表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【web版】ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。  作者: えぞぎんぎつね
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/303

105 ドラゴンの事情

前話のあらすじ:ドラゴンを大人しくさせた。


『最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる』の2巻が10月12日前後に発売です

 寒さで震えているドラゴンに向かって俺は尋ねる。


「立派なグレートドラゴンが、こんなところで何をしている?」

「ここは、もともと竜族の神殿があったところなのだ」

「それは知らなかった」

「竜の魔法で隠ぺいしていたから、知らなくても仕方はあるまい」

「で、その神殿に何があったんだ?」

「隠ぺい魔法がなぜか壊れて、ゴブリンに占拠されてしまったゆえ取り戻しに来たのだ」

「そうだったのか」


 問答無用で火炎を中に吐いたのは、ゴブリンを焼き払うためだったのだろう。

 人間の冒険者が中にいるとは知らなかったに違いない。


 竜族は強大で恐ろしい魔獣だ。だが、昏き者どもではない。

 人族の敵とも味方とも決まっているわけではない。

 人族とは争ったり共闘したり様々だ。


 ドラゴンが大きくため息をついた。


「これほど強いゴブリンがおるとはな……」

「まさか、俺たちのことを、ゴブリンだと思っているのか?」

 もしそうならとても失礼な話だ。


「ちがうのか? てっきり神殿から出てきたからゴブリンだと思ったのだが……」

「まったく違う。俺たちは人族だ」

「すまぬ、人族の区別は我には付けにくいのだ」

「ゴブリンは人族ですらない」

 常識のないドラゴンである。もっと勉強してほしい。


「そ、そうであったか……」

「ドラゴンをトカゲというようなものだ」

 それを聞いて、ドラゴンは笑った。


「ぎゃっぎゃっぎゃ! さすがに、それは言いすぎであろう。トカゲとドラゴンはまったく違うであろう?」

「ゴブリンと人族も違う」

「二足歩行で、手が二本あるではないか」

「トカゲだって、鱗があるし、牙もあるだろう」

「だが、ゴブリンも人族も目鼻口の配置が似ておるし……」

「ドラゴンだって、目鼻口の配置はトカゲと大差はないだろう」

「それでも全然違うのである」

「それはゴブリンと人族も同じだ」

「……それも、そうであるな。すまぬ」


 勉強不足だが、素直なドラゴンだったようだ。

 よく考えたら、俺たちもドラゴンとトカゲの顔の造形とか気にしたことがない。

 もし優れた画家がトカゲの顔とドラゴンの顔を同じ大きさで描いたとしよう。

 その絵を見て、どちらがドラゴンか判別できる人族がどれだけいるだろうか。

 そう考えると、ドラゴンの勘違いもやむを得ないことと言えるかもしれない。


「俺たちはゴブリン退治に来た人族の冒険者だ」

「それはまことに申し訳ないことをしたのである」

「本当に死ぬかと思った。気を付けてくれ」


 俺とドラゴンの会話を聞いていたシアが言う。


「ロックさんがいなかったら、私たちは全滅していたでありますよ」

「密室に火炎ブレスは避けようがないものね……」

「恐ろしいです」


 セルリスとニアもそんなことを言う。

 俺はニアの頭を撫でる。


「ニア。ゴブリン退治に来てドラゴンに襲われるってのは滅多にないから安心しろ」

「そうなのですね」


 初めての冒険でドラゴンと遭遇するのは運が悪すぎる。

 いや、逆に運が良いのかもしれない。

 少なくともドラゴンとの初遭遇が俺と一緒だったということは間違いなく幸運だろう。


「ゴブリンではなかったとしても、人族はとても強いのだな」

「ロックさんが特別でありますよ。今度から火炎を吐くときは気を付けて欲しいであります」

「すまない」


 ドラゴンは素直にシアに頭を下げた。


 俺はドラゴンに聞く。


「この遺跡……というか神殿跡をゴブリンから取り戻しに来たってことでいいんだよな?」

「うむ。そうである」

「なにか大事なものがある遺跡なのか?」

「歴史的に、文化的に価値があるのであるぞ」

「魔術的な価値とかは?」

「そういうことではない」

「そうか。人族も歴史的文化的に価値のあるものは大切にする傾向があるからわかる」

「ぎゃっぎゃ。わかってくれるか!」


 ドラゴンは喜んでいそうだった。


「竜族でも興味を示さないものがおるのだ。お主たちは強いだけでなく、文化や歴史にも理解を示すのだな!」

「そうだ。とはいえ、すべての人間が歴史的文化的に価値あるものを大切にするわけではないが……」

「ぎゃっぎゃっぎゃ! それも、竜族と同じであるな」

「そうかもな」

「人族の中でも、お主たちに会えたのは我にとって僥倖であった。我が名はケーテ。お主らの名を教えてくれ」

「ロックだ」

「シアであります」

「セルリスよ」

「ニアです」

「がうがう」


 ガルヴは俺の後ろに隠れて吠えていた。

 まだ、尻尾を股に挟んでいる。本気で怖いらしい。


「こいつはガルヴだ」

「そうであったか」

「ケーテ。この遺跡を隠せばいいのか?」

「うむ。ゴブリンを掃討した後、そうする予定だった」

「じゃあ、せっかくだし隠しておこう」


 俺は隠ぺい魔法を軽くかけておいた。

 ゴブリンや人族は気付かず、ドラゴンは気付ける程度の隠ぺい魔法だ。


「ロックよ、ありがとう。見事な魔法である。我の魔法より素晴らしい」

「気にするな。だが、あまり王都に近づくなよ。人族は臆病だから討伐に軍隊が動くことになる」

「うむ。気を付けよう……。だが、最近遺跡荒らしが流行っていてな……」

「王都近くに、竜族の遺跡はまだあるのか?」

「あるぞ」

「王都近くで荒らされている遺跡はどのくらいあるんだ?」

「王都近くで遺跡を荒らされたのは、この遺跡が最初である」


 今は荒らされていないようだ。何よりである。

 だが、これから荒らされる可能性は高そうだ。

 そのたびにグレートドラゴンにやってこられたら、色々大変だ。


「もし、王都近くでゴブリン退治するなら、言ってくれれば俺がやっておこう」

「よいのか?」

「うむ。勝手にやられて大騒ぎになったらことだしな。だが、連絡方法が問題だな。のろしでも上げてくれ」

「のろしであるか?」

「色を決めておこう。赤でいいか?」

「それは構わぬが、のろしでなければならぬか?」

「のろしでなくても、俺と連絡とれればなんでもいい」

「そうか。連絡手段は考えておこう。ロックに必ず連絡するようにしようではないか」


 それからケーテは何度もお礼を言って、飛んで去っていった。

話の分かるドラゴンでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