注文の多い料理店
職場のお昼は皆さんどうされているでしょうか?
私は、外回りが多いので、その地域のおいしい隠れた名店を探すのが、楽しみになっています。
最近見つけた、美味しいけど、変わった店があったので、思わず載せてみました。
その日は、同僚たちと外回りに出ていたので、運転は任せて、美味しい店はないかと、ネット検索してみたら、近場に海鮮が美味い店があると書き込みがあり、満場一致で行くことになった。
まず、その店の第一印象は、外見が汚く、掘っ立て小屋のような店構えであった。
しかし、こういう店が隠れた名店ではと、期待と不安を感じながら入ってみるのであった。
お店は、私たち以外に誰もいなく、閑散としていた。少し不安になりながらも、内装を見てみると、よくある古い食堂といった感じた。メニューは、そこかしこに書かれており、刺身、丼物、カレーと多岐にわたっていた。
お水を店主である、60代ぐらいの親父さんが持ってくるとぶっきらぼうに「メニューは?」と聞かれたので、私たちは、せかされつつ注文を始めた。
後輩の女の子がまず最初に注文をした。
「天丼でお願いします。」
普通であれば、そこで次の注文なのだが、親父は不機嫌な顔をしながら返事をした。
「刺身は嫌いなのか!天丼は面倒くさいんだよ!!」
親父の突然のお怒りに、後輩含め私たちは唖然とした。
この親父は接客をしっているのだろうか?しかし、後輩は図太く、刺身を頼めと言われたが一言冗談交じりに返事をした。
「最近、刺身に当たってしまって、少し他のが食べたいんですよ。」
すると、親父はすかさず
「そんなの、当たる店で食うから悪いんだよ!」
おっしゃる通りなのか?これは、しょうがないと後輩は、渋々『刺身定食』を頼むのであった。
次に、私の注文の番になり、刺身以外は怒られそうであったが、反応を見たい欲求にかられ店内のメニューを眺めた。何故が、店内には、カレーのメニューが3つ書いてあった。壁に2つと会計のところに1つである。どれも同じカレー。
私は、きっと海鮮の出汁を使ったオススメなのではと、期待を膨らませるのと同時に、カレーだし面倒くないと確信をして注文をした。
「すいません、カレーがかなりプッシュされてますが、オススメなんですか?」
すると、店主はまたも不機嫌な顔をしながら答えた。
「オススメじゃねえよ。ただのレトルトカレーだ。」
斜め上の回答に、隣の同僚が噴き出した。
まさかのレトルト宣言。確かによくみると、他のメニューは1000円ぐらいなのに、カレーだけ500円であった。・・・なぜ載せた?
私も玉砕をして、渋々『刺身となめろう定食』に変更して、食事を待つのであった。
待ってる間、同僚と談笑をしていると、後輩がメニューの下に細かい文字があるのを発見した。
近くでみるとそれぞれのメニューに対して、食べ方のルールが書かれていた。ちなみに私の『刺身となめろう定食』は、先になめろうから食べること、なめろうに醬油をかけてはならないとお触れが出ていた。
なんじゃこりゃ?と同僚と話していると、注文ができたのか親父が食事を持ってきた。
皆の注文がそろい食事をしようとすると、親父が隣の席に座った。
何故?と思いつつも、私はまず初めに味噌汁を飲もうとした瞬間、親父の怒声が聞こえた。
「まずはなめろうから食べろ!そして、醤油はかけるな!」
『なんなんだ、この親父は?』私たちは、のどまで出かかった、言葉を飲み込み、順番通りに食べるのであった。
すると、親父は満足したのか、少しニコニコしながら、身の上話を始めた。店を始めた理由、昔はトラック運転手だったこと。正直どうでもいいし、なめろうに醤油をかけたかったが、食べ終わるまで、隣の席に居るのであった。
しかし、親父の奇行はさておき、評判通り普通に刺身は美味しかった。
私は、満足すると、一応隣に親父がいることだし、感想を言うのであった。
「ここの『刺身となめろう定食』は美味しいですね。」
すると、親父はにこやかに答えた。
「俺は、刺身が嫌いだから、味見をしたことがねえんだよ。」
再度、隣の同僚が噴き出した。
お前は、酒の飲めない酒蔵の社長か!と内心突っ込みを入れつつ店を去るのであった。
後日、職場で店の話題でもちきりになったことで、上司がお昼を食べに行ったらしい。
しかも天丼を怒られても注文したら、なんと注文が通ったとのことだった。
しかし、出てきたのは、刺身と違い、貧相なエビが3本乗った普通の天丼だった。