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Emotional Vampire  作者: 露崎蒼空
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Act 1. Scene 1. 日常-1

第一話です。よろしくお願いします。

サブタイトルわかりにくくて申し訳ありません。第一章、第一部、第一話みたいな感じです。

眩い光が少女の身体を包む。一般的な生活の中では決して浴びる事の無いほど眩いその光は、少女の姿をくっきりと映し出していた。

少女の目の前には、何列にも連なるたくさんの人々。

少女の登場を今か今かと待ちわびていたその群衆は、ついに姿を現したその華奢なシルエットに隠しきれぬ興奮を滲ませる。

彼らの歓喜と期待の視線を一身に受け、少女はその小さな口元に笑みを浮かべ、言葉を紡ぎ始める。


「皆さーん!今日は私の為に集まってくれてありが」


プツン


「あ」


突如として暗くなった画面。そこには先程までのキラキラした世界とは程遠い、ソファに寝っ転がった少年と、ソファの背もたれ越しにリモコンを持って仁王立ちをする少女が映りこんでいた。

所々跳ねた少し長めの艶やかな黒髪をした少年は、その長い手足をダラダラと動かし、ソファに座り直す。

黒のジャケットの下には無地の白いTシャツを着ており、ズボンもこれまた黒とかなりシンプルな服装だが、少年の端整な顔立ちとスラリとしたスタイルが相まって、さながら雑誌のモデルの様だった。

一方で、少女の身に纏っている服は俗に言うパジャマで、肩甲骨のあたりまで無造作に伸ばされた髪はボサボサで、いかにも起き抜けという様子だった。

時刻は現在午後一時。起床時間としては遅すぎるとはいえ、起きたばかりの風貌としては一般的とも言えるのだが、一点だけ違和感を覚えるところがあった。

少女の髪色は、おおよそ地毛とは思い難いような、見る者の目を引く鮮やかな赤紫色だったのだ。

少年は画面越しにその色を認めると、背後に立っている少女を見上げた。


「何するんだよ、これから始まるとこだったのにさ」


抗議するような物言いとは裏腹に、その顔には相手を挑発するかのような笑みを浮かべている。

それに対応するかのように、少女は眉間のしわを深くし、少年を恨めし気に睨みつける。

その瞳は、これまたカラーコンタクトでもしているのではないかと疑ってしまうような深い赤紫をしていた。

寝起きということもあってか、お世辞にも良いとは言えない目つきに加え、その長い前髪で左眼が覆い隠されているため、さらに威圧感を増している。


「あたしがいる時は見るなって、何度言ったらわかんだよ」

「そんなこと言われてもねぇ、やっぱり気になるじゃん?」


額に青筋が浮かぶのではないかと思うほどの激しい苛立ちを隠しもしない少女に対し、少年は肩をすくめ、まるでそれは仕方の無い事だと主張しているようで、全く反省した様子はない。

それどころか、とどめとなる一言を噴火寸前の火山の中に放り込んだ。


「我らがアイドル、乙早幸女オトハヤコウメちゃんの活躍は」

「……っうるせええ!!」


少年の放った一言をかき消すほどの、まさに火山が噴火したかのような怒号が響いた。

少女は少年の胸ぐらを掴んでその真っ赤になった顔を近づけ、矢継ぎ早に言い訳ともとれる言葉を投げつける。


「あたしだって好きでやってんじゃねーよ!あんたも知ってんでしょ!?あんなぶりっこキャラしてる自分なんて仕事以外で見たくないの!!なのに毎度毎度人の神経逆なでするように、お構いなしでテレビ見やがって……!それと!家ではその名前で呼ぶなってあれほど……」

