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夏嫌いな私が雪男のユキ君とクーラーガンガンの部屋で過ごす話

作者: ゆいらしい

夏は暑い。…知ってる。でも、言いたいの。暑い、夏、暑過ぎるよ…


と、文句を垂れている私こと萩原夏実。


名前からわかる通り夏生まれなんだけど、夏は暑いから嫌いなのである。


だから、家のクーラーはガンガン付ける。え、エコ?クーラー代?知らんて。…死人出るよりましじゃないですか!!命をなんだと思ってるんですか!!?


…一応言っておくけど、お母様(家主)の許可は頂いている。


娘想いの良いお母さんなんだね?

はぁ!!??違う違う違う!!


それは無い。あのお母さん(ババア)に限ってそれは無い。


そう、お母さんの本当の狙いは…



「夏実お姉ちゃん?」




白銀碧眼のプリティーフェイスを持つ少年ことユキ君が、なかなか部屋に入らない私を心配してかそっと扉を開けて顔を覗かせる。


「ただいま、ユキ君!……じゃない、溶ける!!ユキ君溶けちゃうから扉閉めて!!」


てゆうか、ごめんね。私がなかなか部屋に入らないから心配してくれたんだよね。


お母さんに「あんたの部屋クーラー付けてるんだからお使い位は行け」と命令されて、さっきまで私は真夏の極暑の中買い物行ってきてたのだ。


あーーーーーー、冷えるーーーーー。

部屋ん中さいこーーーーー。


ぶっ倒れる私をユキ君は嬉しそうに見つめる。冷たいお手手で私の頭をなでなでしてくれる。


冷たいお手手…。それは、手というよりむしろ氷だ。



いや、ユキ君を冷たい部屋に監禁した結果ではない。なんとユキ君は雪男なのだ。


雪男といっても毛むくじゃらのむさそうなおっさんの容貌ではない。ユキ君は白銀碧眼のプリティーフェイスを持っている(大切なことなので2度言いました。)こんなに可愛いユキ君が毛むくじゃらのおっさんになるなんてあり得ない。


イメージでいえば、美人な雪女をそのまま男の子にした感じだ。





そんな雪男のユキ君と私の出会いは3日前。






暑いーと唸って街中を歩いていた私は何かにつまづいて転んだ。その何かとは、行き倒れていたユキ君なのである。ユキ君は溶けかけていた。溶けかけている、というかダルンダルンの死体の様でちょっと怖かった。


普段の私ならすぐに逃げていたであろう。


しかし、猛暑の中で私に走る元気が無かったことと死体もどきがうっすらと発する「暑い…助けて」という言葉を聞いて仲間意識が芽生えた。


だから、お母さんに文句を言われながらもクーラーガンガンの私の部屋に連れてった。


しばらくすると、溶けかけていたユキ君の体は収まり「涼しい」と一言発した。


お、死体が生き返った。


そう思い私はユキ君の顔を見る。

そしたらなんと銀髪碧眼のプリテ(略)なお顔ではありませんか!!私はこの時初めてユキ君の顔を真正面から見た。


その時の私の気持ちは複雑だった。


やばいやばい。こんな可愛い子勝手に家に連れて来て…誘拐と勘違いされたらどうしよう?いや、勘違いというかもう誘拐済じゃん!!


しかし、まぁ、話を聞く限り


ユキ君は雪男で、冬に日本でバカンスしてまた北極に戻るつもりだったらしい。しかし、親と逸れた為北極に帰ることも出来ず夏まで日本を彷徨っていたようだ。親を探す中で、バカンス先の北海道からここ東京まで歩いてきたようだ。


「今回は本当に死ぬかと思った…でも、夏実お姉ちゃんが助けてくれたんだ。夏実お姉ちゃんは僕の神様だよ!」


妖怪に神様と崇められた…



…と言う訳で、妖怪を誘拐しても人間の法律適用するのか?ということで、誘拐犯の心配は無くなった。


で、お母さん。


お母さんに「この子雪男で暑い中放置すると死んじゃうからクーラーつけてて良い?」と聞いたら、ユキ君の顔をじっくりと堪能した後「まぁ、この子の命に関わるなら仕方ないわね。」と言った。それ以降あれだけ文句を言っていたクーラーには一切お咎めがなくなった。マジお母様メンクイババア



