか?」
「うむ。やむをえないのである」
「ありがとう」
俺は魔法の鞄にごみ箱を入れていく。
それをじっと見ていたケーテが言う。
「ところで、聞きたいことがあるのだが」
「なんだ?」
「さっき、ゴランがロックのことラックと呼んでなかったか?」
「そ、そうだったか?」
「うむ。はっきり聞いたのだ」
確かにそんなことがあった気がする。
「まあ、近いうちにケーテには話すつもりではあったのだが……」
俺は自分がラックという名前であることを明かした。
「なんと!」
ケーテは尻尾をびたんびたんと床にたたきつけていた。
ケーテに正体を明かしました。