「テレビ見るくらい自由だろ?ふう……そろそろ吸収しきれないからさ、その『怒り』収めてくれない?」


少女の怒りなどどこ吹く風と言うかのような、少年の飄々とした態度に、少女は諦めた様子で一つ荒い溜息を吐いて、少年を突き放すように掴んでいた手を放した。


この乱暴な少女――早乙女幸サオトメコウは、「乙早幸女」という芸名でアイドル活動をしている。

数ヶ月前彗星のごとく現れ、その可愛らしいルックスと、聞く者を魅了する透き通った歌声で人気を博し、一躍時の人となった。

しかし性格は一言で言うと「ぶりっこ」で、彼女をよく思わない人間も少なくない。

何を隠そう、本人さえもそんな自分を嫌っているのだから無理もない。それならば何故そんなことをやっているのか?

それにはきちんとした、彼女なりの理由があるのだが、それはまた後程。


コウは未だ苛立ちの色が残る様子で少年を一瞥して、今度は深い溜息を吐き、少年にあることを確認した。


「あんた、ちゃんと『眼』は隠してんでしょうね?」

「もちろん。ほら」


少年は前髪で半分ほど隠れていた右眼がコウに見えるように、前髪を上げて見せた。

その右眼は、左眼の黒と対をなすような白い眼帯で隠されていた。


「ならよし。てか『眼』も使ってないのに、よくもまあこんなに人を苛立たせられるな」

「コウの怒りのツボはわかりやすいからね。お陰様で今日も魔力満タンだよ」

「左様ですか。ったく、何でこんな奴に吸収されにゃならんのか……」

「君がいちいち目くじら立てるからだろ?」

「あんたが怒らせるような事するからだろうが!」


もう付き合っていられないといった様子で、コウは少年から離れ、身支度を始めた。


少年――壱川雅紅イチカワガクは人間ではない。共に暮らすコウも同様に。

彼らは相手の感情を吸収する怪物、「emotionalエモーショナル vampireヴァンパイア」である。

吸収する感情は各々で異なるが、共通して左右どちらかの眼が、とある効果を持っている。

その眼は『魔眼まがん』と呼ばれており、その眼で見た者の頭上に、自分が吸収する感情を抱かせるための方法が浮かび上がる。

例えば『悲しみ』を吸収するemotional vampire――省略してEVとでもしておこう――だとしたら、相手を悲しませる方法が。『喜び』を吸収するEVだとしたら、相手を喜ばせる方法が見えるのだ。

コウがガクの眼を確認した理由はここにあった。

彼は『怒り』を吸収するEVであり、コウを怒らせた回数は数え切れない。

とは言っても、眼を使って怒らせることは滅多にないため、隠してあろうとなかろうと、関係ないと言えば関係ないのだが。

眼を隠している理由は、それぞれあるのだが、そこは追々説明するとしよう。


身支度を整えたコウがリビングへ戻ると、そこにガクの姿はなく、代わりにキッチンから甘い匂いが漂っていた。その匂いのする方からガクの声が。


「またそのワンピースか?」

「フリフリしてなくてもイメージ壊さないから、楽なんだよ」

「そうですか。普段はスカートすら滅多に着ないくせに……」


服はパジャマから淡いピンクを基調としたワンピースと、白いカーディガンに変わり、髪はツインテールに結わかれていた。メイクも多少しているようで、幾分目つきが柔らかい。