そんなこんなで、私とユキ君は仲良く部屋で涼んでいるのだ。


「夏実お姉ちゃん、夏実お姉ちゃん」と懐いてくれるユキ君が可愛いくて仕方ない。瀕死の状態を私が助けたということもあってユキ君は私にかなり懐いている。…もちろん、親がいない寂しさもあるのだろう。暑くてクーラーのついている私の部屋しか行動範囲が無いのも依存の一因かもしれない。



そう考えると、早くユキ君をお家に返してあげたい気持ちがある。子供がこんな小さな部屋一室でずっと夏休みを過ごすのも教育上良くないだろうし。



ただ、ご両親がユキ君を迎えに来ることも不可能だろう。なにせ雪男&雪女夫妻なのだ。ユキ君探して溶けてしまっては元も子もない。


…んー…何か手はないかしら?


照ってる太陽を尻目に私は溜息をつく。そんな私をユキ君が心配そうに見つめる。


「大丈夫だよ、ユキ君。」


…この可愛い子の為に人肌脱ぐ覚悟を決めた。





暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い!

太陽に殺される…!



と汗という汗を流し、私は図書館に辿り着いた。図書館の中は快適だ。私の部屋ほどじゃないにしてもクーラーが効いている。


私は、雪女や雪男について調べにきたのだ。何かユキ君をご両親の元に返す策があるかもしれない。


途中、友人達に遭遇し「夏実が外にいる!?」「天変地異!?」「夏実の癖に!」と茶々を入れられた。


夏が本当に嫌いなのだ。

暑いのが本当に駄目なのだ。

冗談で済まないほど、暑いのが嫌なのだ。


これはもう生理的に無理なやつだ。

ゴキブリ見たら飛び上がるのと同じ現象なのだ。…誰か私の気持ちを理解してくれ。



…とまぁ、私の心からの叫びは置いといて



最初は無難に小泉八雲の『雪女』の本を手に取る。小泉八雲は…あれだ。耳なし芳一とか怪談系の話を書く人だ。そこで書き記されてる雪女は美女であると記されている。さすが、ユキ君の親族?いや、わからないけど…


なんてアホなことを考えていたら外は照ってるお日様が沈み非常に心地よい温度となっていた。



家に帰るとユキ君が悲しそうな顔をしていた。



「夏実お姉ちゃん、どこ行っていたの?外へ出て暑くなかった?大丈夫?お姉ちゃん溶けちゃわない?お姉ちゃん何処にも行かないで。心配だよ。ずっと一緒にいよ?ね?」


ぎゅーとぎゅーっと抱きついてきた。あ、ちょっと苦しいです…意外に力強い…



「私は人間だから溶けたりなんてしないよ」と微笑み返しながら、…何か不安に感じた。私への依存を心配した。やっぱり、私がなんとかしなきゃいけない。





あくる日もあくる日も図書館に通いつめた。意味はあるのかわからない。図書館に向かう度にユキ君から行かないでオーラ出されるは暑いわで割と散々だ。




…帰り道、私は何かにつまづいて転んだ。デジャブを感じる。


何かは綺麗な綺麗な女性だった。黒髪碧眼の美女だった。


「ごめんなさい…!」


「あ、いいえ…こちらこそ…」


そう呟く彼女は幸薄そうな様子だった。何処か不安そうだった。佳人薄命の一言に尽きる。


「ユキ君…」



私は言う。途端、「息子をご存知なのですか!?」と鬼気迫った様に言う。


私は確信した。

あぁ、ユキ君のお母さんだ。



すぐにユキ君ママ(雪女さん)をユキ君の元へ連れてった。


「あぁ、あぁ、ユキ…!心配したのよ?!」とユキ君を抱き締めた。ユキ君はいきなりお母さんが現れてびっくりした様だったが、お母さんに胸元で安心したのか微笑んだ。


「ママ!」と抱き締め返すユキ君に雪女さんはここではまだ暑いでしょう?とすーっと息を吐いた。


途端、部屋は辺り一面雪まみれとなる。


「ちょ…!!」


いくら大好きな雪に囲まれている状況だからと言って部屋の中を雪まみれにするのは勘弁して欲しい。積もり積もった雪で部屋の面影はない。一面真っ白だ。…てゆうか、雪、多過ぎて…うも、れる…っ!!


