前世での記憶 後半
その次の日、私は急に状態が悪化してそのまま死んでしまった。
親より早死にするなんて、なんとも親不孝なことをしてしまったなと思いながら。
気づいた時にはなんか神々しいというか雲の上の世界みたいな感じの場所にいた。
体が軽くてとてもふわふわする。
しばらくそこにすわってぼーっとしていると、やけに光を放っている女性とお爺さんが近寄ってきた。
女性はとても美しく、お爺ちゃんの方はサンタクロースみたいな白くて長いお鬚をはやしていた。
(すごい…なんか私がいかにも神です的な雰囲気を放っている…)
実際に神なのだろうか?
でもここが死後の世界というのは何となくわかる。
生きている私はこんなに軽い足取りで動くことはできないから。
ちょっとうれしくなって立ったり座ったりを繰り返してみる。
「何をしているのですか?」
と、女神っぽい人が話しかけてきた。
今私がしている行動はほかの人が見たら明らかに挙動不審だろう。
「あっ、いや、つい。」
「まぁ、かまいませんが…あなたに用があるのです。ここではなんですし、ついてきてはいただけませんか?」
私は思わず「はぁ…」と言って女神さまの後を追う。
案内されたのは神殿っぽい建物の部屋の一角だった。
(ここのものは…あれだ、病院より白いな…)
どこを見ても白白白。
その中でも女神さまと私の髪や目は白くないので特に目立って見える。
…お爺さんはあれだ、白髪としわで隠れてしまっている目も相まって空気の中に溶け込んでいる。
「えっとではですね、聞きたいことがあるのでよろしいでしょうか?」
「あっ、はいどうぞ。」
女神さまはふぅっと深呼吸する。
…緊張でもしているのだろうか?
「初めまして私は女神です。あなたは架白木 由衣さんで間違いないですね?」
確かに架白木 由衣は私の名前だ。
「はい、そうです。」
「では由衣さん、あなたは異世界、または魔法というものをご存知でしょうか?」
は?何を聞くかと思えば異世界?魔法?
そんなの…知っているに決まっているだろうが!!!
現代人なめんな!!!
なぜが心の中の私は逆切れしていた。
「まぁ、小説などの本で見る程度には…」
「そうですか、ではそういう世界に行ってみたいと思いませんか?」
今度のは完ぺきにフリーズしてしまう。
(異世界…?え?うーん…)
「いや別に行きたくはな…いや、魔法は使ってみたいです。」
みんな一度くらい思ったことはあるでしょう、魔法使ってみたいって。
学校に歩いていくのが面倒くさいとき、瞬快移動とかゲートとか使えたらなって思うじゃない。
中学二年生になると発病する有名な病気にかかって、魔法の呪文とか魔法陣とか書いてみちゃうじゃない。
ちなみに私はやった。
病院で10歳の時にノートに漫画やアニメの魔法陣を映してみたりした。
(あれはすごく楽しかったなー)
本では黒歴史がとか言ってるが、私は結構いい思い出だと思う。
「そうですか、ではここからが本題なんですけど、異世界に転生してくれませんか?記憶付きで。」
「異世界…転生…え?まじで?」
それは願ってもないことです。
最高です。
あっでも危ない世界にはいきたくないかな?
「まじです。同意してくれますか?」
「いや、別にかまいませんが…何か私がやらないといけないこととかあるんですか?」
わざわざ転生してほしいと頼みに来るんだ、何かあるにきまってる。
「そうですね…。絶対というわけではないですが、魔王討伐とか、人間の知識の発展とかですかね。魔王討伐の方は人類が絶滅しない限りは関わらなくてもいいくらいです。人間の知識の発展は我々の仕事でして、こうやって定期的に発展している世界の人間を転生させているわけです。」
なるほど、それがお仕事なのね。
「私でもいいんですか?知っているかもしれませんが私は小学校3年生までしか学校に行っていなかったので友達もいませんし、知識だって道徳的なことに関しては触れようと思って触れたこととかないですので人間性が大丈夫か心配になるくらいですよ?」
「それについては安心してください。あなたの徳は普通の人より高いです。私は神ですからそれくらいのことはわかります。それにずっと寝込んで病院で暮らしていたあなただからこそいいのです。」
どういうことだってばよ。
生き生きとしている元気で健康な若者より、ずっと動けずにベットにはいつくばっている元気のない若者の方がいいなんて。
「実は転生する異世界では機械の類のものが全然といっていいほど発達していないのです。あなたの世界の現代人では不憫すぎて生きていけないと思うのです。その証拠に前の転生者は生活に慣れず早死にさせてしましました。」
なるほど、つまり、ずっと病院でご飯を食べるか、お風呂に入ったり着替えたりするか、勉強するか、たまにパソコンや携帯をいじっていただけの私はその生活についていけるかもしれないってことね。
―――――――いや、ちがうだろ!!!
「いや!逆でしょ。私はずっと病院にいたから絶対基本生活とか根付いていないに決まっています!これは確信です。絶対一人じゃ生きていけない自信があります!」
女神様は「あっ確かに…」とつぶやいて考え込んでしまった。
それを見てずっと黙っていたお爺さんが口を出してくる。
「全く、情けないのー。そんなこともわからなかったのか。お前は相変わらず進歩がないのー。」
うお、THEお爺さんボイスだ。
私の周りには年配のひとしかいなかったのでとても親近感がわく。
「由衣さんや、そこらへんは安心してくれていい。そういった普段生活に必要そうな知識は転生時に記憶の中に詰め込んでおくからの。前の時、こやつはその作業を忘れておったのじゃ。」
女神様、ドジっ子か。
そのドジで人が一人死んだんだからそんな軽くで済まされるわけないが。
さしずめこのお爺さん神は新米女神がドジをしないための監視役かなんかなんだろう。
それでさっき女神様が緊張していたのもうなずける。
「えっと、一つ聞きたいことが。」
「何かの?」
「その世界にもし転生したら転生した私は健康体ですか?」
「ふむ、健康体じゃぞ。ずっととは限らないがな。普通の人並みには生きれることを約束しよう。それくらいの配慮ならこちらでも可能じゃ。」
つまり、転生すれば…
(今までできなかったことがたくさんできるっっっ!!!)
「やります!異世界転生!!!お願いします!」
「そうかその返事が聞けてうれしく思うぞ。」
後半何も出番のない女神様だった。