これが仕事に行く際の、定番の格好だった。


「もう少し早く起きてくれれば、俺ももっと早く昼飯にありつけたのに……」


キッチンには、文句を言いつつも手際よくパンケーキを焼くガクの姿があった。


「どーもすいませんね。先に食べてりゃよかったじゃん」

「その方が面倒だろ」

「まあな」


コウがダイニングのテーブルに着くと同時に、焼き立てのパンケーキが運ばれてきた。

生クリームや蜂蜜、フルーツなどを多く使った中々に豪華な品だ。見た目も申し分なく、店で提供しても文句なしの出来だった。


「こんな豪華なの久しぶりじゃん」

「今日生放送なんだろ?途中で魔法切れて正体晒されると、俺達まで大変な事になるからさ」

「んなヘマしないっての……いただきます」


感情には味がある。

甘かったり、辛かったり、苦かったり……種類によって様々だ。

EV達は必然的に、自分が吸収する感情と同じ味を好む。それには意味がある。

感情と同じ味であれば、EV達のエネルギーであり命の源である『魔力』に置き換えられるのだ。

勿論、感情を吸収した時よりも量は劣るが、緊急時にも備え食事による補給も不可欠なのだ。

魔力がなくなる事は死に直結する。

そのため、食事は人間と同じくらい重要な意味を持つ。

特にコウの様に人間社会で働いているEV達は、その奇抜な髪色や瞳の色などを魔法によって変え、且つそれを保つ必要があるため、余計に必要となる。


「甘っ!!」


同じ味を好むと言っても限度があるが。


「何これ…げほっげほっ!甘すぎんだよ!げほっ」

「砂糖の量全般的に増やしたし、蜂蜜もあり得ないくらい使ったからね。じゃないと最後までもたないだろ?」

「だからってやりすぎだっての……」

「じゃあ残せば?」

「食べますけど!その代りお茶頂戴!」


パンケーキを回収しようとするガクをキッチンに押し返し、改めて甘味のモンスターと化したパンケーキに向き合う。

そして一口。甘い。また一口。甘すぎる。さらにもう一口。


「……ぅぷっ」

「さすがにやりすぎたか。はいお茶」


ガクの持って来たお茶を一気に流し込み、何とか逆流を免れた。


「これ、流石に無理かも……」

「じゃあ作り直すか。ぶっ倒れられても困るし、まだ生地余ってるし」

「ああ……ったく、物には限度があんでしょーが」

「はいはい。で、今日は何時に迎えに来るんだ?それによって作るスピード変わるんだけど」

「んー……」


壁の時計は午後2時過ぎを指していた。いつも仕事がある時は、決まってマネージャーが迎えに来ることになっていた。なんでも混乱を防ぐためだとか。


「あと20分後」

「は?微妙に間に合わないんだけど」

「えっ……」


それは非常にマズい事であった。以前食事による補給を抜いて仕事に臨んだ時、危うく変身が解けかけたことがあり、それ故に食事による補給は欠かさずに行っているのだ。


「あんたが最初あんな甘味お化け生み出すからでしょ!?」

「その分今急ピッチで仕上げてるから。何か適当なお菓子でも食べてて」


急ピッチと言うだけあって、コンロの上には2つフライパンが並んでいて、そのどちらにも生地が流し込まれていた。


「相変わらず器用な奴……。お菓子って言ってもなぁ……」


キッチンにある戸棚を開けると、そこにはポテチやら煎餅やら、しょっぱい物ばかりが並んでいた。


「あ、ダメだわこれ……」

「冷蔵庫に板チョコあるから、それ1枚食ってて。それとさ……」

「流石は主夫。それと?」

「魔法使っていいか?味の保証はなくなるけど、おそらく間に合う」

「オッケー、味の考慮はしてよ?あと火事は起こすな」

「わかってるって。……<イグニス>」


ガクがそう唱えた瞬間、コンロの火力が一気に上がり、通常では出しえないほどの強さになった。


「よっと、はい完成。タッパーとかに詰めた方がいいだろ?」

「えっ?うわっもうこんな時間かよ!頼むわ!」


時計は予定時刻の10分前を指している。コウは板チョコの包みを乱暴に剥がし、そのチョコを口にくわえて、これまた乱暴に荷物をバッグに突っ込んだ。