私が窒息しかけている時「夏実お姉ちゃん…!」とユキ君は雪女さんの手を解き私を助けてくれた。


「冷た…っ」


ユキ君の手は冷たかった。まるで氷の様…。でも、私に覆い被さる雪よりも氷の様なユキ君の手は暖かく嬉しく感じた。


私の一言でユキ君は慌てて手を離そうとしたが、ユキ君よりも早く、私はユキ君を抱き締めた。冷たい冷たいユキ君の体。でも、安心した。あぁ…依存してるのはユキ君じゃなくて私もだったのか…


ユキ君がいる所は涼しい所。

ユキ君は私を否定したりしない。

ユキ君自身が私に依存してくれている。



「ユキ君、熱くない?」


私が抱き締めることによってユキ君の冷たさを奪ってないだろうか?


「熱いけど、熱いのは嫌だけど、夏実お姉ちゃんの体温なら嫌じゃない。」


ユキ君の力強い腕に支えらて、ギリギリ雪に沈まずにすんでいる。


だけど、…そろそろ……

ユキ君の腕は震えてる。

少しずつ沈んできてる。


「腕離して」と言うつもりだった。口を開けた途端、


ぱぁっつと雪が無くなった。

まるで最初から雪など存在してないかの様に。


「え」


クーラーの効いた部屋で意味なく私とユキ君は抱き合っているかの様だった。


気恥ずかしくなり私はユキ君から離れようとした。が、先程同様ユキ君の力強い腕が私を離さなかった。


「ママ、どういうつもり?夏実お姉ちゃんに危害を加えるつもりなら許さない。」


目線を雪女さんに向けた。ちらりと見えたその視線は凍てつくように冷たかった。


ずっと探し回ってたであろう息子からその視線を受けて、雪女さんは悲しそうだった。が、先程突然殺されかけたのだ。私としては同情などしない。




「…ごめんなさい、、、ユキが夏実さんに誘拐されたのかと思ってつい…」




「あ」




そういえば、私はユキ君のご両親を見つけた嬉しさに特段説明も何もせずにユキ君の元へと連れて行った。


ユキ君を探して弱り切っていた雪女さんから見たら私は誘拐犯だ…


ユキ君を誘拐して監禁した犯罪者に写ること必須だ。



「ごめんなさい。」


私は謝った。






雪女さんいわく、雪女&雪男は修行をすれば真夏でも外を歩けるらしい。そのことを聞いてか、最初は私から離れたくないと駄々をこねていたユキ君であったが


「夏実お姉ちゃん、待ってて。僕、夏実お姉ちゃんに見合う男になる!!」と意気込んだ。


そして、雪女さんから注意事項として「雪女&雪男がいることを口外しないで下さい。」とお願いされた。


なんでも、割りかし人間の中に混じり込んでい雪女&雪男は多いらしい。それどころか他の妖怪も普通にいるらしい。


だから、妖怪の生活を守る為にも本来妖怪は人間に正体を明かしてはいけないようだ。





さてさてさて

あれから何年も経った。




そして、私には可愛い可愛い年下の彼氏がいる。一緒にいると安心出来る可愛い彼氏。


「夏実ちゃん、夏実ちゃん!」と強い力で抱きついてくる。苦しいと思いつつも、その彼氏に包まれたらとても冷たくて気持ち良いのだ。…なんだか嬉しくなって私も抱き締め返す。


「熱くない?」


「熱いけど、熱いのは嫌だけど、夏実ちゃんの体温なら嫌じゃない。」



私達はぎゅーとぎゅーと抱き締めあった。


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