初めてのクエスト3
「あれ、思ってたよりも弱いかな?」
私はうめく肉食植物たちを見つめてそう思った。
一応植物なので火に弱いだろうなーと思い牽制程度に放った火魔法を受けてチリのようになった愉快な踊りをする植物たちを見たのには、想像よりもはるかに違くてびっくりした。
「なるほど、見た目に反してあんまり強くないんだな。毒さえ気を付けていれば子供でも倒せそうだ。」
なにせ動きが遅いうえに、根が地面に張っているため本体は動けないので遠くから狙ったとしたらただのいい的だ。
これで採取クエストがランクが低いのが納得できるわけだ。
「まぁ、私がビビりすぎていただけということになるのかな?……はっずっっ!恥ずかしすぎだわ!」
私はその場で悶えた。
「あ、クエストだった。ええっと…、月見の華、オシミクリア草、黄色リンゴの葉……。」
名前と共に主な採取地や特徴が書いてある。
「うーん、地図を見る限りじゃどれもそこまで深く森に入らなくても手に入るみたい。これならすぐ帰れそう。あ、オシミクリア草はこのあたりだな。」
私は立ち上がって周囲を見渡した。
「って、いまあの肉食植物を倒すために火魔法使って攻撃したんだったわ。残骸まみれで何もわかないじゃない。」
風がかさかさと木の葉を揺らし吹き踊る。
「うわっ!」
その風で舞い上がった残骸のチリが目に入りそうになって思わずのけぞってしまう。
風が吹き終わるのを見計らって薄ーく目を開けてみると、きらきらとしている小さな植物が目についた。
「ん、あれかな?」
私は見失わないように瞬きせずにそのきらきらしたものに近寄る。
「あ、やっぱりこれだ、オシミクリア草。やった!見つけちゃった。」
いそいそと一本ちぎってタローからもらった袋の中に入れる。
革製の袋は見た目よりも丈夫で軽いしかなり使い勝手が良かった。
「しかしあれだなー、こういう植物見るとここが地球じゃないんだなってつくづく思わさちゃうな。」
採取したオシミクリア草もそうだが森の所々がカラフルな感じで、確かに植物特有の緑色がほとんどではあるのだが、紅葉の季節でもないのに赤やら黄色の色をしていたり、ピカピカと光っていたり、さっきの肉食植物たちのようにうねうねと動いていたり…。
こういうものは前世では見れない光景だ。
そこは確かに森ではあったが前世の記憶があるユリカにとっては少し違和感を感じるものだった。
ユウリはそんな森でもためらわずつかつかとさらに奥へと進んでいった。
「立ち止まれない、戻れない、それが異世界転生。…なんか一句できる気がするな。」
どうでもいいことを一人でしゃべるユリカ。
それは今まで大勢で旅をしてきてその中でたくさん話をした、その思い出が一人でのクエストを寂しくさせて勝手に口から出てきたものだった。
しばらくそうして歩いていると目的地に無事についた。
「あ、これかな月見の華。スズランみたいだなー、綺麗。」
ブチリと根元から引っこ抜くとその揺れで花が揺れてチリリときれいな音を立てた。
それをクエスト用紙の指示道理に透明な瓶の中に入れて革袋に詰める。
「何に使うんだろうな。これが本当にスズランだったら、毒性あるだろうし…って素手でさわっちゃったな。…大丈夫だよね?」
前世からの曖昧な知識がちょっとした不安を駆り立てたのでユリカは一応手をすすぐことにした。
「ウォータボールでいいよね…。えっと、水の玉を出すだけで…。空気中の水蒸気からちょっともらいます。」
どんどんと魔法のイメージを固めていく。
魔法を使うときはイメージが強くできればできるほど少量の魔力で済むためだ。
『ウォーターボール』
正直、詠唱するのはイメージの手助けになるからなので詠唱はなしでも使えるのだが、みんなしているし、中二心をくすぐられてかっこいいので言うようにしている。
詠唱しない方が早くできて効率的には下がるけど…。
前世なら痛すぎてできないことがここでは普通に行われているので恥ずかしがることなく使えるのがちょっと楽しかったり…。
魔法を発動させると目の前に水が集まり球形になる。
その中に手を入れるとひんやりして冷たかった。
「うわあ、便利だなこれ。どこでもできるし、霧散させれば後かたずけもしなくていいし。魔法って超便利。これは確かに工業が発達しないわけだわ。」
工業を発達させなくてもそれ以上に便利な魔法の存在があるのでこの世界では化学は全くと言っていいほど進んでなかった。
「んーこれは工業の知識はいらないかもなー。魔法使えない人のためにって思ってたけど、それよりも使ってもらう体制を整えた方が現実的そう。でも化学はいるよな。魔法使うときもそうだし、医療的にも必要不可欠だし。」
神様は適当でいいといったが、せっかく第二の人生を送らせてもらっているわけだし何かしようとは思っていたのだ。
アイリーンたちからの話によると魔王は10年前に勇者が倒したばかりらしく、今後100年は現れないだろうとのこと。
つまり漫画や小説のように異世界転生したものの魔王は倒さなくていいので他のことをしようと考えているのだ。
もとより命を賭けるのは御免だったでラッキーだったというべきか。
そんなことを考えながらバシャバシャと手を洗っていると後方から声が聞こえた気がした。
「ん?気のせいかな?」
とのんびりとしていると、今度は間違いなく前方から気配が近寄ってきた。
「!なんか来るな。しかも足早いし。」
明らかにこちらに向かってきていて避けられそうもないので仕方なく腰の剣をスルリと抜くと、ジェドに鍛えてもらうときのように構えた。
「どうか勝てる敵でありますように。」
そう願っても前からくる敵は変わらないであろうが、ポケットにある勾玉を強く握った。