「もう少し丁寧にやれよ。一応アイドルだろ」

「今そんな事言ってる場合じゃないから!パンケーキは!?」

「こちらに。ちゃんと食えよ」

「サンキュ。わかってるって!じゃあいってきまーす!」

「いてらー」


受け取ったタッパーは比較的丁寧にバッグに詰め、勢いよく家から飛び出すコウ。

そんなアイドルらしさのかけらもない、いつも通りの光景を見送り、ガクはやれやれと溜息を吐いた。


「結局、俺まだ昼食えてねーし……あの様子だと、どうせパンケーキも崩れてんだろ」


フライパンを片付けながら、ふといつもより若干黒く見えるコンロに目をやる。


「あの人、さっきの気付いちゃったか……?」


止まっていた手を再び動かし、片づけを再開したその時、キッチンの正面、ダイニングとリビングの先にある、今まで閉まっていた引き戸がゆっくりと開いた。


「ガクくん?」

「……!」




家の近くにあるコンビニ、そこがマネージャーである佐藤敦子サトウアツコとの待ち合わせ場所だった。

結局着いたのは予定時刻の5分後で、コウは見慣れた白い車とその脇に立つ、ダークブラウンの髪を束ねスーツを着こなしている眼鏡の女性を見つけ、駆け寄るとすぐに頭を下げた。


「ごめんなさいアツコさん!お待たせしましたー!」

「いいのよ、まだ全然時間あるし。コウちゃん走って来たんでしょ?少し汗かいてるわよ」

「あっ……」

「とりあえず乗って。ちゃんと汗ふくのよ?ハンカチは……流石に持ってるか」

「はい」


乗るとすぐに車は発車した。

アツコに言われた通り汗を拭き、ついでにと鏡を取り出して顔を確認する。

そこに映っていたのは、顔や髪型こそ変わっていないものの、その眼と髪の色は元の鮮やかな赤紫から、チョコレートの様な焦げ茶の眼と、紅茶の様な赤茶色の毛に変わっていた。

身支度を確認し終え、ふと外に目を移すと、いつもより景色の流れが速い事に気付く。


「すいません……やっぱり、時間ヤバいですよね?」

「大丈夫だって!あたしが個人的に寄りたい所があるから飛ばしてるだけ。行けなくても別に困らないしね」

「そうなんですか?……それにしても、よくマネージャーなんてやってられますよね」


言った瞬間、コウはハッとした。今の発言は自分の世話を焼いてくれいている人に対しては、失礼ではないか?コウは慌てて訂正しようと口を開いた。


「あははっ、本当だよねー。自分でもそう思うよ。多分、あたしがストレス吸収のEVじゃなかったら辞めてただろうねー」


アツコもコウ達と同様に人ではなかった。『ストレス』を吸収するEVで、芸能界は何かとストレスだらけで都合がいいと本人が以前言っていた。

てっきり怒られるか、不機嫌になると思っていたが、予想外れのあっけらかんとした反応に、コウは少し安堵する。それでもやはり失礼だっただろうと、謝ろうと再び口を開いたのだが。


「あの」

「謝らなくていいからね?もう、コウちゃんはガクくん相手だと強気なのに、あたしだと大人しくなっちゃうんだから」

「だって……アツコさん、凄い人ですから。美人だし魔力も強いし、それに……その……」


急に俯いて黙り込んでしまったコウ。アツコはコウが何を言わんとしているのか、なんとなく心当たりはあったが、敢えてそれには触れず、話を変えた。


「もうっ、褒めても何も出ないわよ?いっそぶりっこなんて止めて、そういうありのままのコウちゃんで行ったら?そうすれば、もっとファンも増えて……」

「ダメなんです」

「え?」

「好かれるだけじゃ、ダメなんです。嫌われないと」

「コウちゃん……。ごめんなさい、変な事言っちゃったわね」

「いえ、こちらこそごめんなさい。アツコさんがあたしの事考えて言ってくれてるんだって、わかってますから。勿論、兄の事も」

「……」


煌々と輝いている太陽を見上げながら、コウは首から下げて来た小さな小瓶を、割れないように、だが力強く握りしめた。



閲覧ありがとうございました。次回、同日の時間軸で続きます。

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